生徒は学び方をどこまで身につけているか

授業の予復習を含めて、生徒に課題を与えて取り組ませていくとき、その課題にしっかりと取り組めるだけのレディネスが生徒に備わっているか、しっかり確認しておくことが大切なのは言うまでもありません。
既に出来るようになっていることはもちろん、もう少しで出来そうなことを「不用意に肩代わりしない」ようにしたいもの。できることはどんどんやらせる~生徒の邪魔をしないことは指導を行う上での鉄則です。
しかしながら、ただやらせているだけでは、正しくやり方を身につけてくれるとは限りません。生徒がやっていることをじっくりと観察した上で、正しいやり方を学ぶ入り口まではきちんと誘導しましょう。

2018/02/22 公開の記事をアップデートしました。

❏ 例えば、辞書の使い方ひとつをとっても

例えば、英語の授業で「本文を読んで、わからない単語は辞書で調べておくこと」という予習の指示を出しているとして、生徒はどこまで対応できているでしょうか。
実際の教室で授業を参観させていただいていると、生徒の様子や予習してきたノートを観て、「あれっ?」と思うことが少なくありません。
英文の構造把握もそこそこに、辞書を引いて最初に出てきた太字の訳語を組み合わせて、怪しげな訳文を「創作」している生徒もいます。
文法知識を駆使して構造を把握する方法を学ばせ、教室で一緒に辞書を開き、その使い方を学ばせる機会がこれまでなかったせいでしょう。
先生から「文脈からこの訳語だね」と説明されたところで、それは「後付け」です。文脈とは何かを学んでいなければ、生徒は訳語を選ぶのに直観以外に頼るものを持たず、「辞書を引いても自力で英文の意味が取れない」という自己イメージを固めて行くばかりではないでしょうか。

❏ 生徒が自力で学ぶのに必要なことを学ばせる

辞書から情報を得る「プロセス」への習熟を図らず、「結果」として選んだ「その文脈に相応しい訳語」を教えるだけでは、いつまでたっても生徒は辞書を使って初見の英文を理解する力を身につけられません。
生徒が自力でできるようになって欲しいことは、できるようになるまでどんどんやらせるべきです。
正解を示して納得させること(如上の「後付け説明」など)の繰り返しでは、生徒は「できるようになるために踏むべきプロセス」を踏ませてもらえないことになってしまいます。

最初の段階ではきちんと手順を示し、真似をさせながら方法への習熟を図り、徐々に手放すという「段階性をもった指導」を行わなければ、必要なスキルも身についていきません。
予習プリントに載せた新出語句リストの穴埋めをさせてきて、その答え合わせをしている光景も見かけますが、先生が提示した「正解」を生徒がプリントに書き込んでいるだけでは、辞書の引き方は何一つ学んでいないことにならないでしょうか。
初見の単語に限らず、何かを調べさせているときには、生徒がどうやっているか様子を観察する機会を持ちましょう。未習の語彙を含んだ初見の英文を提示して意味を考えさせ、その場で辞書を引くように仕向ければ、行動を観察する機会は簡単に作れます。
他教科でも、調べ学習などの課題を与え、図書室やパソコン室を開放しておけば、どんな行動にでるか把握ができます。
こうした場を作って「生徒は現時点でどんなことが出来て、何がまだ出来ないのか」を把握してこそ、これからの指導をどう進めていくべきか適切な設計により近づくことができるはずです。

❏ 与えるタスクに対するレディネスをまずは確認

教室での対面での学びを充実させようとすれば、自ずと授業外に切り出すタスクが生じます。家庭学習の充実はこれまで以上に重要です。

しかしながら、正しい方法を身につけていない生徒にタスクを課したところで、抜け道を探した生徒が間違った方法(例えば、ネットで全訳を見つけて丸写し、など)に染まっていくばかりです。
これでは学びを歪めるばかりで、得るものはわずかです。英語の授業を例に挙げましたが、どの教科でも同じようなことが起こるはずです。
教科書を読んでくる/問題を解いてくるといった、先生方には「当たり前」に思えるタスクも、正しいやり方を知らない生徒にとっては戸惑いを感じたり、取り組んでも学びの実感が得られなかったりします。
シラバスや授業開きで配られたプリントなどを見ると「指定した範囲を予習してくること」としか書かれていないこともあります。「予習をする」とは何をどうすることか、先生がイメージしていることと生徒が考えていることは一致しているでしょうか。
教室を離れた(=先生のリアルタイムでの観察が届かない)場所で生徒にやらせたいことは、まずは教室の中でやらせてみて、どんなことならどこまでできるのか、しっかりと見極めるようにしましょう。
もう出来るようになっていることなら、くどくど言ってやらせる必要もないはず。守破離の「守」を既に通過した生徒を足止めしては、学習者としての成長を止めてしまう/遅らせてしまうばかりです。



まもなく4月。これまで教えていなかった生徒が教室に顔を並べます。
前年度の成績や入試のスコアを手掛かりに「結果学力」をある程度まで把握しても、それだけでは、生徒がこれまでにどのような方法で勉強してきたか、どんな学び方を身につけているかは想像の域を超えません。
これまでの指導経験の中で先生方が培った「予測」も、新課程への移行を控えて様々な場所で「学ばせ方」が変わってきている以上、外れることが多くなるのではないでしょうか。
授業開きからしばらくの間は、「やらせてみて観察する」ということに力点を置き、年度末までに作った指導計画にどんな修正が必要か、できるだけ早いタイミングでの把握を心掛ける必要があるはずです。
■関連記事:

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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