次のステージ(進級後の学び)に向かう準備は整っているか

年度末に向けて、来年度の指導計画作りが進んでいると思います。模試成績や受験結果の検討会などを経て進級後の学びを妨げかねない問題が見つかることもあれば、一年間の成績伸長からは「前学年での躓きが原因となって成績伸長を妨げた」との反省がなされるケースもあります。
こうして発見された課題に対して有効な対策を講じることができるかどうかが問われるところ。反省は行動に繋げてこそ意味を持ちます。次のステージ(進級後の学び)に向かう準備を整える対策としては、以下の3つに大きく分けることができると思います。

  1. 対象の生徒が学習方策や汎用スキルをどこまで獲得しているか点検し、それを前提とした授業展開を策定する(指導計画の修正)
  2. 不足しているものを補完するための指導機会、あるいは生徒自身がそれらを補い得る場面を整備する(当座のケア/補完指導)
  3. 今年度の生徒に不足したものを明確にし、その獲得を次学年への指導における重点目標の一つに加える(次年度に同じ轍を踏まない)

それぞれの課題に対してどんなアプローチを取るか/3つのうちどれをメインとするか、しっかり考えて効率的に対策を進めていきましょう。cf. ゼロ学期を迎えるに当たり~指導計画作りへの下準備

❏ 不足しているのは、知識や技能だけではない

ある時期に身につけるべき教科固有の知識や技能が欠落すると、その後の学習の大きな妨げになるのは明らかですが、それ以上に大きな問題となり得るのが「学び方への未習熟」だと思います。
学び方には、各教科/科目に固有の「課題への取り組み方」や、対象のより広い「タスクマネジメントのスキル」などが含まれます。
加えて、各単元の内容を学ぶことを手段に獲得した、言語、数量、情報の各スキルからなる「基礎力」や、問題発見・解決力などの「思考力」も次のステージでの学びの土台を形成する要素です。
これらにも十分な意識を向けて指導と観察をすすめないと、知識や技能の不足を補うためのその場のケア(補習や再学習=多くは後手に回ります)に終始し、根っこの問題を放置することにもなりかねません。
転んでケガをしたらシップや絆創膏が必要ですが、転ばない走り方やケガをしない柔軟性を身につけるプログラムがなければ、同じこと(転倒やケガ)を繰り返します。勉強も同じではないでしょうか。
学び方への未習熟は、答案などの形で出てきたものだけでは窺い知れない部分を含んでいますので、模試や定期考査の成績といった結果の数字だけ見ていても、見落とすものがあるはずです。
普段の予習や復習でも、先生方が想定/期待しているのとは違った(=誤った)学び方や取り組み方をしていないか、観察を通じて、常に把握する必要があると考えます。

❏ 目の前で「予習」をさせてみてはじめて気づくこと

教室内で、つまりは先生の目が届くところで、実際に予習をさせてみたり、課題に取り組ませてみたりすることではじめて見いだせる「学び方における問題点」も少なくありません。
例えば、英語で知らない単語に出くわしたとき、構造に注意を払わず、辞書を開いて最初の太字を拾い上げているだけの生徒もいます。これでは、辞書を使っても初見の英文を正しく読めるようになりません。
文脈(意味的なものではなく、並列や言い換えなど観察可能な構造的なもの)に照らして意味を類推してから辞書を開く習慣も欲しいところ。
他教科でも、わからないことがあっても参照型副教材を開いてみることすらなく、学びがその場で止まっている生徒もいるかもしれません。
どんな学び方をしているかは、日々の授業のやり取り(発問と観察)を通じて点検と育成はできますが、生徒一人ひとりが自力で学ぶときの行動を観察してみると、さらに正確な把握ができると思います。
次の年度(進級後の学年)にバトンを正しく渡すためにも、ゼロ学期のうちにきちんと観察を行い、冒頭の2.をしっかりと実行しましょう。
あらゆる指導は、現状とゴール(到達目標)を結ぶために行うものである以上、生徒が何をどこまでできるのかを正確に把握することは、その先の指導の適切な設計(冒頭の1.の実現)ための前提条件です。

❏ できないことは、やらせながらできるようにさせる

ある時点で生徒が十分にできないことを、「仕方がないよね」と受け入れて(諦めて)しまっては、次のステージに学びは進められません。
代替策を講じてその場の指導を成立させるだけでは、「できるようにすべきこと」から目を背けていることになり、実現は遠のくばかりです。

ずるずると卒業後まで先延ばししては、十分な備えを整えさせることなしに、上級学校や社会に送り出してしまうことになりかねません。
冒頭に並べた3つの対策のうち、2番目に置いた「不足しているものを補完するための指導機会、あるいは生徒自身がそれらを補い得る場面を整備する」ことの必要性はここから生じるものだと思います。
授業内での指導を重ねることで十分に獲得させられるめどが立つなら、じっくりと構えるという戦略もありますが、どこかで集中的に補完を図った方が良いものもあるはずです。
両者をきちんと切り分けて、それぞれに相応しい指導計画を立てましょう。初めて求めることに生徒は戸惑いを見せるかもしれませんが、やらせてこそ身につくものです。cf. 新しいことに生徒が戸惑いを見せても

❏ 日々の学習に加えて、中長期にまたがるタスク管理も

日々の予習復習はそれなりにこなせても、長期休業期間中など、一定の期間を通して進める課題を計画的にこなしていけない生徒もいます。
タスクマネジメントは以下の3つの要素で構成されますが、中長期的な課題の履行が苦手な生徒が抱える弱点はそれぞれです。

  • やるべきこと(タスク)をピックアップする
  • 持ち時間の中にタスクをレイアウトして計画を作る
  • その計画を(他の誘惑に負けずに)実行する

課題の履行率が低い生徒/おざなりにしてしまう生徒を「ひと括り」にして勤勉さの不足を責めるでのはなく、どこに弱点を抱えているか見極めて助言したり、振り返りを通じて本人に気づかせたりしましょう。
期限通りに提出しなさいというプレッシャーをかけ、未履行者にペナルティを課したりするだけでは、根っこの問題(弱点)は放置されたままになるかも。中長期のタスクをマネジメントする力の獲得は確かなものになりません。
受験期を迎えれば、生徒はそれぞれの計画にそって自分の学び(受験準備)をマネジメントしなければなりませんし、上級学校や社会に出てもそのスキルは生きていくための大事な土台になるはずです。
春夏冬の長期休業期間に「ぶっつけ本番」で履行期限の長い課題に挑ませても、「やっぱり駄目だった」との結末も想定されます。平常授業期に、一定の期間を設けたタスクを与えて練習の機会を作ってあげたり、春休みや大型連休に「タスクマネジメントのスキル向上」を目的とした課題に取り組ませましょう。

❏ 学びが次のステージに進むたびに、できることを確認

別稿「授業開き/オリエンテーション」でも書いたことですが、学年が上がったり、長期休暇を挟んで新しい学期を迎えたりして、学びが新しいステージに進むときは、何はさておき、「その時点で生徒が何をどこまでできるようになっているか」を把握することに注力しましょう。
新入生を迎えたときのみならず、進級を機に授業担当の先生が変わるときには特に注意が必要です。身につけている学習方策は、その生徒がそれまでに経験してきた学び(学習履歴)で大きく変わります。
これまで他人が作ったプログラムや指示に従うだけだった生徒もいるかもしれません。自分なりの学び方を作り上げる中で「工夫の仕方」を獲得してきた生徒とは、適応力に大きな隔たりが想像されます。
先生方ご自身がどんな指導を展開しようとしているか、その指導を成立させるために「前提」として考えていることは何かに照らして、生徒の学習行動を観察・評価する機会を整え、新しいタームを迎えましょう。
新入生については、入学試験でフィルターを掛けたのは、所謂「結果学力」だけです。新しい教室に迎え入れた段階で、学び方そのものを観察し、これからの学びに必要なものとの差分を明らかにすることが、指導のスタートです。cf. 指導の成果を確かなものに~新入生を迎えるとき
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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