学びを深める、問いの立て方とその使い方

別稿「どんな問いを立てるかで授業デザインは決まる」でも申し上げたことですが、「問いの立て方」とその「使い方」は、授業を通した学びの大きさ(成果=深まりと広まり)を大きく左右します。
問いを起点に展開する様々な学習活動を「深く広い学び」に結実させるには、どんな問いを用意するべきか、常に考える必要がありそうです。
なお、用意した問いの使い方については、別稿に考えるところをまとめました。併せてご高覧下さい。(学びの場での「問いの活かし方」

❏ 問いを起点とした学びで何を目指すのか

学習指導要領では「育成を目指す資質・能力」を、生きて働く知識・技能、思考力・判断力・表現力、学びに向かう力という3つの柱に整理しており、それらを育む手段が「主体的・対話的で深い学び」です。
何を今さら、と思われるかもしれませんが、これらをしっかり踏まえておかないと、授業改善に向けて重ねるせっかくの工夫や研鑽も(本稿で言えば、「問いの立て方」)も方向性を見失いかねません。
学びに主体的に関わらせたいなら、生徒が「自分事として答えを見つけ出したい」と思える問いが欲しいところです。学ぶことへの自分の理由が持てない学びは「他人事」。そこに深い関わりは期待できません。
対話的な学びの実現を図ろうとしても、正解がすんなりと一つに決まってしまう問いでは、対話も盛り上がらないでしょうし、異なる立場や考え方の存在を知って、視野の拡大と思考の深化を図ることにも繋がらないはず。単純な知識問題では「答えの教え合い」の域を超えません。
学びを深いものに掘り下げるには、問いを重ねられるかどうかがカギの一つ。「〇〇ってどういうこと?」の次に「どうしてそう言えるか?」が控えていてこそ、思考や理解を深めていくことができるはずです。

❏ 生徒が自分事として捉えられる問い

身近なところにある問題が、教科の学習内容と接点を持つのであれば、生徒が自分事として捉えられる問いを設定するのは比較的容易かと思います。新聞などにも問いの起点となるものが見つかるかもしれません。

しかしながら、こうした問いの設定ができるのは、特定の科目・単元に限られるかもしれず、他の方法も併用しないことには手詰まりです。
学習者が自分事と捉えられる題材が乏しい場面では、教科書を読ませ、そこに書かれていることに生徒自身で問いを立てさせるというアプローチで代替するのは如何でしょうか。多くの科目・単元で使える手です。
詳しいところは、別稿「生徒に問いを立てさせる」に譲りますが、与えられた問いが他人事になりがちなのに対し、自分で見つけた問いだけに答えを見つけてスッキリしたいという欲求が生まれやすくなります。
それすらも難しいケース(そうそうないと思いますが…)では、生徒が目標とする大学や、受検を予定している資格・検定試験などでの出題例から問いを引っ張ってくるというやり方もあります。

「試験に出るから解けるようになるべき」という論理では外的動機づけに頼り過ぎですが、「教科書で学んでいることがどう問われるか」を知る材料として出題例を使うのは、むしろ建設的で合理的だと思います。

❏ 対話的な学びに繋げられる問い

対話的な学びを実現しようとするなら、確実に用意すべきは「生徒が協働で解決に取り組むべき課題/答えを作り上げるべき問い」でしょう。
こうした課題や問いがなければ、対話は自己目的化し、盛り上がりにも欠ければ、その実りも大きなものになりません。充足感や達成感どころか、「やらされ感」が残るだけの事態すら想像できそうです。
問いを用意したとしても、様々な立場からいろんな主張が出てくるタイプでないと、異なる立場や考え方を知って「視野の拡大」と「思考の深化」を図るという。対話の目的の一つに繋がらないはずです。

賛否の分かれる問題(イシュー)、正解が一つに決まらない問題、解決に様々なアプローチ(多様な解法)がある問題が、対話的な学びを通した「協働性や多様性の涵養」という目的にもマッチするはずです。

❏ 使い方から考える、「好ましい問い」のあり方

どれほど良い問題を用意しても、使い方を間違えれば、その効能を十分に発揮することができません。問いを使ってどのような学習活動を授業内外に配列するかを考えて、せっかくの良問を活かしましょう。以下の2例の他にも「問いと結び付けた学習活動」は色々とあるはずです。

①問いに答えるのに必要な情報を集めて知に編むタスク

問いを起点にした学びには、教科書や資料を読んで理解し、答えを作るのに必要な情報を集めて整理するという活動も含まれるはずです。
そうした活動を体験させることで、「情報を探し、拾い上げ、知識に編む」という知的活動に必要な能力が育まれますし、誰かが与えてくれる知識を受け取るだけ(インプット)に偏らず、必要から生じる知識へのアクセス(インテイク)に向かう姿勢と方法の獲得にも繋がります。

問いの解決(あるいは解決できずとも深く考えること)に、直接・間接に結びつく資料(テクストやデータ)をアクセス可能なところに用意しておくことが、問いが持つ価値の一つをより大きくするはずです。

②自分の意見を他者の理解と共感を得るよう表現する練習

対話的な学びを取り入れる目的には、表現力(=自分の考えに他者の理解と共感が得られる表現を与える力)の獲得も含まれます。「証明する方法を説明せよ」といった出題もあちらこちらで見かけます。
生徒一人ひとりが対話に加わり、考えたことを表現する機会を持たない限り、練習の機会にも進歩を確認する機会も持てません。生徒の誰もがスタートラインで一応の意見を持てることが大事です。

既に持っている知識の有無で「答えられるかどうか」が決まってしまうような問いばかりでは、生徒を「お山の大将」と「フリーライダー」に分けるだけになってしまい、ここでの要件を満たしません。
生徒が一定の関心と情報を持っている「身の回りのこと」を起点にすることや、知識量の差を埋める手立て(資料を与える、事前に調べ学習をさせる)を講じることが、ここでの問題の軽減に有効と思われます。
■関連記事:

  1. 問いのあり方に焦点を置いた授業研究
  2. 問いそのものを深化、拡張する練習の場
  3. 学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められる

問いをテーマに授業を考える(まとめページ)



学びは継続的に行われ、過去の成果の上に成り立つものです。たとえある日の授業が上手く進んでも、そこでの学びが定着しない(想起できる状態にない)と次に進んだときの学びは成立せず、科目全体での学びには深まりが期待できません。「確かな学び」こそが次の機会での深い学びの土台になるということです。
学びの総量は、深さと広さと密度を掛けたもの。授業を終えてからの学びの「仕上げ」と「拡張」をきちんと行うための第一歩として、学ばせたことは、きちんと教科書に落とし込むことには注力しましょう。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一