別稿でも書いた通り、授業時間内における学習者の活動性は以前と比べて高まっていますが、せっかくの活動が学びの成果につながっているかと言えば、必ずしもそうとは言えないケースも見受けられます。
様々なアクテビティが授業時間内に配列され、生徒も反応よく活動していても、学びの目的であるコンピテンシーの増大という結果が伴わなければ、授業内の活動は自己目的化してしまっている可能性があります。
対話を通した「気づきや知識の交換」は思考の深化と拡充に欠かせませんが、生徒同士の話し合いを促すには、生徒が協働で解決すべき課題が正しくセットされている必要があります。この辺りについて手元にあるデータを用いて、少し考察をしてみました。
2016/10/25 公開の記事をアップデートしました。
❏ 目標理解、活用機会、授業内活動と学習効果の相関
生徒による授業評価アンケートのデータ( n=10,448 )を解析してみたところ、目標理解、活用機会、授業内活動、学習効果の4項目の間には以下のような相関が確認できました。
見ての通り、学習効果(授業を通じた学力や技能の向上や自分の成長を実感するかどうか)との間でもっと大きな相関係数が観測されたのは、目標理解(到達すべき状態や今やろうとしていることへの認識)です。
学習効果を目的変数とする重回帰分析の結果(下表)でも、目的変数に対する影響度を推し量るのに用いる偏回帰係数のt値は目標理解が最大であり、学習目標を正しく伝えているかどうかが学びの成果を大きく左右するのは間違いなさそうです。
下の円グラフは、偏回帰係数のt値で推測される学習効果への寄与度の構成比を表していますが、4割以上を目的理解が占めています。本時の学習を通じて目指すべきところをきちんと伝えないと、学びが実を結ぶのはかなり難しくなるということです。
❏ 生徒は解くべき課題を通じて学習目標を認識する
昨日の記事「学習目標は解くべき課題で示す」でも申し上げましたが、単元名を並べたところで、学習目標(本時の学びを通じて何を目指すのか)は生徒に伝わりません。
まだ習っていないことだけに何を学ぶかもわからなければ、何ができるようになれば良いのかもイメージできないからです。
下表は活用機会と目標理解の換算得点を5点刻みに区分けしたクロス集計における度数分布です。大きな度数が観察されたセルほど濃い網掛を施しました。
活用機会(習ったことを用いた課題解決を体験しているか)が低位であるほど、目標理解が低位に止まっているのは見ての通りです。表中にそれぞれ75ポイント(否定的な回答が概ね10%未満となる水準)で境界を太く描いてみましたが、第四象限に位置する授業は少数です。
目的意識がはっきりしなければ、活動にも身が入らず、そこに充足感を得ることもなけば、気づきや発想の交換も有為になされず、学びの深まりに寄与しないのは容易に想像できます。
実際のデータに照らしても、適切な課題の付与が授業内活動を促進している様子が見られます。下図でも箱はきれいに階段状に並んでいます。
❏ PBLの要素を含む授業デザインが「正解」の一つ
適切な課題の設定は学びに目的意識をもたらし、その解決に協働で取り組ませることが活動性を高め、対話的な学びの実現を引き寄せます。
目標理解と活用機会を整える授業デザインでもご紹介したように、
①課題を与えて仮の答えを作らせてから、
②(話を聞かせるばかりでなく)
自力で教科書を読んだり、
話し合わせて互いに疑問を解消し合い、
理解したことを共有する“能動的・協働的な学び”を経て
③答えを仕上げる工程に個人のタスクとして取り組ませる
という流れで授業のデザインを考えた方が、如上のデータが示す「あるべき授業像」を実現するのに汎用性のある近道の一つだと考えます。
目的意識さえ刺激しておけば、自分で読んで理解する力も補われます。聞かせるより読ませた方が早いし、返り読みもできます。できることはどんどんやらせる~生徒の邪魔をしないことが、単位時間あたりの学びの量を増やす上でも望ましいのは言うまでもありません。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一