先生方との相談で、周囲からの刺激を上手に消化

周りの生徒の頑張りは、生徒にとって大きな刺激となり、自分も頑張ろうという気持ちを生み出します。ただし、刺激が自動的に頑張りに転化するわけではなく、刺激を消化するには、先生方をはじめとする周囲との対話(相談)の中で得られる助言が欠かせないことが多いようです。

2021/03/30 公開の記事をアップデートしました。

❏ 刺激を消化して行動につなげるメカニズム

学校評価アンケートの回答を解析してみると、以下の2つの質問の回答は互いに強く連動している様子が窺えます。
「周囲の頑張りに刺激を受けて自分も頑張ることができているか」

「学習や進路の悩みに、先生方は親身になって応じてくれるか」
一見すると、特に関連性はなさそうな2つの質問ですが、周囲からの刺激を正しく消化して具体的で正しい(実現可能で効果的な)行動に結びつけるのには、第三者からの客観的な助言などが有効に作用すると考えれば、両者の間の強い相関にも一定の説明がつきそうです。
下図のような「流れ」の中で考えてみると、「正しい課題形成と具体的な行動、努力」というアウトプットを大きく得るには、周囲からの刺激というインプットを大きくするだけでは不十分であり、途中に挟まっている「消化のメカニズム」を正しく機能させる必要があるはずです。


ここでの「消化」を助けるのが、先生方をはじめとする「信頼できる相手との相談やそこで得られる助言」ということではないでしょうか。
問題を整理したり、複雑に絡み合う要素を分解して個々に対応を考えたりするにも、生徒が自分だけでできることには限界があろうかと。そこで必要なのが、信頼できる相手との対話ということだと思います。

❏ これまでの限界を超えるきっかけは対話の中に

周囲の生徒が頑張っている様子を目にしたとき、自分がこれから取るべき建設的な行動がイメージできれば、ポジティブな感情を携えて努力に向かえるでしょうが、そうならない時が問題です。
中には、自分がどう取り組めばよいのか現実的なところでイメージができず、取り残されたような気持になったり、自己効力感を低下させたりしてしまう生徒もいるかもしれません。
これまでも自分なりに目一杯頑張ってきたとの自覚を持つ生徒が、厳然たる彼我の差に埋めがたいものを見つけて「やっぱり自分には…」などと思い込んでしまっては、高い挑戦意欲を維持するのは難しいはず。
そんな時に、状況を客観的にみて、これまでと違った取り組み/アプローチを一緒に考えてくれる人が周囲にいてくれたら、心強いですよね。
これまでと違うアプローチで/視点を変えて取り組むからこそ、限界と思っていたところを超えていけるのではないでしょうか。
必ずしも「その人」が先生とは限りませんが、すべての生徒が等しく確実なアクセスを持ちえるのは学校の先生以外にいませんし、何よりも、先生方が豊富な指導経験の中で揃えてきた手札は頼りになるはず。
生徒が向き合う課題に対し、先生が直接的な「正解」を持っていない時でも、生徒と先生の対話の中で、課題に整理がついたり、新たな気づきが生まれたりすることもあり、まずは、生徒の相談に真摯に向き合ってじっくりとコミュニケーションを図ることが大事なのだと思います。

❏ 周囲からの刺激(インプット)を増やすことも大事

如上のメカニズムでアウトプットを増やすには、「消化のメカニズム」の機能を高く保つだけでは不十分です。仮に刺激を100%消化できたとしても、入力が小さければ、出てくるものは当然小さくなります。
まずは、生徒の間で刺激が行き交う場をしっかりと作り出していく必要があるのは言うまでもありません。他の生徒のパフォーマンスに触れる機会として、プレゼンテーションや成果発表の機会は不可欠です。

また、せっかく行き交う刺激の材料をスルーさせないよう、生徒の側のセンサーをしっかり働かせ、刺激を漏らすことなく受け止めさせ、記憶から揮発させないようにする仕掛けにも工夫が求められます。

先生方との相談ができないところ(いずれ卒業して手を離れます)でも自力で的確な振り返りができる/課題形成ができるようにすることも、大切な指導目標の一つ。振り返りのための相対化スキルを養うことにもしっかりと計画的に取り組むべきです。

❏ 正しい判断には、十分な正しい知識や情報も不可欠

冒頭で触れたアンケートのデータでは、周囲からの刺激が頑張りに繋がるかどうかは「ガイダンスやオリエンテーションで学習や進路に関する十分な情報と考え方が得られているか」にも左右されています。
採るべき方策、より良いパフォーマンスへのアプローチを考えるときに豊富で正確な情報が欠かせないことは容易に想像がつきますよね。
上図の「メカニズム」が機能するときに参照している情報が、十分な量を備え、整理されているかどうかが問われるということだと思います。
詳しくは別稿「進路関連行事に向けた企画・準備・事前指導」に譲りますが、進路講演などを企画するときに、生徒が行事のひとつひとつにじっくりと向き合える状況を作っておくことにも注力が必要です。



追記 先日、新聞を読んでいてこんな記事を見つけました。学校が「とまった」日―ウィズ・コロナの学びを支える人々の挑戦(東洋館出版)を紹介する記事です。コロナ禍での生徒の学びについての実態調査ですが、ここにも如上のメカニズムが働いていたと考えられそうです。

学習時間の確保に影響を与えた要因を分析すると、休校中の「教員とのコミュニケーション」や、ふだん学校で人間関係を築き、学校生活を楽しんでいるかどうかという「学校での受容感」などが挙がった。人間関係をつくる学校の役割が浮かび上がった。

朝日新聞 2021年3月28日「コロナ禍、学校の役割と新たな姿は

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一