探究を軸に各教科の学びをつなぐ

各教科の学習を重ねる中で、生徒は様々な能力・資質を身につけていきます。教科固有の知識や技能、考え方を獲得しながら、「汎用スキル」 と呼ばれるものや「学習方策」 なども形成が進んでいくはずです。
ある科目で獲得した思考様式もまた、当然ながら教科の枠を越えて様々な場面で利用されますが、それらを統合し、実戦的なものに高める機会として、総合的な探究の時間に期待されるものは小さくありません。
総合的な探究の時間は、個々の教科のみならず教育活動全体を一体感のある(=入学から卒業までのストーリーを備えた)ものにまとめ上げるときの「軸」にもなり得ます。

2016/05/20 公開の記事をアップデートしました。

❏ 各教科の学びを、互いに補完し、強化し合う関係に置く

教科書を自力で読む力、問いを立てる力などに加え、観察・調査で知ったことから仮説を導き、それを確かめる方法を考える手順なども含め、ある科目のどこかの単元で身につけたものはすべからく、他の場面でも応用できるはずですし、応用できてこそ「生きる力」足り得ます。
各教科の学びを通じて生徒の内に形成される能力・資質(21世紀型能力でいうところの「基礎力・思考力・実践力」など)は、教科の枠を超えて、鍛える機会・活用すべき機会を持つということです。
学習内容も他教科と関連付けて学ばせた方がより深く広い理解が期待できる部分は少なくありませんが、能力・資質の獲得には、すべての教科がコミットし、互いに補完と強化の役割を持つことが大切と考えます。
各科目の段階的な到達目標も、各教科がバラバラに考えるより、時期を同じくする指導では教科の枠を超えて、ある程度の共通要素を備えた方が、「重ね塗り」による定着と応用範囲の拡張が期待できそうです。
さらに学校行事、ホームルーム、生徒会活動、進路指導なども加わり、生活、学習、進路の3領域すべての教育活動が共通した目的を時期ごとに持てば、シナジーで総合的な教育効果はより大きくなるはずです。

❏ 軸を持たないと教科間、活動間での整合性が作りにくい

個々の指導が「目指すべき到達状態」をそれぞれ明確に持つことはもちろん大切ですが、生徒の成長という軸(=学年・学期の進行)に照らして、各教科を含めたあらゆる学びの目標が、互いに整合性を持つ必要があるはずです。
しかしながら、それぞれの教科や分掌、学年が考えるところを決め込んでから、互いに持ち寄り、摺り合わせを行うという手順では、互いのイメージするところが一致せず、作業は難航が予想されます。
生活、学習、進路の3領域での成長イメージを、学年・学期を軸にしてきちんと配列しておく必要があるのは言うまでもありませんが、それに加えて、最初に「軸」になるものを決めておき、それに合わせて教科・分掌・学年の各組織が、各々の指導を設計する方が、はるかにスムーズではないでしょうか。
その軸になり得る、最も有力な候補の一つが「総合的な探究の時間」のプログラムだと思います。

❏ 総合的な探究の時間を軸に教育活動全体を設計

以下のようなマトリクスを想定し、縦方向の段階性と、横方向の関連性を考えていきましょう。併せて斜めに位置するセルの活動や目標をどう利用するかにも思いを巡らせたいところです。
生活、学習、進路の段階的な到達目標が合理的に配列されているかの点検も同時に行いたいところです。


探究活動を進める上で必要とする力を想定しておき、それらを各教科がそれぞれの強みを生かして授業の中で養っていくという発想が、設計を容易にしてくれるはずですし、仕上がりもより合理的になるはずです。


既に計画が確定して動き出している本年度の指導でも、各単元の指導にどんな学習活動を配列し、それらを通じてどんな能力・資質を育てるのかという発想で指導計画をアレンジしつつ、日々の授業デザインに反映させていくことは十分に可能なはずです。

❏ 生徒が獲得した能力・資質はあらゆる場面で活用させる

探究プログラムの進行に合わせて生徒がどんどん身につけていく新たなスキルは、各教科の学びでも積極的に使わせていくようにしましょう。
教科の学びが深まり、広がるだけでなく、重ね塗りの効果などでスキルが一段と高次のものに昇華するチャンスも得られます。
1つの思考ツールを、学んだときと異なる環境・対象に当てはめて使ってみてこそ、応用できる範囲がグンと広がります。
適用可能な範囲は、最初の対象と2つ目の対象とを結んだ間、それらを一方に延長した先、さらにはその周辺へと大きく拡張されていきます。

❏ 学習内容×能力資質で作るマトリクス

学力観は、パフォーマンスモデルからコンピテンシーモデルへと転換が進んでいます。何を覚えたかではなく、何ができるようになったかに焦点が移ってきているということです。
冒頭にも書いた通り、各単元の内容を学ぶことを「手段」に、社会を生き抜くのに必要な能力・資質を身につけるという「目的」を達成していくことが、今後の学ばせ方に求められる方向性です。
教育活動の成果を評価するにも、各単元の内容をどれだけ定着させることができたかだけではなく、そこで学んだこと(学習内容×能力・資質)を、その後の別の学習機会に臨んだ時にどれだけ活用できるようになっているかに着目して行うべきだと思います。



ちなみに進路選択は生徒にとって究極の「探究」ですが、各教科での学びで見出した興味を、課題研究や探究活動で深めていくと、その先には学びたいことが生まれ、進路希望と志望理由へと形を変えていきます。
こうした変化を促進する場も、探究活動です。興味を突き詰めて掘り下げていくうちに、「大学に進んでこの先を学んでみたい」「学んだことを接点に社会にこんな関り方をしたい」と考えられるようになれば、進路意識形成の指導は半ば成果を得たようなものです。

面白いと思ったもの/興味を抱いたものに対して、調べたり考えたりする具体的な行動を取り、解明していく姿勢もまた、探究活動を通じてしか効果的には育めないのではないでしょうか。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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