プレゼンテーション/成果発表を機につくる成長の場

探究活動をはじめ、生徒が自分(たち)で取り組んできたことの成果を発表する機会は以前に比べて多くなっています。日々の授業の中でも、個人/グループで調べ学習や討論を行った結果をプレゼンテーションにまとめるのは既に「ごく普通の光景」になったように思います。
プレゼンテーションの準備に取り組む工程での試行錯誤や努力そのものに加え、発表の場を通して得る直接/間接のフィードバックは、生徒にとって代えがたい成長の糧になるのだと思います。

本稿の内容をChatGPTで作画しました。クリックで拡大します。

❏ プレゼンの準備や体験で成長への刺激を得ても…

リフレクション・ログや授業評価アンケートの自由記述などを見ると、
「プレゼンの準備は大変だったが、やりがいもあり達成感が得られた」

「グループでの議論の中で色んな考えがあることに気づけた」

「他グループの発表を見て、自分に不足するものがわかった」

「他の生徒の頑張る姿に、おいて行かれないように頑張ろうと思った」
といったことが書かれており、プレゼンテーションの準備フェイズでの体験や実際に発表を行った経験の中に、成長のための原資となる刺激を生徒は得ていることが伝わってきます。
しかしながら、実際の指導場面や指導計画の流れを見てみると、その刺激をきちんと消化して成長につなげられているケースばかりではないように思えます。
こうした問題の原因の一つは、成果発表会に「ゴール」としての役割しか与えられていないことにあるかもしれません。
プレゼンテーションに向けた準備の中での成長も、自分なりの課題を明確にして準備に取り組むときと、初めての体験を楽しみつつも戸惑いながら進めるだけのときとでは、成長の確かさや得られるものの大きさには小さからぬ差が生じるのではないでしょうか。

❏ 相対化、振り返り、課題形成を経た再チャレンジ

成果発表会に向けてプレゼンテーションを調える工程は、多くの生徒にとっては初めての体験です。ひと通りのやり方は「ガイダンス」などを通して学んだとしても、実際のところは手探りで作業を進めます。
現状で駆使できるようになっているスキルを使うことに、見聞きした方法を見よう見まねで加えてみるだけのことも多いと思います。
一度やってみて、周囲の取り組みやパフォーマンスと比較する機会(探究ゼミの中での中間発表など)を経て、自分たちのやっていること/やってきたことを相対化してみてはじめて、何が足りないかに気づき、それを克服しようという意識と行動が生まれます。
振り返りのためには「相対化」が必要であり、振り返りは「次に向けた課題形成」ができたかどうかで成否が決まります。
また、せっかく形成した「より良いパフォーマンスのための課題」も、実際の行動としてそれに取り組む機会が確保されていなければ、放置されてそのまま、結果的に何も得られないということになりかねません。
発表やプレゼンをゴールにして「ナイストライ!(+拍手)」で終えては、せっかくの成長の機会も十分に生かしきれないということです。
探究活動に取り組ませる中で、相対化、振り返り、課題形成、再度の/新たなチャレンジというサイクルがきちんと作り込まれているか、指導計画をきちんと見直してみるべきだと思います。
教科学習指導において「答えを仕上げる中で学びが深まる」のと同様にプレゼンにおいても、「直すべき点に気づいてから仕上げ/やり直しに取り組む」ことで、学びは「深く確かなもの」になり、より大きな生徒の成長が期待できるはずです。

❏ 発表後のやり取り(意見や質疑応答)を活性化させる

探究活動などの成果発表を文字通りの「成果を発表する場」に終わらせず、次に向けた課題形成のための相対化と振り返りの機会とするには、十分な量の、建設的なフィードバックが発表者に届くことが大切です。
発表を参観する生徒には、幾つかの観点を設定したルーブリック形式の評価シートを持たせるケースも増えてきましたが、観点が固定されていると、他の発想・着眼点からの見方が生まれにくいもの。「その他の観点」を追加し、自由記述も設けることで、発想の縛りを外しましょう。
また、評価以上に大切なのは「質問」です。発表を観て/聴いて出てきた質問は、発表者に新たな疑問を生ませ、問いの深化・更新のきっかけになり、成果発表会を「より深い探究」に繋ぐ機会に高めます。
参観する側の生徒にも、「発表を聴いて理解・評価する」ところに止まらず、自分から質問をするという心構えで臨ませましょう。発表に触れさせることの目的は、「論理的・批判的思考力や問題発見力の涵養」でもあります。cf. プレゼンテーション力より質問力
日々の教科学習指導の中で、観察をタスクに「問題発見力」を育てることに注力し、考え尽くした結果を伝えることはコミュニティへの貢献であることを学ばせていること(これにより、意見を出すことへの躊躇、反発などへの不安が減じます)が、発表会をより有為なものにします。

❏ 他の生徒の評価と質問に触れて、自分の観察を相対化

参観者からのコメントや質問は、発表者にとっての有為なフィードバックであると同時に、発表を観ていた/聴いていた生徒が、自分の捉え方(発表から何を感じ、どこに着眼したか)を相対化する機会です。
探究活動の成果発表会に限らず、あらゆるものに触れたときに、人は何かしらの思考や感想を持ちますが、自分の中だけに閉じていては、(ときに偏狭な)自分の捉え方がすべて。異なる見方があることにも気づかず、着想を広げ、より広く深い考えを身につけることもできません。
同じ発表を観た/聴いたほかの生徒のコメントや感想、質問に触れることで、こうした「発想の限界」を壊す「相対化の機会」が得られます。
生徒のコメントは、クラウドに投稿させておき、観点や問題意識ごとに整理して(この作業には生成AIも活用したいところ)、学年の生徒に共有させたいところです。さらに編集を工夫すれば、次年度の生徒の指導に使う教材にもなるかもしれません。
探究活動の指導に当たってきた方や、講評者として招いた専門の先生方からのコメントも、ここに混ぜてしまう手もあります。専門家の肩書き付きのコメントは、生徒にとって「抗えない正解」。他の発想が生まれるのを邪魔することもあります。混ぜることで、その弊害も防げます。

❏ リフレクション・ログに成長への決意が読み取れるか

周囲からのフィードバック(評価結果やコメント)を得たら、今度は発表者本人が「次に向けた課題形成」に取り組む番ですが、このフェイズがしっかり機能しているケースはあまり多くなさそうです。
そもそも、成果発表会の後に再チャレンジや仕上げ直しの機会が用意されていないことも少なくありませんし、評価をどう受け止めるか、課題をどう形成していくかは本人任せになっているのも「普通」です。
想定以上の厳しい評価を得て凹んでしまっている生徒もいるでしょうから、ゼミなどで指導に当たる先生方からのケアやフォローも必要です。
プレゼンに至るまでの自分のおざなりな取り組みを悔いたり、自己嫌悪のようなものを感じていたりするのを放置しては、探究的な学び・活動に対する自己効力感を下げ、そこから遠ざかろうとする気持ちを強める結果になってしまいます。
また、様々なレスポンス(意見やコメント)を消化できずに、とっちらかってしまっている生徒は、整理と消化の手伝いを必要としています。
プレゼンテーションを経験させた後の指導/取り組ませ方にこそ、せっかく用意した教育プログラムの成否/成果量を決めるカギがあります。
成果発表会やプレゼンテーションを終えて生徒がポートフォリオに残すリフレクション・ログの点検はしっかり行いましょう。

次の機会に向けた決意や、より良いパフォーマンスを得るための好適な方策についての具体的な記述があれば、たとえプレゼンが不満足なものであったとしても、プログラムを経験させた意義は十分にあったと言えるのではないでしょうか。
繰り返しで恐縮ですが、そうした決意や考えた結果を実現する場を、その後の学びの工程の中にきちんと用意することも、指導計画に期待されるところの一つです。体験を通して得たせっかくの気づきを揮発・埋没させないようにしたいところです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一