積極的に学ぶ姿勢を生徒一人ひとりに持たせたいというのは、先生方のどなたもが抱く思いでしょうが、その実現は言うほどには容易ではありません。学びへの積極性を引き出すには、それを成立させている要素群を正しく想定し、その一つひとつを着実に作り出す必要があります。
如上の構成要素の想定(=問題の切り分け)には、生徒が学びに消極的になる場面を思い浮かべ、そこに潜む阻害要因を考えてみるのも好適。以下のようなケースは教室でも多く観察されるのではないでしょうか。
- 伸びている実感を持てず、「科目の学びへの自己効力感」が弱い
- 学びを自分事にできず、「学ぶことへの自分の理由」が持てない
- 「学習方策やメタ認知」の獲得が遅れ、躓くうちにやる気を失う
- 失敗したときのことを想像してしまい、不安でトライができない
- 準備を適当にサボっても、叱られる以外に困ったことは起きない
- 与えられることに慣れ過ぎ、自分で課題を見つけて取り組めない
2016/02/24 公開のまとめページを再アップデートしました。
❏ 科目の学びへの自己効力感を高める
頑張っても思うように学力が伸びずにいれば、早晩、その科目の学びに自己効力感を失っていきます。苦手意識が消極的な学びの姿勢を作り、取り組みの不十分さが学びの成果が積み上げを妨げるという「悪循環」は、どこかで断ち切る必要があります。
日々の学びを「酸っぱい葡萄」にしては積極的な学びの姿勢から遠ざかるばかりです。学びの成果を自覚させる仕掛けも講じましょう。
指導と評価の一体化で目指すのは「進捗と改善課題を捉えた学び」ですが、前者(=学びを通して得た成果、進歩)にも十分な意識を向けさせないと、振り返りは後ろ向きな「反省」に終始していしまいます。
課題を与えたら挑ませる前に必要な道具立て(知識や発想)を生徒が備えているかをきちんと確認することや、複線的なゴールで生徒一人ひとりが自分に合ったハードルに挑めるようにすること、さらには教え合いや学び合いで不足を互いに補えるようにしてあげることなどが、モチベーションの原資である「達成感」をより多くの生徒にもたらします。
❏ 学ぶことへの自分の理由を見つけさせる
目の前の学習内容/課題を自分事として捉えられなければ、学ぶことへの自分の(内なる)理由は持てません。先生や教科書会社が作った計画に沿うところには「他人の理由」しか存在しません。
教える側は、ある単元で学ぶことがどんな意味を持ち、どこに繋がっているか分かっていますが、初めてその単元を学ぶ生徒には未踏の道の先にあるものなどイメージできないのではないでしょうか。
先生が用意した教材や課題を目の前にしても、取り組むこと/学ぶことに「自分の理由」を持てなければ、積極的な姿勢や行動は生まれないはず。学びを自分事として捉えさせる仕掛けが必要です。
❏ 学習方策やメタ認知を高めることに注力
正しい学び方が身に付いていなければ、途中で立ち止まったり、転んだりするばかり。そのうち最初のやる気もどこかで失せてしまいます。
日々の学びの中で、学び方そのものを学ばせていく(=学習の改善を図らせる)必要がありますが、学習方策は課題解決を通して身に付いていくもの。効果的な振り返りと先生方からの評価がカギを握ります。
また、参照型教材を使いこなせるようになることも、躓きを自力で解消し、学びを進めていくための土台の一つですし、わからないことや困りごとがあったときに、適切な相手を探して助言や支援を得る方法も身につけさせなければなりません。
❏ 失敗への恐れを取り除き積極的にトライさせる
与えられた課題に挑んで上手く行かなかった経験を重ねているうちに、挑戦することそのものが嫌になることがあります。うまくできない自分に向き合いたくない、笑われたり馬鹿にされたくないと思えば、「最初からやらないことを選択する」のも無理からぬところ。
上手に失敗させながら、間違いや失敗が学びに転じる場を経験させていく中で、失敗を肯定的なものと捉えさせたいものです。転んで立ち上がれた経験が、転ぶことへの恐怖を軽くし、「失敗してもやり直せる」と考えられるようになっていきます。先生方の目がきちんと届き、大きな怪我の心配がないところで上手に転んでもらうことも必要です。
そうした場を逃さずに作るには、生徒に活動させながらしっかり観察することが大前提。また、失敗をそのままにしてはネガティブな記憶が残るばかりです。失敗の原因を明らかにした上で再チャレンジさせ、最終的に「成功」にもって行かせましょう。
❏ 個人のタスクに「チームへの貢献」という要素を付加
宿題をやってこなかったり、真剣に取り組まなかったりすれば、先生に注意されたり叱られたりしますが、その場を我慢してやり過ごしさえすればどうにかなると「学習」した生徒は、さぼり方と謝り方がうまくなるばかりです。再テストや補習で絞られても、同じことです。
これに対して、授業準備(予習)の成果を持ち寄ってチーム/グループに貢献しなければならない状況におかれると話は違ってきます。
個々の生徒が取り組むタスクに、パートナーやチームへの貢献という要素を組み入れると、そう簡単にはさぼれません。自分の頑張りで周囲に貢献できたという喜びは、次の機会でのより積極的な行動へのモチベーションにもなるのではないでしょうか。
❏ 与えられることに慣れ過ぎている状態を打破
言われたことをこなすことに終始し、生徒が自分で課題を見つけて取り組む習慣と方策が確立していないことも多々あろうかと思います。
先生から具体的で達成可能な課題の指示があれば、それなりに取り組んでくれる生徒でも、具体的な指示のないところでは自発的な行動を取れない/何をすべきかわからず学びを止めてしまうことがあります。
実際、コロナ禍による臨時休校中には「休校が続いて、何をやればいいのかわからない?」という事態が方々で報告されていました。
適切な問いを与えることで、答えを作るのに不足する情報や知識を自ら得る「インテイク」に学びのメインパートを移させることも必要でしょうし、模試などを機に自らの学びを定期的に振り返る中で、自分が何をすべきかを考え、学習の計画を立てる練習を積ませることも大切です。
学びに対する消極的な姿勢を生み出している原因を切り分けてみると、その多くは別稿で挙げた学習時間の延伸を妨げる原因と共通します。
課題にきちんと取り組まない生徒への対応に叱責などの外圧に頼るだけでは、外圧を外したときに学び続けてくれるとは限りません。宿題をやってこない生徒への対応にも注意が必要です。
生徒から頑張り(積極的な学びの姿勢)を引き出そうと、卒業後の目標を早くに決めさせるというアプローチにも問題がありそうです。確かに目標が決まれば頑張れるでしょうが、「目標が決まらない限り、頑張りは引き出せない」という落とし穴と背中合わせです。
選択までの十分なプロセスを踏ませないうちに目標を「選ばせて」は、とりあえずの選択を助長します。そんな選択の結果には中々向き合えないもの。隣の芝生をよけいに青く見せるだけかも。諦めない心は諦めたくないものを見つけた人にしか持ち得ないものです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一