シラバスや学習の手引きによく見られる「○○について理解する」といった目標の記述は、本時の学びで目指すところを、生徒に正しく伝える機能を十分に備えているでしょうか。
これから学ぶ(=まだ勉強したことのない)ことの項目名を挙げられても、何をするのか、何を学ぶのかをイメージできるとは思えません。
また、学習が終わった後で「学習目標」に立ち返って/読み直してみてもなお、自分が目標を到達できたのかどうか把握できないのでは、達成感(=次に向けたモチベーションの原資)はあいまいでしょう。
目標に照らした振り返りも的確に行えず、より良いパフォーマンスを得るために何をすべきか、課題形成に結びつけることも困難です。
2015/01/20 公開の記事をアップデートしました。
❏ 学習目標のひとつは「生きて働く」知識や技能の獲得
生徒は学習を通じて、各単元に固有の知識や技能を身に付けつつ、それらを活用した思考力(問題発見、問題解決力など)といった能力と資質を獲得していきます。(cf. 全教科でコミットすべき能力・資質の涵養)
知識や技能もただ獲得すれば良いのではなく、「生きて働くもの」として身に付けさせなければならない以上、学んだことを通して「自分事としての課題の解決」を図れるようになることを目指す必要があります。
冒頭に書いた「〇〇について理解する」は、単元に固有の知識を獲得させることを意味しますが、単に「学ばせました」では不十分なはず。
目指すべきところ(=生徒にも認識させるべき「目標」)は、「(それらを)使えるようになりました」「(自分事としての課題の解決に)役立てられました」という状態であるはずです。
となれば、導入フェイズなどで本時/単元の学習目標を提示する段階から、「学んだことを通して解決すべき課題、答えを導くべき問い」を生徒に示し、それを認識させる必要があるはずです。
学習する内容を端的に伝えようとすると、教える側は「単元名や到達状態を示す文言」に頼り勝ちですが、それでは冒頭に書いた通り、「該当内容をまだ学んでいない生徒」の認識に合っているとは言えません。
これらを考え合わせると、導入フェイズで行う「目標の提示」と、学び終えたときの「成果のたな卸し」をそれぞれ別個に考えるのではなく、両者を一体のもの(セット)として考える必要がありそうです。
❏ 本時の学びを振り返る問いを導入フェイズで示す
どの教科、単元でも、学習した内容をもとに解決すべき課題/答えるべき問いは用意できます。実際、定期考査でも出題しているはずです。
それらを導入フェイズで示すだけで、学習目標を伝えたことになるのではないでしょうか。「単元名や到達状態を示す文言」に変換して一般化するのは、学び終えたとき(授業の終わり)でも十分です。
例えば、英語の授業では、本時に学ばせる新出言語材料を用いた「ターゲットセンテンス」を和訳したものを示すのは簡単でしょう。
それを板書し、「今日の授業でこれを英語で言えるようになろう」という表現で、目標は十分に伝わるはず。目標の記述に未習の概念(用語)を何一つ含まないため、生徒も理解に苦しむことはありません。
その後の学習を通じて、ターゲットセンテンスに含まれる言語材料を学ばせ、使いこなせるようにさせた後、最初の「和訳」に立ち戻り、「さて、英語でどう言う」と投げ掛けて、書かせたり、言わせたりすれば、生徒一人ひとりが自分の学びを「たな卸し」することができます。
きちんと書ける/言えるようになっていれば、本時の目標の最低ラインは達成したと言えますし、生徒も自ら達成を認識できます。先生方の側でも、指導目標の達成を検証することができるはずです。
1文だけでは、達成感があいまい/希薄でしょうから、既習の言語材料を交えた別の例文で同じような活動をさせたり、シチュエーションを与えて「英語でのその場のやり取り」にチャレンジさせたりしましょう。
教科書の本文を読んで学ぶ場面でも、読み終えて答えるべき問いを示すのは、「読むこと」に目的意識を持たせるのに有効ですし、学習活動を終えたときの「成果のたな卸し」にも具体性が備わります。
国語や英語といった言語系教科に限らず、どの教科でも「教科書を自力で生徒に読ませ、その内容を理解できる力を身に付けさせる」ことは重要です。そうした学びに向かわせるにも「問い」の付与は効果的です。
❏ 一般化/体系化を求める終了時のタスクで学びの深化
具体的な問いや課題を起点に、単元ごとの学びを進める中で、最終的に目指すことの一つは、学習内容の一般化(抽象化)と体系化です。
具体例を並べるだけでは、その場限り(習ったことを覚えるだけ)の学びにもなりがちですが、一般化/体系化まで進められれば、学んだことをより広範に「生きて働かせる」ことができるようになります。
学習した内容を生徒自身にまとめ直させたり、概念を表す言葉(用語)やメタ言語を提示したりすることで、学んだことを統合させましょう。
学んできたことが同じでも、それをどこまで一般化/抽象化できるかは生徒間の個人差も大きいはずです。個々の取り組みに任せているだけでは、成果に差がつき、学力差として顕在化してきます。
教科や単元によって「まとめのタスク」も様々でしょうが、「単元で学んだことをノートの見開き1ページにまとめ直す」といったものなら、汎用性も高く、様々な場面で使える手法かもしれません。
上手くまとめられない生徒もいると思いますが、先生方からの問い掛けで「まとめ方」のヒントを与えたり、他の生徒の成果(まとめた結果)を教室でシェアしたりすることで、やり方を学ばせていきましょう。
まとめた結果を先生方から示すだけでは、一般化/抽象化や体系化を図る生徒の力は養えません。
学んできたこと(個々の具体例)をまとめ直すには、様々な思考を改めて重ねることになり、如上のタスクを通して学びの深化が図れます。
また、具体例と抽象化した結果は、記銘や想起に際して相互補完的に働くものであり、学習内容の定着にも小さからぬ効果が期待できるのではないでしょうか。(cf. 新しい学びの中で「覚える力」が持つ意義)
こうしたタスクを習慣的に与えれば、生徒はそれを意識した学びに取り組むようになりますので、「習ったことを覚えれば良い」という意識を上書きして修正していくこともできるはずです。
新しい単元に入るたびに、「学んだことは、後でまとめて提出してもらうよ」と伝えることでも、学習に具体的な「目標」を示せそうです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一