達成すべき目標やポイントをはっきり示す

学習を通じて到達すべき状態を生徒に理解させておくことは、授業のわかりやすさを大きく高めます。目指していることに照らし、生徒が一つひとつの説明や指示の意味をより良く理解できるようになるからです。
目標に到達できたときの達成感もより明確になるため、次の学びに向けたモチベーションを向上させる働きも強まりますし、生徒の苦手意識を抑制する効果も確認されています。

2015/05/14 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 学習目標を提示するときの二大鉄則

学習目標を示すときの鉄則は、以下の2つです。

  1. 内容に入る前の導入フェイズで
  2. 生徒が自ら解を導くべき課題の形で

目標を最初に示しておく必要があるのは、学びを進める中で、不足する情報を補ったり、躓きを修正したりするのに、あらかじめ把握しておいた目標と照らすことが欠かせないからです。
ゴールを先に見せてこそ、こうした補完や修正が可能になります。
また、具体的な課題の形でなければ、達成したかどうかを生徒自身が判定できず、達成感も希薄になります。生徒が自らの達成を検証できるのは、正誤の判定が可能な「設問」にほぼ限られると考えましょう。

本時のポイントをもとに、「○○とはどういうことか」「~は何故か」というシンプルな問いを起こして板書するだけでも、単元名を示すだけの時よりはるかに大きな効果が見込めます。
隠されているものは覗きたくなるのと同じように、学びの場でも問いがあれば、答えを知りたくなるもの。知らないこと/明らかでないものの所在に気づけば、それを解消したいという欲求が生まれますが、これが最も原初的な「学ぶことへの自分の理由」ではないでしょうか。

❏ 目標を提示すると同時に「達成検証の基準」も用意

シラバスでよく見かける「○○について理解する」といった表記では、生徒の目標理解は進みません。まだ勉強したことのないことだけに項目名を挙げられても、どんなことを学ぶのかイメージすら困難です。
加えて、「何ができれば理解したことになるのか」も生徒にとって判然としないはず。これでは学習目標の達成を生徒が検証できません。
学習目標の書き出しは、「目指すべき到達状態」と「達成検証のための基準」の2つを同時に、生徒が理解できる表現で行う必要があります。
拙稿「目標理解と活用機会を整える授業デザイン」でご紹介した一連の流れ(下図)であれば、様々な場面で応用が効くはずです。

実技・実習の要素を大きく含む学習場面では「チェックリストを用いた目標提示と達成検証」も効果的だと思います。

❏ 問題意識を刺激すべくしっかりウォーミングアップ

教科学習指導の目標は、基本的には教える側が設定するもの。
当然ながら、初期状態において生徒は、「学ぶことへの自分の理由」を持っていないことがあります。
必要な知識を与え、理解を形成しようとあれこれ工夫しても、生徒の側での問題意識が希薄であったり、課題を他人事と捉えていては、「打てども響かず」「吹けども踊らず」になりがちです。
こうした場合、問いを与えて少し時間を取り、手持ちの知識で答えを考えさせるのも効果的です。詳しくは、「導入フェイズで仮の答えを作らせることの効果」をご参照ください。
具体的な手順は、科目の特性や単元の内容によって様々ですが、

といったところは、広く応用ができる手法かと存じます。
本時の学びを生徒に自分事と捉えさせる「学びのウォーミングアップ」を十分に行うことで、生徒の反応は見違えるほど改善します。

❏ 伝えたつもりなのに、学習目標が伝わっていない

生徒や学生にアンケート調査をしてみると、目標提示の項目で思いもよらぬ低評価を受けることもあります。
授業に臨むに当たり毎時間の目標を言葉で伝えたり、シラバスに明記したりするだけでは、生徒の目標理解は確かにならないということです。
生徒との学習目標の共有が進まなかったのは何故なのか。様々な理由を想定してみないと、効果的な対策は打てません。以下のようなケースもしばしば見受けられます。

  • 導入フェイズで問いを示したが、解明すべき疑問を生徒が見つけるには「考えさせる時間」が足りなかった
  • 内容に馴染みのない単元だったので、少し進めてから学習内容を振り返る中で学習目標を再確認すべきだった

併せて、「学習目標が伝わらない?(前編)(後編)」も、お時間の許すときにご高覧いただければ光栄です。

❏ 結果目標に加えて、行動目標も

ある日の授業/ある単元の学びを経て、何ができる(=どんな課題を解決できる)ようになるかだけが目標ではありません。
学びのための対話にどう参加するか、協働の場面で役割を担おうとしているかなど、授業内での行動そのものについても目標を示して適切に評価を行うことが大切です。
予習や復習の方法や、不明点が生じたときに採るべき行動などもまた、学習者としてのステージが進むごとに目指すべき状態が変わってきます。これも段階的な行動目標の一つでしょう。
明確な評価規準を示して、生徒自身にもそれに照らした振り返りをさせることで、学びに向けたメタ認知を高めることができます。

◆ 改善のための必須タスク:

今日の授業で何をするのか示すには、生徒が解を導くべき課題を以って行うのが最も簡単で確実な方法です。その上で、課題を解決するのに必要な知識や理解をどう身につけさせて行くか、説明や授業内活動の配列を考えるという手順を徹底しましょう。課題ありきの授業設計が活用機会を備え強い達成感を与える授業を実現します。

◆ さらなる改善を目指して:

しっかりと目標を示したとしても、生徒がそれを正しく認識しているとは限りません。授業終了時に「今日の目標は何であったか」を尋ねることで学習目標を意識する習慣を身につけさせるのも好適です。また、学び始める前に行う導入時ディスカッションも、課題の所在を生徒に意識させ、学ぶ理由を見つけさせるのに効果的です。
■関連記事:

  1. 学習目標の示し方(全3編+2)
  2. 解くべき課題で「何のために学んでいるか」を伝える
  3. 学ぶことへの自分の理由を持たせる~新単元等の導入指導


新課程では、ルーブリックなどの新しい評価方法が採り入れられます。評価規準として書き出すものは学習者が目指すべき目標状態そのものであり、「目標を正しく提示する」ためにも、活動評価の方法確立は待ったなしの課題のひとつです。
これまでにあまり馴染みのないものですので、「評価規準は使いながらブラッシュアップ」という姿勢で作成と運用に臨むのが好適です。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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