知識の獲得は個人の活動を通じて

授業デザインを考えるとき、生徒が個人の活動で取り組むべきものと、集団の中での協働でしか学ばせられないものとを区別しておかないと、各単元で扱うべき学習内容を限られた指導機会に納めきれません。
新課程では、学ぶべき内容は減らない中、対話を通した深い学びを実現することが求められます。授業時間という枠が同じところにより多くのものを詰め込むのは、相当の工夫なしには困難です。
授業内に散らばる小さな無駄を省いて隙間を詰める(cf. 限られた授業時間を有効に使う)ことに加えて、50分間の中に配列するものと、授業外の自学に持ち出すものとをきちんと分けられるかどうかが問われます。

2018/11/26 公開の記事をアップデートしました。

❏ 教室の中で/集団でしかできないこと

貴重な授業時間は、教室の中でしかできないこと(対面でしかできないこと)に集中して配分し、それ以外は生徒に自学自習で取り組ませるというのが基本的な方向性になるはずです。
集団でしかできないことは何かと言えば、主なところは、

  • 生徒同士の話し合いで、発想の拡充を図る
  • 多様な意見や考えに触れて判断の軸を作る
  • 先生との問答を通じて思考の深化を図る
  • 他者に伝えることを前提に表現力を鍛える
  • 他者の発言を理解し、その土台の上に自分の考えをまとめる

といった部分などになるはずです。いずれも思考力・判断力・表現力といった学力要素に関わるものであり、対話を土台に成立します。
もちろん、単調な練習など個人ではダレてしまいがちな活動も、周りも頑張っている(競い合っている)環境の下で取り組ませれば、モチベーションの向上が図れるかもしれませんが…。
 ■ 教室でしかできない学びを充実~問いを軸に授業を設計
大学入学共通テストでは、様々な「学習場面」を想定した問題があちらこちらに見られます。高校の教室でどう学ばせるべきか、出題に込めたメッセージをしっかり受け止めて授業をデザインしたいものです。

❏ 個人の活動の中で取り組ませるべきこと

一方、個人でもできること/取り組ませるべきことには、

などが挙げられると思います。
この外にも、授業で学んだことをもとに課題にじっくり取り組み、自分の答えを仕上げることも、授業外で生徒が個々に取り組むことに含まれます(cf. 答えを仕上げる中で学びは深まる)が、上記3つはいずれも、知識の獲得(必要な情報を集めて知に編むこと)を目的としています。

#1 教科書に書かれていることを自力で読んで理解する

教科書をきちんと読ませることは、高大接続改革以降の大学入試で出題が増えている「学習型問題」への対応力を養う上でも欠かせません。
読めばわかるように書かれている教科書すらきちんと読めないのでは、学校を卒業した後に、必要に迫られて何かを学ばなければならなくなったときにお手上げです。
但し、予習の範囲をページなどで指定しただけでは、どう勉強して良いものか生徒には判断がつきにくいもの。コロナ禍における一斉休校期間に、宿題は与えているのに「何をしたらよいかわからない」との悲鳴があちこちで聞こえたのは記憶に新しいところでしょう。
 ■ 休校が続いて、何をやればいいのかわからない?
指定した範囲をちゃんと読めば解ける問題を示し、「教科書の〇ページから〇ページを読んで、上の問いに答えなさい」とするだけでも生徒の反応はずいぶん違ったものになるはずです。
生徒が自力で読んで理解するには少々ハードルが高いところでは、項目ごとに作成した短い解説動画を用意して、各自で視聴させておくという手もあります。教室で貴重な授業時間を使って先生がその場で説明する必要は薄れてきたのではないでしょうか。動画は一度作ってしまえば、様々な場面で使いまわしもできますし、作成も「分業」が可能なため、先生方お一人当たりの負担も軽くできます。

#2 知らないことを辞書や参照型教材に当たって調べる

教科書や問題集/プリントなどを予習させようとすれば、当然ながら、そこには生徒がまだ習っていないことが含まれますが、「習っていないからわからない」という声に「そうだよね」と予習の指示を引っ込めてしまっては、生徒の学習者としての自立は遅れるばかりです。
授業の中で未習内容に触れるときに、一から十まで先生が説明してあげるのではなく、発問を起点に、生徒が手元の辞書や参照型教材のページを開き、必要な情報や知識にアクセスすることを習慣化させておけば、予習の段階でも同様の行動が取れるようになっていくはずです。
知らないことを手元にあるものを使って調べる(=副教材と対話する)ことができるようになっていれば、授業後の発展的な課題に取り組ませるときも、未習の内容に触れているかどうか気にする必要もないはず。課題の自由度も格段に上がり、ニーズに応じた学びに挑ませられます。

#3 進路希望など個のニーズに応じて知識の拡充を図る

基本的なところは、別稿「知識をどこまで拡張するかは個々のニーズに合わせて」で書いた通りですが、クラスの全員にきちんと押さえさせるべきところと、生徒それぞれの必要に合わせて拡張していく「その先の学び」はきちんと線引きしておきたいところです。
難関大学を志す生徒などに、発展的な内容まで学ばせたいときは、拡張すべき知識の範囲をしっかり示したうえで、必要な事柄が漏れないよう項目のリストを提示するなどの手立てを講じましょう。
また、志望校に合わせて過去問の演習に取り組ませることもあるでしょうが、そこで求められる未習の知識についても「読めばわかる/理解を深められる資料」を手元に持たせることが大切です。
たいていの場合は、用語集や参考書で用が足りるはずですが、必要に応じて別添資料(他の教材・書籍からのコピーや新聞記事のスクラップ、最新の統計データなど)を与えておけば、より深く、広い範囲まで知識や発想を拡張していく手助けができるのではないでしょうか。



個人の活動の中で取り組ませるべきことを、3つの場面を例に考えてみましたが、いずれも、先生が説明して聞かせなければどうにもならない状態を抜け出せてこそ、学習者としての自立が進みますし、貴重な授業時間を「教室でしかできない学び」に充てることもできます。
限られた授業時間の中で、より深い学びを実現するには、生徒が授業準備(予習)で整えてきた知識のバックグランドの上に、対話的な学びを構築していく必要があります。教室をそういう場にプロデュースできるかどうか、先生方のアイデアとスキルが今後ますます求められます。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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