できることはどんどんやらせる~生徒の邪魔をしない

先生が先回り/肩代わりせずとも、生徒にやらせてみればできることはどんどんやらせるべきだと思います。
現時点では少しばかり生徒の手に余るようなことでも、「できるようになってもらいたいこと」なら、トライさせることなしに、出来るようになるチャンスを奪ってしまうようなことは、努々慎みたいところ。
教科書や参考書に書かれていることだって生徒に自力で読ませれば理解できるはずですし、もしできない生徒がいたとしたら、やらせてできるようにさせなければ、学校を出てから困るのは生徒自身です。
問題演習などに取り組ませているときだって、「まわりにちょっと訊けば先に進むことができる」のに、「静かに黙って頑張りなさい」という先生方の指示が、先に学びを進めるのを邪魔しているかも。
理解の早い生徒に対しても、先の学びにチャレンジする課題を示さなければ、その成長に間接的な「ブレーキ」をかけていることになります。
生徒の持ち時間を埋め尽くすほどの課題を与えることも、自らの学びを計画し、実行していく力の獲得を邪魔している可能性があります。

2016/02/12 に公開した記事を再アップデートしました。

自ら学び続けられる生徒を育てることはあらゆる指導場面での優先目標です。生徒にやれることを先生が不用意に先回しては、主体的・積極的に学ぶ姿勢と方法を獲得するチャンスを生徒から奪ってしまいます。

❏ 読めばわかることを、話して聞かせる必要があるのか?

教科書や参考書は、「生徒が読んでわかる」ように書かれています。それを敢えて読ませずに、先生が解説して理解させるのは、読んで理解する(必要な情報を集めて知に編む)力の獲得を阻害します。
稀にではありますが、「教科書と同じ問題を授業で解説すると生徒がきちんと話を聞かないから、別の問題を扱うようにしている」と仰る先生がいらっしゃいますが、なんだか本末転倒な気がします。
副教材(参考書や用語集)に書かれていることも、そこに掲載されている事柄を尋ねる「問い掛け」を行って、該当ページを生徒が開いて読むように仕向けた方が、読んで理解する力の育成に有利なはずです。
もし、読んでわかった気になっているだけで、見落したり誤解していたりするところがありそうなら、問い掛けやツッコミ(逆質問)でそこに意識を向けさせれば良いだけの話です。
ときには「わざと間違えた発言をして、書かれていることとの矛盾に気づかせる」という奇手だって(頻用は危険ですが)効果を得るかも。
そもそも、話を聞いて理解するのでは、相手の話すスピードに合わせるしかなく、ある生徒には早すぎ、別の生徒には遅すぎるもの。こぼれた情報を集め直す「返り読み」もできません。
生徒が個々の学習活動でカバーできるところと、対面でしかできないところの切り分けは授業デザインの肝ですが、前者を大きくしていけば、授業時間のより多くを後者に充てることができるようになります。
プリントなどに印刷された手順の説明やルールは読んで理解させることだって、大事なトレーニングの機会です。
もし本当に、理解させるのに「先生の話を聞かせる」という選択肢しかないというなら、自力で読めるようになるためのトレーニング機会をそれまで十分に整えてこなかったことを大いに省みるべきだと思います。

❏ どの生徒にも無駄な時間を過ごさせない方法を考える

クラス内には、ひとりでは理解できない生徒もいれば、短時間に解説を理解してどんどん先に進められる生徒もいるはずです。
どちらの生徒にも「やることがない時間」(≒先生が活動を止めさせている時間)を作らせないようにするのが指導者の腕の見せ所です。
たとえば、例題の解説を各自で読ませ、理解できたら類題に進ませる場合、理解の早い生徒はあっという間に類題を解き終えて手持無沙汰、遅い生徒は例題の解説で立ち往生というのもよくある光景です。
早い生徒のために類題を解き終えた後のオプションを用意しておくことや、理解に躓く生徒のために、「わからなかったら周りに訊いてもかまわないよ」と付け加えておくだけでも状況は大きく変わります。
静かに集中して一人で頑張るというルールでは、自力で理解できない/問題を解けない生徒にとって、あまり楽しくない時間です。
机間指導中の先生がそばに来てくれれば教えてもらえるとしても、自分に順番が回ってくるまでフリーズしているだけです。アシスタントが付こうが、少人数クラスであろうが、程度の差はあれ同じことです。

❏ 周りに訊くという”選択”を封じることが学びを妨害

ちょっと訊ければ手がかりを得て先に進めるのに、それすらできない雰囲気だとしたら…。何もできずに過ごすのは短時間でも苦痛です。
必要な知識や情報の所在に当たりをつけて、自分からそれにアクセスする(一番シンプルな形態が、「わかっていそうな友達に訊く」です)という行動は、学習のみならず生きる上でも必要なすべです。
クラスの中には周りへの遠慮なのか、尋ねることを躊躇う生徒もいるかと思いますが、そうした場面の経験を積ませて、「周囲に尋ねる/助けを求める」姿勢と方法も学ばせたいところ。
先生からの「黙って頑張りなさい」という指示で、それが許されないような雰囲気にしてしまっては、単元内容の理解にも、学びの方策の一つである「尋ねる力」の獲得にもブレーキがかかってしまいます。
わからないことがあったら、何を調べても良いし、周りに訊いても構わないというルールの方が、学びの環境としては好適だと思います。

先生が机間指導でケアしなければならない生徒はだいぶ減り、本当にケアが必要な生徒にしっかりと手が回るようにもなるはずです。

❏ さっさと理解してどんどん先に進める生徒には…

理解が早い/既にわかっている生徒は、さっさと類題をすませ、演習問題へ、さらには章末問題へとどんどん進ませましょう。
それでも手空き時間が残るなら、他の宿題(週末課題や他教科のものも含めて)や探究活動のための調べ学習をしても良いはず。「何もせずに時間を無駄に過ごす」よりはるかにましではないでしょうか。
先生が、「探究から進路へのきっかけを作るプラスα の一問」をきちんと用意してあげれば、それに取り組み学びを深めるチャンスも得ます。
学びを先に進められるのに無為に立ち止まっている生徒に対して、何も声を掛けないでいるのは間接的にブレーキをかけているのと同じです。
また、わからないでいる周囲の生徒からの質問にも積極的に応じるようにさせるのも好適です。
他人に教えるという行為は、理解の深化という自分のメリットにもなりますし、教えたことで相手が浮かべた笑顔や「ありがとう」 を通して、互恵というものに気づいてくれたら何よりですよね。

❏ 生徒の持ち時間を埋め尽くすほどの課題を与えると

何の課題も与えずに放っておくと生徒は勉強しないはずと、ついつい思ってしまいます。
実際にそうかもしれませんが、生徒の持ち時間を埋め尽くすほどの課題を与え続けていると、生徒は自分の学習を計画(やるべきことを選んで持ち時間の中に配列)して実行していく姿勢と方法を学べません。
中には、定期考査前に「対策プリント」なるものまで配っているケースも。ちゃんと準備して試験に臨んで欲しいという親心でしょうか。
しかしながら、行き過ぎたガイドは、学びの主体性や自立性の獲得を妨げ、「言われたことだけやれば良い」という誤解を与えます。
試験範囲も決まっており、既に教わっていることの復習(仕上げと再記銘)ですから、どこに穴が残っているかは生徒自身で見つけられるはずであり、見つけられなければならないはずです。
模擬試験に向けての準備や、長期休業期間中の宿題にしても、生徒が選択・工夫する余地を一定水準は残してあげるようにしましょう。
言うまでもなく「メタ認知・適応的学習力」は21世紀型能力が規定する「思考力」の一要素。現時点までの自分の取り組みと成果を振り返りより良いパフォーマンスのために何をどう学んでいくかは、生徒自身に考えさせるべきですし、考えられるように導いていく必要があります。

❏ 躓くのではないかとの不安を抑えてチャレンジさせる

過度なガイドが、生徒が必要な能力・資質を獲得するのを妨げる可能性があることを、指導に当たる先生方は忘れてはならないと思います。
きちんと教えてあげないと/しっかりガイドしてあげないと、生徒が躓いてしまうという先生ご自身の不安を抑えて、まずは生徒の可能性を信じてやらせてみましょう。
安全が確保されたところでの失敗は、メタ認知・適応的学習力の獲得チャンス。指導者が不安に負けずに、教えること/ガイドすることをどこまで我慢できるかは、生徒がどこまで自力でできることを増やせるかを大きく左右すると思います。
重ねてで恐縮ですが、学ぶ姿勢や学習の方策を身につけることも、学ぶことの目的の一つです。そのチャンスを奪わないよう、「不用意な肩代わり」をしていないか、常に振り返ってみる必要があると思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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