授業内での活動を通した達成感・充足感

思考力・判断力・表現力を養うために主体的、対話的で深い学びの実現が求められていますが、思考とは、解くべき課題があってはじめて発動し、対話を通じて着想や知識を交換することで拡張・深化が図られるもの。表現力を磨くためにも、考えたところを相手に伝える活動は欠かせません。観察の窓も、生徒を活動させることではじめて開かれます。
討論や練習、作業などの活動を通じて多くの生徒が充足感を得ているクラスほど、学力向上感が強いことは後掲のデータが示す通りです。別稿でお伝えした通り、学力向上感のあるところには、その科目への興味の深まり、ひいては学び続ける生徒の姿が期待できます。
■関連記事:対話と協働による気づきと学びの深まり

2015/05/20 公開の記事をアップデートしました。

❏ まずは目標をはっきり認識させる

授業内活動が豊富に用意されて、真面目に取り組んでも、目的とするところが見えていなければ、生徒は「やらされ感」を抱くばかりです。
自分から能動的に関わった場合にしか「充足感」は得られません。
話し合いを通じて答えを導くべき問いや、練習を通して到達を目指す状態をしっかり理解させておくことが先決です。
解くべき課題を用意せずに漫然と話し合いをさせても対話の自己目的化は避けられません。課題を解決するという共通目的があってこそ、知識や発想の交換が促されるということです。

練習に取り組ませる場面でも、真面目に/元気に取り組むこと自体を目的にしないようにしましょう。
練習場面での成果確認“を生徒自身ができるような仕掛けを講じることで、達成に向けた努力も引き出せますし、達成感による次に向けたモチベーションの増大が期待できます。

❏ 活動性を高めれば、学習効果を引き上げられる

授業内活動を通じて得る充足感と、授業を受けて学力の向上や自分の成長を実感できることの間にははっきりとした相関が見られます。

その場面で目指していることを認識しているかどうか(目標理解)によって、分布は上下方向だけでなく、左右方向にも分かれています。
データから読み取れるのは、

同じように活動をさせても目標が理解できていなければ学習成果に繋がらず、目標を理解していなければ活動自体にも身が入らない

ということであり、「まずは目標をはっきり認識させる」ことの重要性は、このデータからも明らかです。
近似線から下方に離れた(=活動性が高い割に学習効果があまり実感されない)授業では、活動が自己目的化している可能性があります。以下の拙稿も併せてご参照ください。

❏ チームに対する貢献という要素を組み込む

せっかく活動場面を設けても、生徒の側に消極性が強く残る場合もあります。そんな時は、失敗への恐怖を上回る、強い動機を与えるように仕掛けましょう。
自分だけのための活動ならサボるという選択もある意味では「自由」ですが、「チームへの貢献」という要素が組み込まれると状況は一変します。周囲の足を引っ張るとなればそうそうサボれません。
人間同士ですから相性もあります。チームやペアを固定してしまうと上手く行かないこともありますし、マンネリ化も早くなります。チームやパートナーを頻繁に入れ替えることも、人間関係の固定で生じるマンネリ化を防ぐ効果があります。
フォーメーションの変更は、違ったタイプの相手との協働において、適切な行動を選択できるようになる練習の場にもなるはずです。

❏ 思考や協働の前提となる知識を整える

考えを膨らませ、議論を盛り上げるには、考えるための知識や理解が必要です。以下のデータは、伝えるべきをしっかり伝える技術が積極的な活動を支えることを示しています。
いかに短時間で必要な知識を与えて「核となる理解」を作るかは、教える側の腕の見せどころです。教える部分でモタモタしては、授業内活動に充てる時間は減るばかりです。


授業内活動に取り組ませる前に、しっかり教えて入り口となる理解を作りましょう。その上で、教科書や資料、参照型副教材を生徒自身に読ませ、必要な知識や概念を拾い上げる練習をさせることも大切です。

❏ 生徒を指名して発言させる方法にも注意を

積極的に発言させよう、授業参加の機会を作ろうと発言者を指名することが、意図に反して生徒の活動を抑制しているときがあります。
指名されたら答えるということは、指名されない限り発言しなくてよい/発言してはいけないという意味も持ち合わせます。
出席番号順、座席順に当てても、準備のできていない生徒を当てて授業の流れを止めたり、せっかく考えを持っているのに発表の機会を与えそこなったりします。
指名の前に、しっかり観察するべきであり、活動させてみないことには観察のチャンスも得られないということを常に念頭におきましょう。

追記:
上手に転ばせて、立ち上がり方を覚えさせることも重要です。活動に積極的に取り組ませるには、「間違えたり躓いたりしたときの修正こそが大きな学び」と、失敗を肯定的に捉えさせる必要があります。
丁寧な手引きで成功体験を積み上げさせることも大切ですが、転んだ経験がないと立ち上がり方を覚えられず、必要以上に失敗を恐れるようになります。課題を与えて挑ませたとき、ファーストトライはうまくいかなくても、セカンドトライで成功すれば、それが自信(=失敗を恐れない気持ち)にもなり得ます。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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