休校が続いて、何をやればいいのかわからない?

休校が長引く中、勉強の遅れや受験への不安を抱えつつ「何をやればいいかわからない」と悩む生徒も少なくないようです。学校が与えた課題や自分が立てた計画に沿って勉強を進められている生徒と、「わからない」といって立ち止まる生徒の間には、普段よりも早いペースで学力差が拡大していると思われます。
具体的な学習課題を用意したり、リモートでも学びを進められる環境の整備を図ったりといった、指導者/学校側での取り組みの必要性は言うまでもありません。別稿「休校期間中の自学自習をより確かなものにするために」が少しでもご参考になれば幸いです。
しかしながら、教科書もあれば、ネット上にも教材が溢れているのに、自らの学習を計画できず「何をすれば良いかわからない」と訴える状態に生徒を止めてしまったこれまでの指導にも課題がありそうです。
初めて学ぶ単元であっても、自力で学びを進められる生徒、自らの学びを設計できる生徒を育てることもまた、教科学習指導を行う上での重要な目標であると考えます。
❏ これまでの学ばせ方に起因する問題点
教科書等の配布が遅れた自治体もあるとのことですが、大半の生徒の手元には教科書と副教材があるはずです。学習範囲と期限が提示されればそれに沿って進めれば良いはずですが、実際はそうとは限りません。
自力で勉強を設計・進行できない生徒には以下のようなケースが考えられ、いずれも遠因は普段の教室でやってきたことにあると思います。

  1. 普段から教科書を自力で読んで理解する練習を積んでいない

    教科書を読めないのでは学びを進めることができないのも道理です。普段から教科書をきちんと読ませる必要があると思います。

  2. 書かれたことに問いを立てて深く考える習慣がない

    教科書をただ読んでいるだけでは学びは深まりません。生徒に問いを立てさせることで教材に深く関わる方法を学ばせましょう。

  3. 学びの中で生じた不明や疑問を解消する方策に習熟していない

    辞書や参考書などの参照型教材を徹底して使い倒すことを習慣化しておけば、不明や疑問を解消して先に進めるはずです。

  4. 自らの学びを設計するための振り返りができていない

    模試結果を踏まえて自らの学習行動を改善したり、模試に向けた準備を計画したりする練習がこれまで不足していたかもしれません。
    cf. 模試の結果を正しく振り返る学習機会としての模試受験

休校措置が続く中、こうした学びの姿勢・方策の不足を補う指導を展開するのは容易ではありません。しかしながら、この事態で明らかになった問題に向き合い、生徒を学習者としての自立に向かわせるのにどんな指導が必要かしっかり考えることは、コロナ後の教室にも有意な知見をもたらし、新たな指導方法の確立に繋がるのではないでしょうか。
❏ 教科書で学ばせる鍵はターゲット設問の付与
とはいえ、過去の指導を振り返り、次のことばかり考えていても、今まさに生徒が抱えている問題の解決にはなりません。「何をしたら良いかわからない」と悩む生徒に対する支援の一手も並行して考えましょう。
課題を与え期限を示しても、教科書やプリントに書かれていることを読んで理解することの繰り返しだけでは、生徒は目的意識を持ちにくく、学びが深まった/何かできるようになったとの達成感も希薄です。
また、何ができるようになれば良いかイメージできなければ、どう取り組んで良いかも思いにくく、結果的に「何をすれば良いかわからない」という状態に止まってしまいます。
この状態を打破する鍵のひとつは、指定の範囲を読んでそこで学んだことをもとに考えて解を導くべき問い(ターゲット設問)をセットすることです。これだけのことでも、同じ教科書を学ぶにしても生徒の学びはドラスティックに変わります。
教室の内外を問わず、学習目標は解くべき課題で示すことは学習指導の鉄則ですし、解くべき課題で「何のために学んでいるか」を伝えることで学びの目的を生徒にしっかり理解させましょう。
問いを設定するだけで、無味乾燥になりがちな「教科書学ぶ」という自己目的化した状態は、ターゲット設問を解くために必要なことを「教科書学ぶ」という目的実現のための手段に位置づけが変わります。
解き終えたときにも、問いへの答えをチェック/評価することで、正しく学べたかどうかの検証も出来るようになり、達成感も得られれば、足りなかったところも分かり、より良い学びへの課題形成もできます。
解説教材を整えることに使っている時間とエネルギーの一部を、適切な問いを作ることに振り向けましょう。
また、教材作成に多大な時間が掛かるとの話も聴きますが、生徒が持つ教科書や副教材を有効に活用すれば、学習者としての自立に向かわせるのに不可欠な評価やフィードバックに当てる時間も作れるはずです。
❏ 学びに向かうエネルギーを補給し続ける
また、「やらなければならないことはある/わかっているけど、進める意欲が続かない」というケースもあろうかと思います。
指示されたことをこなしているだけで、面白味を見出したり成果を実感できたりすることもなければ、学びを進めるエネルギーがどんどん消費され、やがては燃料切れ。その結果が「続けられない」です。
学びに限らず、何かに取り組む意欲の原資は、目的とするところの明確なイメージと、努力の成果をたな卸しして得られる達成感です。
目的意識の明確化にはターゲット設問が有効ですが、達成検証の場を整えるのもまた、ターゲットとしてきちんと用意された問いです。
教科書を読んで学んだことが「きちんと生きて働いているか」を確かめるという発想を生徒自身が持ったり、その具体的方法を考え出したりするところまで生徒に求めるのは酷というものです。
教材を学び終えたときに挑戦する課題/答えを作るべき問いをしっかり整えてあげるのは先生方のお仕事です。解くべき課題で「何のために学んでいるか」を伝えることができれば、生徒の学ぶ意欲を刺激し、学びに向かうエネルギーを補給し続けることになるはずです。
生徒が提出してきた中から好適なものをピックアップしてクラスでシェアすれば、相互啓発が働き「もう一歩踏み込もう」との意欲も刺激できますし、戸惑っていた生徒もそれらをモデルに自分でもチャレンジしてみようという気になるのではないでしょうか。
❏ 休校というピンチを利し、学習者として自立させる
先生方の指導が届きにくい状況に置かれた途端に生徒が何をすれば良いか見失ってしまうという状況の打破に、単元内容を先生がしっかり説明して理解させるという戦略は役に立ちそうもありません。
教材を用意したら(教科書や副教材は既に持っています)、それらを学んで解決すべき課題/答えを導くべき問いを用意し、自力で出来るところまで取り組ませましょう。わからないことが出てきて躓いても、教えてくれる人がいないとなれば、SNSを介して友達に訊くなどの方法を自分で考えるのではないでしょうか。
ネット上には様々な学習動画や解説記事があります。検索しても見当たらない単元はたぶんありません。わかりやすく信頼に足るコンテンツを見つけられることも大切な学習者スキルの一つです。クラスの誰かが見つけた良質な教材をシェアすることだって難しくないはずです。
学校に通えない期間の学習を通し、「勉強は教わるものではなくて、自分で方法を考えながら学ぶもの」と考えられるようになった生徒の「学習者としての成長」はとても大きかったと評価できるはずです。

まとめページ「休校中の学びをより大きくするために」

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一