教科学習指導の目標は、教科固有の知識や技能を身につけさせて、使いこなせるようにさせることが第一であるのは言うまでもありませんが、これらを優先させるあまり、学び方を身につけさせたり、学ぶことへの自分の理由を作らせたりするのが疎かになってはいけません。
ここで言う「学び方」とは、知識を獲得する方法だけでなく、体験を構成して理解を形成する方法、協働で課題解決に当たる場面でのふるまい方など、学びの場での行動すべてを広範に含むものとお考え下さい。
学び方を身につけさせることは、即ち学習者としての自立に向かわせること。解決法の定まっていない様々な課題が次から次へと現れる社会を生き抜く力を身につけさせることだと思います。
2017/07/25 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 伝達の効率と学びの大きさは別のもの
単元の内容を効率良く伝えるだけなら、先生側の授業準備で完璧に整えておいたものを教室でプレゼンするのが最も効率的かもしれません。
解説動画を用意し、スマホを使って生徒に自分のペースで視聴させる方が教室での一斉授業よりはるかに効率に勝ることだってあり得ます。
しかしながら、それでは学習の主体である生徒が、自力で物事を理解したり、解法を考えたりする力を養う場面はなくなってしまいます。
学びにおけるインプット(input)とインテイク(intake)のバランスを欠くことも、ここで考慮しておくべき小さからぬ問題です。
また、先生や教科書会社が用意した問いに粛々と答えを導いていくだけでは、問題点に気付き、問いを立てて、それを解決するという経験も積めず、結果的にその方法を学ぶ場を与えられていないことになります。
❏ 対症療法に終始せず、原因を取り除く指導を
知識と技能の獲得だけに目が向いていると、「覚えたかどうか」で生徒の学習の成否を判断しがちです。
ひと通り教えて、「その範囲をちゃんと覚えたかどうか」を試すだけのテストを行って、点数が足りないと補習や再テストで「絆創膏を貼る」ような指導に終始していないでしょうか。
たとえ、ちゃんと覚えたとしても自力でその知識を獲得できるかはわかりませんし、問いに正解できたとしても解法を考え出す方法を身につけているとは限りません。
転んでけがをしたから絆創膏を貼っているだけでは、転ばない歩き方は身につかず、同じような局面ではまた転んで怪我をしそうです。
これと同じことが教科学習指導の場でも起こり得ると考えるべきだと思います。テストできちんと点数が取れなかったとしたら、その原因に立ち戻って、その解消を図らなければ、同じようなことを繰り返します。
先生方からの助言だけでなく、生徒自身の振り返りを通して、学習行動そのものを改善させる(=学び方を学び直す)ことが必要です。
転んだ時に、誰かが引きずり起こしに来る(=補習や再テストに呼び出される)まで自力で立ち上がろうとしない状態で卒業させては、その後の人生を彼らが一人で歩いていけるのか心配です。
❏ 真面目に取り組まなかったことにも「原因」がある
補習や再テストに引っかかった原因を単純に「真面目に取り組まなかったから」と片付けていては、やらなかった/できなかった理由は解消されないままです。当然ながら、また同じことを繰り返します。
やるべきことの優先順位が付けられないのか、時間の管理ができないのか…。あるいは、覚え方そのものが身についておらず、頑張ってもその効率の悪さに達成感を得る前に徒労感を感じてしまうのか。
もしかしたら、内容をきちんと理解させないまま覚えることだけ求めてしまったために、ランダムに並ぶ数字をそのまま覚えるかのような「丸暗記方策」しか使えない状態に生徒が置かれてしまったからかも…。
なぜできなかったのか/どうすればできるのかを、生徒自身が振り返りの中で見つけ出していくことが大切ですが、指導者側でも、様々な仮説を立てながら生徒の行動を観察し、改善の策を考えていきましょう。
❏ 生徒が身に付けた「学び方」を観察する機会を持つ
科目に固有の知識や技能を獲得させることに指導の主眼が偏り、学び方を身に付けさせることがないがしろになっていなかったか、生徒の学習行動を改めてじっくりと観察してみる必要がありそうです。
授業内で予習(授業準備)をシミュレーションする時間を取って生徒の様子を観察してみれば、間違ったやり方を正す機会も得られますし、きちんとできている他の生徒のやり方から学ばせることもできます。
授業中に少し時間を取って、そこまで教えたことの小テストを宣言し、その準備を行わせれば、「覚えるときに取る行動」を生徒一人ひとりについて観察することもできます。(cf. 授業内に行う小テスト)
観察結果に基づくちょっとしたフィードバックだけでも「短時間で集中して覚える方法と習慣」を学ばせることができるかもしれません。
生徒自身に教科書や参照型教材を読ませて、そこで理解したことを言語化させてみれば、必要な情報を拾い上げながらテクストを読む力や、学習型問題で要求される読解力の獲得状況も窺い知ることができます。
❏ 学び方を学び、学ぶことへの自分の理由を持つ
学び方を身につけないまま先に進んで学習内容が高度化すれば、転び方が派手になるばかりだと思います。
絆創膏が効かないほどの大きな傷を負うようになったら、頑張って課題を克服しよう/目標を達成しようとする生徒の気持ちも折れてしまい、そこから先の学びへのモチベーションを失わせかねません。
一つひとつの単元を学ばせ、その内容を理解させると同時に、次のステージに臨む準備を整えさせる(=必要な学習方策をあらかじめ身につけさせておく)ことにも十分な意識を向けて授業をデザインしましょう。
また、生徒の立場で考えてみれば、他人(=教科書会社や教科担当の先生)が作ったタスクをこなすだけでは、学ぶことへの自分の理由を見いだせという方が無理というものです。
自ら問いを立てたり、与えられた問いに仮の答えを作ることから解消すべき疑問、掘り下げたい興味を持たせることに、もっと多くの時間とエネルギーを投じても良いのではないかと思います。
こうしたことがきちんと積み重なってこそ、学習者としての自立や主体性が生まれる(=アクティブ・ラーナーに育つ)のだと思います。
■ ご参考記事:
- 模試の結果を正しく振り返る(学習行動の改善)
- 模試や考査の事後学習~間違え直しだけでは不十分
- 振り返りと行動変容(まとめページ)
- 高校生のタスク管理&スケジューリング
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一