リモート学習で「答えが一つに決まらない問題」を扱う

答えが一つに決まらない問題は、生徒が社会に出て多々直面するものであり、教室の中でもそれらへのアプローチを学ばせる必要があるのは明らかです。解内在型の問いがメインだった従来の教科学習では、立場によって賛否が分かれる問題や解法が未確立の問題を扱うのはどちらかと言えばレアでしたが、今後は教室で扱うケースも増えていくはずです。
様々な見方で問題の把握を試み、原因や解決策を考えていくことになりますが、そこで欠かせないのが多様な見方を突き合わせ、気づきを共有する「対話の場面」です。教室に生徒が集っている「日常」なら、机を動かして島型の配置にすればやり取りを始められますが、休校期間や解除後の分割登校の場面では、こうした学びの実現は容易でありません。
しかしながら、完全に日常が戻るまでこうした学びを止めてしまっては必要な学びが遠のくばかり。実現への工夫に知恵を使う場面です。

❏ 答えが一つに決まらない問いに取り組ませる手順

答えが一つに決まらない問題や様々なアプローチ/解法が考え得る問題を扱う時の基本的なパターン[手順]は以下のようなものでしょうか。

  1. 問いの答えや課題へのアプローチを生徒一人ひとりが考える
    いきなりグループで考えさせると、自力でじっくり考えるのが疎かになりがちです。フリーライダーが出ることも懸念されますが、その一方で、考えるのに時間がかかりまだ自分の考えがまとまっていないのに先に進められ思考を完結できない生徒もいるはずです。
  2. 一定の時間を経たら各自の考えをシェア(個人ワークも継続)
    ひとりで悶々と考えても、考えは膨らみません。各自が考えをまとめる前に、他の生徒の考えに触れて発想の拡充を図る機会が欲しいところ。ほかの生徒の発言(書き込み)に触発されて、アイデアは膨らんでくるはずです。
    slackのチャンネルなどを使い、教室での発言と同様に考えたところを書き込ませましょう。line グループのタイムラインやTwitter のグループチャットでも代用できるはずです。口頭での発言と違い、文字にするとなれば、思考を整理し、正しく表現することが求められますので、その姿勢とスキルの獲得も進みます。
  3. 発想が十分に広がったところで整理に臨む
    生徒が出し合った意見やアイデアには共通点も多いはず。正面から対立するものや、違った角度からのアプローチもあるでしょう。それらをグルーピングしたり、平面上に展開したりすることで構造化を試みる中で、問題に整理がついてきます。
    教室でなら島型に配置した机の上でKJ法、といったところでしょうが、ここでも先ずは個人ワークで取り組ませましょう。「皆と一緒でなければできない」という状態に止まらせないこともまた重要な指導目標です。できるようにさせたいことはどんどんやらせるべきです。
  4. 整理した結果を出し合い、互いに見比べてみる
    着眼点や問題をグルーピングする方法にも正解は一つではなく、マトリクス(表組)の縦軸・横軸にどんな項目を設定するかで、エントリーが同じであっても配列は違ってきます。箇条書きにしたものの並べ方だって違うでしょうし、内包関係の作り方にもいくつもの可能性があると思います。周囲の生徒が作ったものを見れば、問題点を整理する視点も多様であることを学べるはずです。
  5. 構造化し整理をつけた問題に対するアプローチを言語化
    KJ法なり、マトリクスなりを使って構造を与えた(=関連性を考えた)問題点のグループごとに、問題の本質やそれに対するアプローチを言葉で表現してみる工程も大切です。言語化しないことには他者との共有はできず、協働で解決に向かうこともできません。
    もし言語化ができないのであれば、問題の理解が足りないということですから、できるまで考え続けさせましょう。次回までの宿題にするのも良いかもしれません。グループチャットなどを利用すれば集団知を用いたより良い解も期待できます。協働の効果とそこに参加する喜びを学ばせる好機です。
  6. グループ化し正体を明らかにした問題について調べ学習
    問題が明らかになり整理がついたとしても、そこで歩を止めては問題の解決に近づけません。さらに深く調べてみることで解決の糸口が掴めるかもしれませんし、まだ見ぬ人々がそれぞれの立場からどんなアプローチで問題に立ち向かっているかを知るのも重要です。その中には、自分の進路や生き方にかかわる発見もあるはずです。
    自らが取りまとめたアプローチに従ってさらに調べ学習を進めていく余裕があれば、情報の収集やデータの読み方の練習にもなりますし、その結果をパワーポイントのスライドにまとめてプレゼン資料を作らせれば、総合的な探究の時間にむけた準備も進みます。

❏ 不便な環境だから効果的に鍛えられる資質とスキル

如上の手順の中には、気づきの交換による思考の深化、視野の拡大という「対話的な学び」の目的とするところがある程度まで組み込まれています。「日常」の教室でなければできないと思われがちなことも工夫次第ではリモート学習という特殊な環境下で実現可能ということです。
対面での対話、口頭でのやり取りでは、感覚的な表現でもどうにかなることが少なくありませんが、グループチャットなどで文字を介したコミュニケーションにはもう少し厳密な思考や的確な表現が必要になりますので、その訓練としてはより効果的でしょう。
タイムラインに残った文章を後で見返すことで、論理の矛盾や表現の不備に気づき、次に向けた課題として認識されることもあるはずです。
一見すると不便な環境に置かれることで、発揮しなければならない能力が変わり、その効果的な訓練の場が得られるということかと思います。
他の生徒の意見をしっかり読んで、コンパクトな表現に言い換えるというタスクは、問題の本質を見極めたり、シンプルで伝達力のある表現を考えるには絶好の機会かと思いますが、如何でしょうか。

❏ 1回の授業で完結させる必要はない

如上の手順(授業展開)はいくつもの段階で構成されており、1回の授業で完結させるのは困難かと思いますが、毎回の授業をその場で完結させるという発想から離れてしまえば、実現性が増すはずです。
複数回の授業を使った授業構成を柔軟に考えることが大切です。
問いを与えて個人で答えを考えることを指示したら、そこでいったん止めてしまいましょう。教室を離れて思考を継続させ、考えがまとまった生徒から順にグループチャットなどに意見を書き込ませ、相互に閲覧できる状態を維持すれば如上の手順の 2. まで進んだことになります。
次の授業では、全員が提出(=タイムラインに書き込み)したものに目を通して確認しながら、次の指示を出せば良いのではないでしょうか。
このように、ステップごとに指導機会を分けて、その間に生徒が個人で課題/タスクに取り組めるようにすることこそが、生徒一人ひとりが自分のペースで学びを重ねることになると考えます。
各フェイズでの提出物(書き込み)には、先生がしっかり目を通し、クラス全員にシェアしたいもの(気づきや発想など)をピックアップして授業内で紹介・言及すれば、「間接的な対話」の拡充につながります。
40人分の答案をざっと見るより、先生が選び出した数人のものに対象を絞ってじっくり吟味させたほうが、却って学びは深くなるはずです。
先生からの助言や評価、周囲の生徒のコメントに触れながら、対象をじっくり観察した方が「なるほど、こうやればよいのか」という気づきも大きなものになり、学びは深く確かなものになりそうです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一