目標を持った状態で巣立たせるには、日々の学びの中に興味や関心を見つけてもらうことがスタートです。興味は自力で考え工夫して達成したこと(=できるようになったこと)の中に生まれ、関心は「自分事」として認識できる課題に触れて芽生えてきます。
せっかく生まれた興味・関心もそのままにしては、深化・拡張することなく埋もれてしまいます。機を逃すことなく、探究的な学びで興味を掘り下げ、関わりの視野を広げることで、「自分のあり方、生き方」を考える進路・進学指導に繋いでいきましょう。
2019/05/31 公開の記事をアップデートしました。
❏ できたとの実感なしに、次への興味は生まれない
授業を受けて学力や技能の向上を実感すると、そこに興味や関心が芽生える傾向が強く観察されるのは、以前の記事でもデータを使ってお示しした通りです。
できるようになったと思えることは、科目に対する自己効力感を持ったということ。苦手意識などから「できるだけ遠ざけておきたい」と思うことに、興味はなかなか抱けないということでしょう。
しかしながら、「学力・技能の向上実感」と「興味・関心の深まり」をそれれぞれ横軸・縦軸において作成した散布図(下左)をみると、上下方向のバラつきもあり、近似線から離れた授業が散見されます。
教室での学びを通じて、できるようになったとの実感を持つことは、その科目への興味を維持・拡大する上で必要条件ではありそうですが、それだけでは効果は一定しないということだと思います。
❏ 自分事として取り組める課題の存在がカギ
生徒の興味や関心を刺激するには、学んでいることが自分自身や自分を取り巻く社会にどのような関わりを持っているかを認識させる必要があろうかと思います。
各単元の内容を理解させるだけでなく、生徒が「自分事」としての課題を認識できるような問いを与え、じっくり考えさせることが肝要です。
考えたところを言語化させて発表を求めることで、生徒が互いの気づきに触れる機会を持てば、思考の及ぶ範囲はさらに広がり、関心の一層の喚起につながります。
探究活動をプログラムとして確立できている学校ならば、卒業生たちが残した研究論文から、単元に関わるものを選んで、教室で生徒たちに見せることもできそうです。
また、大学入試問題の出題研究を通して見つけた良問の中から、単元が一致するものをピックアップして、「興味がある生徒がさらに深く学ぶ機会」を作ってあげることも、興味の発現・深化に大きな効果が期待できるのではないでしょうか。
興味・関心を起点に、目的意識を持った学びが実現すれば、新課程でこれまで以上に目指すことになる「主体的に学習に取り組む態度」の育成にも寄与するはずです。
授業評価アンケートなどを使って「主体的・対話的で深い学びへの生徒の認識を確かめる」ことも、指導成果を確認しながら工夫を重ねていくことの前提になりそうです。
これまで当ブログで公開してきた記事の中から「関心」をキーワードに含むものをピックアップしてみました。お時間の許すときにご高覧いただければ幸甚です。
授業を通じて生徒の興味・関心を高めるのは、どの教室にも共通する目標だと思いますが、そのための指導方法について論じる機会の多さに比べて、「興味・関心とは何か」という根幹に立ち戻った議論はあまりなされていないような気がします。興味・関心とは何かをきちんと定義しないままでは、高まりを客観的に測定することもできません。
様々なデータに当たってみると、興味関心を抱かせることは、主体的に学ぶ姿勢を身に着けさせるための「必要条件」ではあることに間違いなさそうですが、「十分条件」ではないことが分かります。「興味関心の発現と主体的に学ぶ姿勢」の間にあるギャップを作り出しているものは何か、どうすればギャップを解消できるかは、突き詰めてみるべき問題の一つと言えそうです。
学力や技能の向上を実感することとその科目に対する興味・関心の高まりとの相関は、学年が上がるごとに強まります。初学者には、興味をダイレクトに刺激する方策が有効であっても、学年があがるにつれて通用しなくなるということでしょう。学ぶ前にできなかったことが、学び終えたらできていたことを生徒自身が認識できる仕掛けとして、学ぶ前に仮の答えを作らせるのは効果的です。
生徒が主体的に意欲をもって学習に取り組むのは、「学ぶことへの自分の理由」を持ったとき。将来の夢があってその実現を図りたいという気持ちとは別に、「興味という形で内から生まれる学びへの欲求」もあるはずです。学んだことに刺激を受けて生まれた、「どうなっているのかもっと知りたい」「この先にはもっと面白いことがありそうだ」という気持ちが、学びの原動力になると考えます。
大学入試問題には高校で学ぶ範囲を一歩踏み越えたような問題も見かけます。出題研究を通して集めたそんな問題の中から、本時の単元に関係する一問をピックアップして、「こんな問題もあるけど、君たちはどう考える?」と生徒に振ってみましょう。中には食いついてくる生徒がいます。潜在的に興味を持っていたからであり、問いに答えを作る中で、その興味をさらに育てられるはずです。
cf. 知りたいから始める探究テーマ選び
学習指導と進路指導という二本柱をしっかり立てれば成立したのがこれまでの指導計画でしたが、新課程への移行で加わった探究活動を組み合わせるとなると、単純にもう一本の柱を立てれば済む話ではありません。学習、進路、探究という三領域が「並列」していては、互いの関連が希薄になりますし3年間/6年間で指導に当てられる時間の枠に収まらないのは明らかです。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一