成果発表会の“成果”(その2)

前稿(その1)でも書いた通り、課題研究/探究活動の成果発表会は、次学年に多くのものを引き継ぐための教育機会です。先輩学年が考察を重ねてもなお残った未解決の課題は、後輩学年の研究テーマになり得ますし、研究や考察の中で用いた/見出した優れた手法は、倣うべきものとして後輩たちにもしっかりと学ばせたいものです。
自分自身で探究に取り組んだ経験は、大学で何を学びたいのか/学んだことを通じて社会とどう関わるのかを考えるきっかけとなり、その後の進路意識の形成に繋がっていきますが、先輩の体験に間接的に触れることでの「刺激」もまた、進路意識が芽生えるきっかけになり得ます。

2016/10/07 公開の記事をアップデートしました。

こうした「成果発表会に期待される教育成果」が十分に得られるようにするには、整えておかなければならない「前提要件」が幾つかありそうです。優先的に取り組むべきところは以下のようなところでしょうか。

  • 探究活動とは何を目指し、どう進めるものかを学ばせておくこと
  • 発表者を、発表会の目的(目指す成果)に照らして選び出すこと
  • 聞き手の生徒にも評価者としての視点と訊く姿勢を持たせること

❏ 探究活動の目指すところと取り組み方を示せているか

成果発表会を参観していると、「探究活動とは何を目指し、どう進めるものか」を十分に理解しないまま、活動を進め、成果発表会まで来てしまったケースも混じっているように感じます。
発表した成果が後輩に有意な学びを与え得るのは、そこに至る一連の活動が正しい方向と手順で行われた場合に限るのではないでしょうか。
新課程で導入された「総合的な探究の時間」は、横断的・体験的な総合的な学習の時間とは目指すものも、生徒が活動の中で踏むべき手順も違ったものになります。
探究活動に取り組ませるにあたり、生徒に「探究とは何か、どう進めるものか」をしっかり理解させていたかどうかで、成果発表会の「学びの場としての価値」も大きく違ってくる可能性があるということです。
探究活動を開始する際のガイダンスでひと通りの説明をしたり、ガイドになる手引書を持たせたりするだけでは、これから取り組む「まだ一度も経験していないこと」だけにピンとは来ないところが大きいはず。
プログラムを進めていく中で、テーマの選定、先行研究の参照、仮説の立案、実験方法の検討、検証と考察といったフェイズごとに、その都度丁寧に(かつ、全体像の中での位置を確認させながら)一つひとつ学ばせていくしかありません。

各教科の学習の中で探究的な学び(章末課題などに用意されていることも多いかと)を経験させておくことも、各フェイズで学ばせること(具体的な手順や注意すべき点など)の理解を容易にすると思われます。
指導を担当される先生方にしても、教科学習指導の場合と違い、指導法を体系的に学ぶ機会はあまり整備されていないだけに、「探究活動の目的と手順」に関する理解にはバラつきも出がちかと思います。フェイズを進めるごとに、しっかりと目線を合わせ、手順の確認をしましょう。

❏ 成果を発表する生徒をどう選ぶか

探究活動の方策そのものを学ばせていくことに加え、成果発表会での発表者/代表者を選ぶときの視点と方法も重要です。
様々なテーマ・ジャンルから満遍なくという選抜基準は、横断的・体験的な総合学習を進める段階ではOKかもしれませんが、探究にフォーカスが移った場面では十分とは言えません。
横断的・体験的な学習が、興味を持つきっかけを広く整えることに主眼を置くのに対して、探究型の学習は、興味の深化と物事を突き詰め明らかにする方策を身につけることに重きが移るからです。
発表者・代表者は、発表のクオリティやテーマの独創性などに加えて、

  • テーマを選んだときのプロセスに学ぶべきものがある
  • 実験や調査の方法が熟慮され、合理的なものになっている
  • 考察に際して軸をしっかり持ち、論理的に思考を重ねている
  • 仮説の検証が的確に行われている
  • 研究テーマに対して当事者として向き合う姿勢が明確

などをしっかりと備えていることも大切だと思います。
代表者選出に際しての選考基準をしっかり定立することが、相互啓発に役立つ研究/発表者を正しく選ぶための前提要件ではないでしょうか。

そうした選考基準は、生徒にとって取り組みの指針にもなり、前述のガイダンスの段階からきちんと明示しておくことが大切だと考えます。
発表者/代表者を選び出すにも、探究活動用に調えたルーブリック(外部リンク:例)の導入と活用が必要ということになりそうです。

❏ 相対化と比較のスキルで、発表から学べるものを大きく

先輩や過年度生のパネルを校内に展示している学校がちらほら見られますが、在校生はそれらをどのようにみて、利用しているでしょうか。
自分が研究テーマを選ぶときの参考にちょっと眺めてみるというだけでは、もっと学べることがあるだけに、少々もったいない気がします。
如上の「探究活動の評価観点」に照らしながら複数のパネルや発表を比較してみれば、漫然と眺める時よりはるかに多くを学べるはずです。
面白そうなテーマのヒントを見つける、というのとは見方が違ってきます。生徒には、課題研究・探究活動の進め方、完成度の高め方に新しい見方を得ることにパネル閲覧の目的を持たせましょう。
見る目が肥えれば(=正しく評価できるようになれば)、自分で取り組むときの姿勢に違ったものが期待できるのは、探究活動に限りません。

事前指導もなしに「パネルを見てきなさい」だけでは、大した効果は期待できません。初期のガイダンスなどで、実際にいくつかの成果品パネルを使い、比較評価を実地に経験させておくのが好適です。

表現力を高める指導における公開添削と同じです。同じものを見ても、気づきは人それぞれであるのを知るだけでも進歩ではないでしょうか。

❏ メモをとる姿勢と質問を交わして互いの思考を深める力

成果発表会に聞き手として参加している生徒の様子を見ると、メモを取りながら聴く生徒が多い学校もあれば、ほとんどの生徒が目と耳しか働かせていない(=メモの手を動かしていない)学校もあります。
ちなみに、発表後に質問が活発に飛び交った学校ほど、生徒がノートを片手に発表を聴いている姿が多かったように感じます。
限られた時間で何人もの発表者が登壇するだけに、密度の高い情報と刺激が次から次に飛び込んでくる中で、短期記憶はあっというまに上書きされてしまうはず。
メモを取らずとも、よほど印象が強かったものだけが残れば良いという考え方もあろうかと思いますが、自分の中で芽生えた小さな気づきが後になって大きな進歩・成長に繋がることもあります。
学びの場でのメモは、「人の話を聴きながら、しっかり考え、その痕跡を文字に残していく」ことが大切であり、正しいメモを取れるかどうかは発表を聞いた後の質疑の充実度を大きく左右します。
質疑を通して学びはより大きなものになりますし、質問を浴びる発表者の側でも次の大きな一歩に繋がる新たな気づきが得られたりします。
ちなみにメモには2つの種類があります。ひとつは、相手の発言を忘れないように/後でも参照できるように記録するもの。もう一つは、相手の発言を聞いて自分が感じたこと/考えたことを記録するものです。

発表会に限らず、後でメモを見ながら思考を整理してみると、一見無関係に見えたものが結びついたり、新たな見方が得られたりするもの。せっかくの気づきを霧消させないためにも、メモを取ることを日頃から意識させ、習慣とさせていきましょう。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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