成果発表会の“成果”(その1)

機会あるごとに、各地の学校での探究活動/課題研究の発表会を参観させていただいております。プレゼンやポスターからは、生徒一人ひとりの頑張りや先生方がご指導に凝らした工夫の成果が伝わってきます。
活動を通して得たもの(テーマに関する新たな知見のみならず、探究を進める上で必要なスキルや姿勢も含めて)を発表するのは、成果をまとめて、確かなものにする「仕上げ」のためですが、さらに大きな成果をより広い範囲に届けるには、発表会のあり方(目的の置き方、進め方)について、もう一歩踏み込んで考えてみる必要があろうかと思います。

2016/10/06 公開の記事をアップデートしました。

❏ 成果発表会で目指した教育成果は何か?

探究活動/課題研究の成果発表会は、長期間にわたって取り組んできたことの締めくくりとしての単なるセレモニーではないはずです。
もちろん、成果を発表する機会が控えていることで、取り組みに意欲を持たせる効果も期待できますし、頑張ってきた生徒には、多くの人の目に触れて評価を得ることで、努力と苦労が報われる場になります。
しかしながら、「教育機会としての成果発表会」と考えれば、目指すべきところ(目的)は別にもあると考えるべきではないでしょうか。

  • 発表を行った生徒たちにとっては、他の生徒の取り組みを改めて知ることでの相互啓発の機会
  • 後輩学年にとっては、先輩たちが残した成果と反省から、自分自身の取り組みに考えを巡らせる場
  • 先生方にとっては指導を振り返り、次年度以降の指導をより良いものにするための課題形成の場

当該学年の生徒には、他の生徒の成果に触れて、「こんな世界もあるのか」と興味・関心を押し広げる機会にもなろうかと思いますし、彼我の取り組みの違いを知り、自分の取り組みを改めて振り返る中で、進学後などの次のチャレンジでの課題を見つけて欲しいところ。

後輩学年には、先輩たちが探究活動を経験する中で学んだもの、残してくれたもの(反省と課題も含みます)をしっかり引き継いでもらう必要があるはずです。
先輩たちの発表を見る/聴くときには、「反面教師」も混ざっている可能性を踏まえた上で、次年度の自分の取り組みをそこに重ねさせたいところです。加えて、発表内容に問いを立てて見れば、テーマ探しの起点にもなるはず。そうした目的意識を持って発表会を参観させましょう。

先生方にとっては、これまでの指導を振り返って指導改善の課題を形成する場、次年度に引き継ぐべきノウハウを余さず抽出・共有する場であることは、別稿でも書いた通りです。
成果発表会の「成果」をより大きなものにしていくには、その企画・運営において、こうした対象毎の「目的」を明確にして臨む/臨ませることができていたか、どこかで点検が必要だと思います。

❏ 探究の方策/アプローチを互いに学び合う場として

これまで参観させていただいた成果発表会では、面白いテーマを見つけて意欲的に取り組んでいたケースでも、探究という活動の手法そのものには、生徒によってだいぶ大きな違いが見て取れました。
探究プログラムの進め方に関するガイド(書籍、資料)を用意して生徒に学ばせたとしても、選んだテーマによってはそこに書かれていることが上手くはまるとは限らないことも、その原因の一つかと思います。
様々なテーマに生徒が取り組んだ成果も「教材」(好ましい例もあれば避けるべき例も含んだ)に活用して、ガイドの記述を補完しましょう。
例えば、ある学校の発表会では、ディズニー映画の変遷を、登場人物の類型をパラメータに、その分布の変化を時代背景(社会の価値観)と関連付けて説明を試みていた生徒がいました。
この発表を見た生徒たちは、一つのフレームとして分類的アプローチを知ったはずであり、別のテーマに取り組むときも参考になりそうです。
これ以外にも、概説的にまとめられた探究活動のガイド本には記述がないような、生徒の柔軟な発想から生まれたユニーク且つ合理的な手法の数々に、各地の発表会を尋ねていると出会うこと度々です。
その一方、「これはやっちゃだめ」という典型的な例も少なからず見受けられますが、どう改めるべきか、どうアプローチすべきだったかを講評などを通じて伝えれば、これもまた有為な学びの場になります。

❏ 先輩が明らかにした先を見たい気持ちも学びの動機に

ある生徒の課題研究が、何らかの問題を未解決のまま残したら、それ自体が次の学年の生徒にとっては研究テーマにもなり得るはずです。
仮説を検証する材料をより広く集めて仮説のブラッシュアップを試みたり、反証を見つけて新たな考察を展開したり、引き継いだことによってできることは少なくありません。
そもそも、大学などでの研究も、そうしたものであるはず。先人の研究に触れて、自分もそれを学んでみたい、その先を見てみたいという意欲が、研究動機の少なくとも一部を形成しているはずです。
そんなふうに一つのテーマを、世代が引き継ぎながら深めたり多角的に捉え直したりしながら、展開していったらとても面白い気がします。
こうした「成果」を得るには、先輩たちの発表の中に、未解決の課題は残っていないか、証明や説明に不備はないかという目で、発表を見る/聴く姿勢が必要であり、その姿勢を持たせる指導が事前に行われたかが問われることは申し上げるまでもありません。

プレゼンの見事さに感心するばかりでなく、ツッコミの余地がないか、質問を考えながら発表を見る/聴くように意識づけておきましょう。
ある学年の生徒が研究テーマを決めるときに、前年度までの生徒が残した冊子やポスターに目を通すのはとても有意義なことだと思います。
しかしながら、生徒は自分で独自にテーマを決めたいのか、先生方がそうさせているのか、先輩の研究成果を引き受けて未解決の課題に新たなアプローチを試みるという選択はあまり見られません。
せっかくの成果発表会。次の学年の生徒には自分のテーマを考えるための横断的体験の場として臨ませたいものです。
成果発表会を終えたときに、探究活動への意欲や、進路意識(=大学で何を学びたいのか、学んだことを通じて社会とどう関わりたいのか)に変化が生じた生徒もいるかも(いて欲しい!)。
発表会後に生徒が残したリフレクション・ログにどんなことが書いてあるかしっかりと目を通し、発表会がどのような成果を得たか、きちんと点検して、反省点などは次の機会に活かしていきたいところです。
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その2に続く

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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