学習目標が伝わらない?(後編)

先生方と違い、生徒や学生は何といっても「新単元を学び始める前」です。単元や項目の目標や意義をどれだけ言葉を尽くして伝えても、意図するところをすべて理解し、受け止めるのは容易ではありません。
前稿では、そんな場合に試してみるべき方法として「内容を学び始める前のプレ活動」をご提案いたしました。今回は、それでもうまく行かないときの「次善の策」、終了時に使える一手も含めて考えてみます。

2015/02/24 公開の記事をアップデートしました。

❏ 先を見渡すロードマップとしての「単元シラバス」

ある程度のまとまりをもって学ぶ事柄の一部だけを取り出しても、その意義は生徒にとってわかりやすいものではありません。

  • 最終的にAという知識や技能を身につけるためにBが必要
  • 今日これから学ぶCは、そのBを理解するための前提

という場合、Aだけを取り出してその意義や価値を伝えても、学習者が抱くのは「だから何? それで?」という疑問だけかもしれません。
こうした場合に、目標を伝える役割を担うのは「シラバス」でしょう。
引用符で囲ったのは、いわゆる科目ごとに書き出すシラバスとはちょっと違うもの、という意味を込めてのことです。敢えて呼び名を変えるなら、「単元シラバス」とでも申しましょうか。
これから出てくる用語を並べただけでは、伝わるものは極僅かでしょうが、単元の全体を見渡す図(フローチャートは項目相関図)などを提示し、何をどんな関連の中で学んでいくか概略を掴ませましょう。
正確性より、「学びに向かう期待」を膨らませることが優先。如上の図に「ひと言コメント」や「問い」を添えるくらいで良いかと思います。
新しい単元に入るとき、ざっと教科書のページをめくらせて、全体を通して見渡させることでも、学びの展望に多少の違いは生まれます。
ここに余計な時間はかけられませんが、場合によっては、科目の学習内容から大学等での学問や先端研究、社会での応用などに繋がる「系譜」を簡単なプレゼンにまとめて、話して聞かせるのも面白そうです。
その日の授業/単元で学ぶことが繋がる先を、生徒/学生にイメージさせる、言い換えれば、生徒が関わりを認識できるゴールを先に見せておくことが、学びの意味を知らしめることに繋がるということです。
しかしながら、導入フェイズでここにあまり時間を掛けると、本題を学ぶ時間が圧迫されます。前単元の学習が終わったタイミングで、「次回の予告」のような形でハイライトだけ見せるのは如何でしょうか。

❏ 学びを終えての振り返りで、学習目標を改めて認識

学ぶ前には、学習目標をしっかりと認識することが難しいという現実に対処するもう一つの方法があります。
その項目や単元の学びを終えた段階で行う「振り返り」で、本時の学びの意味や位置づけを「再」確認させるという方法です。
導入フェイズでは、「学び終えたときに答えられるようになるべき問い」「これから学ぶことを使って解決すべき課題」を見せたとしても、学んできたことの位置づけを俯瞰的に捉えているとは限りません。
シラバスに記載した文言を改めて示し、教科書やノートの記述の一つひとつが「言葉で表現された学習目標」とどう関わるのか、照らし合わせて確認させてみることで、腑に落ちる部分もあるはずです。
別のアプローチとしては、リフレクションシートなどに、目標認識を質すチェックリストを用意して、振り返りををさせてみるのも好適です。
リストには、「○○について説明できる」「○○のメカニズムを理解できた」など、学習者を主語にしたセンテンスを並べて置き、何段階かの選択肢(強い肯定~強い否定)で答えさせてみましょう。
なぜ、その答えを選んだか、理由を考えて言語化させてみると、生徒/学生自身の「学びへの内省」はグンと深まります。
如上のチェックリストを作るには、お手間が一つ増えてしまいますが、本時/単元の到達目標を明確に規定し直すことになり、指導計画や授業デザインもそれに沿ったブレのないものにしやすくなります。
授業評価アンケートには「教員の熱意」を尋ねる項目を含むこともあろうかと思いますが、そのデータを見ると、教える側が場面ごとの目標を明確にしておかないと、学習者には意欲や熱意が伝わらないようです。
毎回の授業/単元ごとに作るのは手間も小さくないと思いますが、毎年更新しながら使っていけば、2年目以降の負担は軽くなります。
言うならば、一種の「先行投資」です。早く手を付ければ、その分、「利子」も大きく期待できます。先任者が残した「資産」(チェックリストや目標を認識させるのに好適なタスクなど)も活用しましょう。

❏ 本時の学びの先にあるものを、終了フェイズで示す方法

授業を終えるときに「本時の学びの先にあるもの」を短いエピソードなどで例示するという方法も考えられます。
この方法は、「不足する情報を目的と照らして補完する」「理解力を底上げする」という、明確な目標提示によって狙うところを満たさないため、最初の選択肢にはなり得ませんが、学んだことの意味をより深く知ることが、次の学びへのモチベーションを作る効果は期待できます。
前述の「学びを終えての振り返り」にも当てはまることですが、この方法を上手く機能させるには、「習慣化」がキーワードになります。
如上の体験を幾度も重ねていく中で、「学び始めは目標を正しく理解できない(=先生が見ているものを上手く想像できない)ときでも、粘って授業に食いついていきさえすれば、最後にはちゃんとめざししていたものが腑に落ちる」という認識に生徒/学生を引き込みましょう。
たまに思いつきでやってみても、あまり大きな効果は期待できません。習慣化を通じて、「今日の学びが目的とするのは何だろう」と考えながら授業に参加するようになってくれれば、シメたものです。
ある科目の学びを通して生まれたこうした意識は、他の科目での学びにも広がっていきます。様々な場面で、「自分がやっていることの意味が今はわからなくても、最後まで真面目に取り組めば、パッと先の展望が開ける(こともある)」と考えられるようになれば、学習者として大きな成長を遂げたことになるのではないでしょうか。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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