どこに進学させたかよりも、どんな人に育ったか

生徒一人ひとりについて、本人の資質や志向に見合った進路を見つけさせ、それを実現させることは高校の大切な役割ですが、進路先である大学や企業、専門学校にバトンタッチすれば役割を果たしたことになる、というわけではありません。
高校は上級学校などに進むためのステップボードではなく、高校で身につけたもの自体が卒業していく生徒にとって大切なものだと思います。
高校で身につけたものを土台にその先の学習や研究、活動が行われる以上、高校で何を身につけたかは、その生徒が卒業後にどんな成長を遂げ、どんな人物に育っていくかを大きく左右するはずです。

❏ 知識を獲得し、理解を形成する方策

身につけた知識や理解、技能は高ければ、それに越したことはないでしょうが、どんな方法で獲得したかによって小さからぬ違いが生じます。
丁寧に教えてもらえればちゃんと覚えられるという生徒でも、習っていないことを自分で調べたり、既に知っていることを組み合わせたりできるとは限りません。
知らないことに出会ったときに、知ろうとする姿勢を持ち、適切な方法で不明の解消を図れるかどうかは、教室の中での「学ばせ方」によって大きく異なるのではないでしょうか。
教科固有の内容を学ばせるとともに、学び方そのものも学ばせていく必要があると考えます。

❏ 体験の中で学ぶ、「努力→達成→興味」のサイクル

努力して達成した先に興味が生まれることを、経験の中で学んだ生徒は、最初は面白味を感じなかったことであっても、無視や軽視をせずに「取り敢えずやってみよう」と思ってくれます。
その中で、達成に必要なスキルや発想を身につけていくこともあれば、達成した先に新たな世界が開けることもあろうかと思います。
立ち止まっていても景色は変わりませんが、やってみることで想定外のものを得ることがあります。
すべての教科を広く学べる高校は、様々な事柄について、そうした体験を持たせる最適な場のひとつです。
また、学校行事や生徒会活動なども、協働で課題を解決することに楽しさや喜びを見出す好機ではないでしょうか。

❏ 既存の知を疑い、新たな知を作り出す姿勢

権威ある人が書いたものでも、鵜呑みにせずに疑ってみる姿勢もまた、教科学習指導や探究型学習の中で身につけられるものです。
一見すると筋も通っていて、皆が当たり前と思っていることでも、深く思考を巡らせると解決すべき問題を孕んでいるのはよくあることです。
より良く生きるというのは、正しい判断と選択を重ねること。
身の回りのことだって、これで良いのか、もっと合理的な解はないのかと、問いを立ててみることが大切だとも思います。

こうした姿勢を育むには、探究活動は是非とも充実させていきたいところですし、個々の教科を学ぶときにも「自ら問いを立てる」ことを課題とする場面も必要だと思います。

❏ 学んでみたい、やってみたいこと、自己肯定感

学んでみたいことややってみたいことがあると、それだけでも行動は積極的になりますし、目標を持つことが更なる頑張りを引き出してくれることもあります。
不確定な社会にあって、具体的な職業を目標にするのが必ずしも正解とは言えません。
しかしながら、少なくとも興味の持てることがあり、それを通して社会とつながりを持ちたいと思えることは、少々の苦難なら乗り越えるエネルギーになるのではないでしょうか。

また、頑張って何かを達成した経験は、自己肯定感を高めてくれます。何かにトライする前から、「どうせ…」とあきらめてしまうことを習慣にしては、世界は狭いままであり、自分も成長できません。
学校生活の中で、そうした達成感を積み上げていくことにも、十分な教育リソースを投じて行きたいところです。



蛇足ながら、先月半ばの日経ビジネスに「新説 人は高校時代が9割」という記事がありました。記事はこんなリードから始まっています。

大学の画一化と高校の多様化で、「出身高校こそ人材を見抜く鍵」との声が高まっている。生物学の視点で見ても「人は高校時代が9割」との仮説には裏付けがある。仮説が正しければ、企業を悩ます「一流大でもダメ社員」が生まれる背景も見えてくる。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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