新課程への移行で、高校での「総合的な探究の時間」が本格的に始まります。先行実施も行われ、各地の学校で進められてきたプログラム開発や指導法研究は、小さからぬ成果を既に収めています。
先行実施で得られた知見を活かして、プログラムのブラッシュアップを図るフェイズを迎えています。個々の先生方が工夫を凝らした実践から優れた成果を得た指導例を抽出し、それを共有した上で先生方の協働でさらに磨き上げていく体制の確立も期待されるところです。
各地でのここまでの取り組みを拝見した限りでは、有効な指導法の開発に向けた協働がうまく機能していないケースが多いようにも感じます。
探究活動における評価(成果、取り組み)の方法や、成果発表会などの運営にも、大なり小なり課題が残っていますし、「探究的な学びに必要となるスキルや姿勢」についての共通理解が指導に当たる先生方の間で十分に形成されていないことにも一因がありそうな気がします。
プログラム自体だけでなく、「指導者スキルの向上」「評価方法の開発と運用」「カリキュラム全体の中での総合的な探究の時間の位置づけ」といったところまで視点を広げる中に、総合的な探究の時間で得る果実をより大きくする手がかりが見つかるはずです。
2016/06/20 公開の記事を再アップデートしました。
(前回更新:2021/03/18)
学習指導と進路指導という二本柱をしっかり立てれば成立したのがこれまでの指導計画でしたが、次期学習指導要領で加わる探究活動を組み込むには、単純にもう一本の柱を立てれば済む話ではありません。三つを組み合わせたスパイラルの形成が必要です。効果測定とスクラップ&ビルドの徹底を図ると同時に、様々な教育活動・指導場面を相互に関連付けて重ね合わせを上手に利用するという発想が欠かせません。
探究活動のテーマ探しは、生徒にとって大仕事。興味の持てるテーマや突き詰めるべき問いが見つけられずに迷う生徒も少なくありません。自分が何に興味を持っているかなんて、実際にそれに触れてみるまでわからないものです。その機会を作り出すのは、各教科の学習指導の中で先生方が発するプラスαの一問です。 教科書内容を少しはみ出した問いをひとつ教室に投げかけてみることには大きな意味があります。
探究を軸に各教科の学びをつなぐ Updated!
各教科の学習を重ねる中で、生徒は様々な能力・資質を身につけていきます。個々の科目・単元の知識や技能、考え方を学ぶ中で生徒が獲得したものは、教科の枠を越えて様々な場面で活かす場を持ち得ますが、それらを統合し、実戦的なものに高める機会として、総合的な探究の時間に期待されるものは小さくありません。個々の教科のみならず教育活動全体を一体にまとめ上げるときの「軸」にもなり得るはずです。
思い込みを乗り越えデータを基に世界を正しく見る習慣の大切さを改めて感じることがしばしばです。大切さに気付くのに年齢制限はないでしょうが、自らの進路を考え、社会にどう関わるかを探ろうとするときまでに気づけるかどうかはその後を大きく分けそうです。探究活動や課題研究の中にそうした気づきの機会を作り出していきましょう。
思考力や表現力を高める様々な取り組みが進んでいます。その先にあるのは「考えたことを実際の行動に移し、その中で役割を引き受けさせること」ではないでしょうか。課題を与えてその解決策を考えさせたところで、行動プランをまとめただけでは絵に描いた餅です。当事者としての覚悟と行動に結びついてこその課題研究や探究活動だと思います。
調べ学習との違いを十分に認識していなかったり、自らの進路やこれからの学びとの接点が意識されないまま、カッコつきの「探究活動」に取り組んでいる生徒がいます。探究活動の進め方や守るべき「作法」を学ぶ機会がなかったことが原因かもしれません。探究活動の方法に関する参考書を一冊持たせ頻繁に参照させたり、過年度生が残した論文を教材に作法を学ばせる指導機会を整えたりする必要がありそうです。
高校に入学してきた生徒が、小学校、中学校で何を体験してきたか、意外と把握できていないもの。指導はすべからく、現時点でできていることと最終的にできるようにさせたいことの差分を埋める活動です。小学校・中学校で生徒たちが何を経験し、どんなことができるようになっているかを把握しないことには、高校での指導は設計できません。
探究活動の目的から考えるテーマ選び Updated!
探究活動が目的とするところは、生徒たちが向き合っている/向き合うことになる様々な課題を解決するのに必要な「新たな知」を生成する方法を学ぶことと、興味を深める中で新たな疑問や解くべき問い(=学ぶことへの自分の理由)を作ることです。ここに隠されているキーワードは「自分の未来を拓く力」かもしれません。生徒にテーマを選ばせるときの指導で自分の未来との関りを探らせているでしょうか。
探究活動の効果測定アンケート New!
探究学習のプログラムが始まる前と、一連の指導を終えた後で、同じアンケートに答えさせれば、回答分布の違いからプログラム/指導の効果を推し量ることができるはず。指導を始める前(4月ですね)に最初のアンケートを行っておかないと、中間や最終でのデータとの比較ができません。質問文は、探究活動を通して獲得させたい能力・資質や姿勢などに焦点を当て、生徒を主語とするセンテンスで起こしましょう。
学習の記録(成果のみならず、どのような体験をしたか、そこでどんな考え/内省をもったか)を残していくポートフォリオは、生徒が自分の学習をコントロールする「メタ認知」を養うことを意図して作成するものですが、残されたログは様々な場面で活用されます。「ポートフォリオに残されたログをどう活用するのか、そのためにどんなログをどんな形で残すべきか」の共通認識の形成を図りましょう。
高校に入学した生徒が初めて挑戦する「総合的な探究の時間」。初めてのことだけに、取り組み方も含めてすべてが未知の領域です。的確な導入指導を行わないことには、単なる調べ学習との境界も曖昧なまま、進路との接点も見いだせずに貴重な学びの機会を浪費してしまうことにもなりかねません。どう取り組むか、何を目指すのかを学ばせるのに最適な「教材」のひとつは、過年度の卒業生が残してくれた「成果」です。
探究活動では、研究の対象となり得る事象を選び出し、そこに直接的に問いを立てるのが一般的ですが、探究活動の準備フェイズで先行研究や関連文献を読むはず。そこで打ち出されている結論や仮説に対して別の考え方を提示することにも挑戦させましょう。事象をより良く説明し得る仮説を立て、その検証方法を考えることだって立派な探究です。
こちらも併せてご参照ください。
前々回のアップデート(2018/12/11)における追記【再掲】
小中学校での「横断的・総合的な学習」で視野と興味のすそ野を広げ、高校での「探究的な学習」はその土台に立ち、自己の在り方、生き方と一体的で不可分な課題を自ら発見し、解決していくような学びを展開する(新学習指導要領解説「総合的な探究の時間」)ことになります。
中教審のワーキンググループが、高校の「総合的な学習の時間」の名称を「総合的な探究の時間」に変更する案をまとめたとの報道があったのは2016年6月17日のことでした。その後、2018年7月公示の学習指導要領解説でその具体的な内容が明らかになります。
今回の改訂では、科目の名称が変更されただけではなく、古典探究や地理探究、日本史探究、世界史探究、理数探究基礎及び理数探究といった科目も新設されており、まさに「探究」のオンパレードです。
上記解説の p.6 には、従来の総合的な学習の時間について
- 全国学力・学習状況調査の分析等において、総合的な学習の時間で探究のプロセスを意識した学習活動に取り組んでいる児童生徒ほど各教科の正答率が高い傾向にある
といった具合にその意義と成果を評価する一方で、
- 総合的な学習の時間と各教科・科目等との関連を明らかにすることについて学校により差がある
- 探究のプロセスの中でも「整理・分析」「まとめ・表現」に対する取組が十分ではない
- 小・中学校の取組の成果の上に高等学校にふさわしい実践が十分展開されているとは言えない
といった課題があるとの現況分析があります。今回の改訂の趣旨を理解するには、これらの課題意識を踏まえておく必要がありそうです。
2018年3月にパブリックコメント募集が終了した第3期教育振興基本計画の策定に向けた基本的な考え方にも目を通しておきたいところです。読んでの雑感を「第3期教育振興基本計画と総合的な探究の時間」に起こしました。お時間の許すときにご高覧いただければ光栄です。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一