科目への意識姿勢~得意と答える生徒を増やす

同じ教材で同じ指導をしていても、得意・苦手の分布はクラスによって異なります。学習履歴の中で積まれた成功体験や獲得している学習方策によって感じ取り方が違うためです。
得意寄りに分布が偏るクラスでは、より高度な課題を与えて達成感をより強固なものにする一方、苦手意識が優位なクラスでは課題のスモールステップ化や集団知の活用で成功体験を積み上げさせていきましょう。
学習指導を重ねるうちに、この質問で「得意」と答える生徒が増えてきたら、それはまさに指導の成果ではないでしょうか。
得意の中には興味も生まれ、その先には進路意識の芽生えも期待できます。アンケートごとに回答分布の変化に着目したいものです。

2015/05/21 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 目指すべき到達水準は維持し、登らせ方を変える

苦手意識が優位なクラスでは、課題の難易度を抑えたり、授業の進め方をゆっくりにしたりするのが一般的ですが、必ずしも期待通りの改善効果は得られません。
簡単なことを繰り返しても達成感は希薄になりますし、易しいこと、限定された条件下でしか通用しない学び方になりがちで、いつまでたっても負荷を高めるチャンスを逸します。

ある時期に意図的に難易度を下げると、次のステップに進んで乗り越えるべき「段差」が大きくなり、躓きの原因を作るリスクも高まります。
苦手意識の正体は、「何をやろうとしているかわからない」ことである場合が少なくありません。明確な目標提示が苦手意識を抑制することを示すデータもあります。
学びを経て解を導くべき具体的な課題を導入フェイズで示しておくことで、これから学ぼうとしていることが何か/どこに繋がるのかをしっかりと伝えましょう。(cf. 学習目標は解くべき課題で示す

❏ 発問によって課題解決の工程を分割する

解を導くまでの過程をイメージできないと、どこから手を付けて良いかわかりません。これも苦手とする生徒の特長です。
いちどに飛び越えるハードルが高すぎるのなら、ワンステップずづ問いかけて課題を分割し、小さなハードルに組み替えるのが好適です。

スモールステップを一段ずつしっかり登らせていくことで躓きを小さくしつつ、最終的に到達できる地点を低くしないようにしましょう。
ところどころで立ち止まり、そこまでの理解を話し合わせて確認させることなどで、「踊り場」を作ってあげることも大切です。

❏ 導入時の復習は問い掛けて教科書・ノートを開かせる

苦手意識を持つ生徒は、「しっかり土台が固まっていない上に、新たなことを乗っけられること」 に不安を覚えます。
周囲はちゃんとわかっているのに自分だけわかっていないと感じては、出遅れ感や無力感が学びに対する姿勢を消極的にします。
本時の学びの前提になる事柄は、導入フェイズできちんと押さえ直すことが大事ですが、教え直しは効果が薄く、時間の無駄にも繋がります。

既習内容は一つひとつ問い掛けながら教科書やノートの該当箇所を開かせ、生徒自身に読ませた上で書かれていることを言語化させましょう。復習と同時に、不明が生じた場合に参照すべき箇所の確認もできます。

❏ 協働による知識や学習方策の補完~互恵関係の形成

別稿「活動性が苦手意識を抑制する機能とその限界」の通り、教え合いや学び合いは、負荷の上昇に伴う苦手意識の増大を抑制します。
教える側に回った生徒にしても、教えることを通じて、あいまいだった理解をより確実な理解に組み替えられるメリットがあります。
また、協働での課題解決体験を通し、「みんなで知恵と知識を持ち寄れば、一人で解決できない課題にも対応できる」ことを学ぶのは、協働の大切さを知らしめる絶好の機会です。
相互啓発を働かせるとともに、互恵意識で結ぶ学びのコミュニティを形成するには、こうした場を重ねていくことが重要です。

❏ 不明解消の拠り所~参照型教材を使い倒す

難しい課題に挑んではじき返されたとしても、「こうやればなんとかなりそうだ」と思えれば、苦手とは感じません。
授業中でも、わからないことが出てきたときにその場で調べる方法を持てば、理解をあきらめずに済みます。
主教材を学ぶときに、使い倒すぐらいの勢いで徹底的に参照型教材を開かせるようにする中で、生徒は「なるほど、わからないことがあってもこうやって調べれば良いのか」と学んで行きます。

❏ 苦手とする生徒の対応にばかり偏らない

苦手意識を持つ生徒がいると、どうしてもその生徒のケアに意識とエネルギーを取られます。
問いに答えられず/課題に取り組めずに窮している生徒に対応している間にも、伸びる可能性をもった生徒を放置してはいけません。
教室にはその科目が得意な生徒、意欲的に頑張る生徒、進路に直結し得る興味・関心を抱いている生徒もいます。
指名する生徒を選ぶときにもきちんと手順を踏まないと、他の生徒を巻き込んで学びを止めてしまうリスクを抱えます。
クラス内に学力差が大きくなりだしたら、どの生徒も状況に応じた進歩を積めるよう、一つの課題からも複線的なハードルを設けるなどの対処に加えて、上位生が学びを止めないための任意課題を用意することにも十分な意識を向けていきましょう。

❏ 苦手意識が増える時期を見越した指導計画作り

授業評価アンケートを定期的に且つ全学年で行っていれば、どの学年・学期で、苦手意識を持つ生徒の割合が増え始めるか傾向をつかむことができます。(cf. 学習内容の難しさと苦手意識
教科ごとの集計で、毎年同じ時期に同じような変化が繰り返し見られることも少なくありません。
その時期の指導計画に「学び直し」の機会を組み込んだり、時間を遡って関連単元を学ぶときの指導を改善したりと、傾向を把握しておけば、あらかじめ打つべき手も見えてくるのではないでしょうか。

❏ 苦手意識は、成績の下降に先行して発生する

成績が同じであっても、学習方策を身につけて伸びてきている生徒もいれば、過去の蓄積だけで成績を維持している生徒もいます。
テストの点数で把握できる「現在位置」だけでは、今後の変化(成績動向)を的確に予想することはできません。
難しいと感じ始めると暫くして苦手意識が生まれ、学習から遠ざかり、それまでの貯金を吐き出してやがては成績が下降線をたどり始めます。
こうしたタイムラグをもって生じる変化の予兆を捕まえるためにも、生徒自身による得意・不得意の意識を尋ねることや、教科・科目ごとの学習時間を把握することには意味があります。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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