情報を集めて編む作業で知識獲得の方法を学ぶ(その2)

知識の獲得は、思考力や判断力の土台作りですので、どの教科を学ばせるときにも力を抜くことはできませんが、生徒自身が必要に応じて情報を集めて知に編めるようにすることも学習指導の重要な役割です。
昨日の記事(その1)では、授業の導入フェイズや学び終えてからの知識拡充の場面で課すべき「手元にある教材から必要な情報を拾い上げ、知に編み、蓄えるタスク」をご紹介し、生徒が自力で知識を獲得できるように導く方法について考えてみました。
本日は、探索の範囲を広げた場面を想定した、情報を集めて信ぴょう性を評価し、知に編む練習、生徒が自力で「認知の網」を(綻びや偏りなく)広く張っていけるように導くことを目的としたタスクを考えます。

2020/02/18 公開の記事をアップデートしました。

❏ 教科書での学びの先に~知の地平を広げる方法の獲得

教科書作りでは、既定の指導時間で内容を扱いきれることが絶対命題。そのため周辺や背後を削ぎ落した記述になりがちですし、副教材にしても要所をコンパクトにまとめた方が使いやすいという評価になります。
そのため、日々の授業で生徒が触れる教材は、ポイントだけを切り出されたもの、行間や周辺への言及が希薄なものが中心になります。しかも提示されている情報は整理・構造化を済ませたものばかりです。
必要最小限の知識・理解を獲得させるには、教科書と副教材で十分ですが、ときにはそこに書かれていないこと(その先にある「知」や、身近な問題との関わりなど)に視野を広げさせ、自ら集めた情報を知に編む練習を積ませていきたいものです。
教室で学んだことが、どのように自分事になり得るかを知ることや、学んでいないところを自ら調べて知の及ぶ範囲を押し広げる方法と姿勢を学ぶことは、生きる力の大切な部分を形作っていくはずです。

❏ 行間を埋め、周辺を掘り起こす「拡張型調べ学習」

こうした学びの機会として、「拡張型調べ学習」に取り組ませる機会を定期的に設けてみてはいかがでしょうか。指導時間は限られますが、各単元に1度、あるいは学期に1度くらいなら、何とかなるのでは…。
単に「調べてみなさい」と振ったところで、生徒はピンとこないかも。先生が「身の回りの問題を多角的に捉えさせるような問い」を発することで、学びに向かう起点を作ってあげましょう。

単元をひと通り学んだあとであれば、生徒は教科書に登場した重要語句をキーワードに、新聞報道や公的機関が提供する統計データ、ときには学術記事まで範囲を広げた検索に挑んでくれることも期待できそうです。指導の初期段階でレディネスを整える途上など、まだ生徒に自ら参照先を探して適切に情報を集めるだけの力が備わっていないうちは、先生が適切な資料を用意し、プリントで配ったりICTを介して配布したりと、効果的に支援してあげましょう。
生徒一人ひとりが調べてまとめたものは、個人ワークの成果物として提出させた上で、生徒間でシェアしてグループで話し合わせ、そこでの気づきをもとに改めて自分の答えを作り直すという流れを作れば、フリーライダーを生まずに達成可能性も担保できます。

❏ 情報の質と信ぴょう性を評価する練習

教科書や教室で広く用いられている副教材には、原則的に「正しいことが既に誰かの手によって検証された情報」しか載っていませんので、情報が正しいのか、信頼に値するのかを評価する必要は殊更ありません。
しかも、生徒の理解に支障が生じないよう、配慮に満ちた構成と編集がなされており、書かれていることを表面的に理解するだけならさしたる苦労もないはず。読んで理解する力を、実践の場で生きて働く次元で獲得させるには題材としてもの足りないものがあります。
教科書や副教材の外まで探索の範囲を広げた「拡張型調べ学習」を課して参照すべき情報を生徒に探させるのは、有意な補完になりそうです。
PISAが測定する「読解力」に含まれている「質と信ぴょう性を評価する」「矛盾を見つけて対処する」という2つの能力を育むチャンスにもなるのではないでしょうか。
各自が集めてきた情報を互いにプレゼンさせ、グループでの話し合いでそれぞれの情報の信ぴょう性を評価させたり、競合する箇所のすり合わせをさせたりする練習の場は今後ますます必要になるはずです。
書かれていることを表面的に理解した(ように思った)ことで満足し、そこで学びを止めてしまうことを許容しては、情報を鵜呑みにする姿勢を助長するばかりです。ファクトフルネスを備えた生徒に育てることもまた、指導に当たる先生方の重要なお仕事の一つだと思います。
現状でのカリキュラムを消化するのに精一杯とのお声も聞こえてきますが、前稿でご紹介したような方法で、必要な情報を生徒自身が獲得できるようにしておけば、これまで授業時間を使っていた部分を生徒の自学に任せることができ、新たな活動に時間を割ける可能性が出てきます。
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小学校から広く行われ、生徒も様々な場で経験している「調べ学習」ですが、ただ調べさせても得るものは大きくありません。適切な問いがあってこそ、調べる動機も方向性も得られるというものです。
調べることで生徒が知り得たことそのものにも小さからぬ価値はありますが、それ以上に大切なのは、物事を調べるときの正しい姿勢と方法を獲得させることにあるのではないでしょうか。
生徒に何らかのタスクを課すときは、その一つひとつに、きちんとした目的を設定することが必要ですし、意図するところを生徒との間でしっかりと共有しておくこともまた大切だと思います。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一