教室の中で「興味が生まれる瞬間」を体験させる

自分が何に興味を持つか、実際にやってみる/経験してみるまでわからないもの。体験の中に興味が生まれます。全く興味のなかったことにチャレンジせざるを得ない状況におかれ、仕方なくやってみたら面白く、すっかりはまってしまったという経験をお持ちの方も少なくないかと。
教室/学校は、生徒の意思に拘わらず、指導計画に基づいて様々なことを生徒に経験させることができる数少ない場です。すべての教科の学習を繋げば、世の中のあらゆることに触れる機会を作れますし、各単元での学びを「調べ学習」や「探究活動」に接続すれば、対象への関わりをより深いところで持たせることもできるはずです。
見つけ出した興味を掘り下げたり、押し広げたりする(芽生えた興味を育てる)方法を学ばせることができるのも教室にほかなりません。
経験の場を作り、「知の地平」を広げる方法と姿勢を学ばせ、生徒一人ひとりが興味や目標を見つけられるように導いていきましょう。

2016/08/09 公開の記事をアップデートしました。

(旧タイトル: 教室は、興味が生まれる瞬間を体験して学ばせる場)

❏ 興味が芽生え、目標が見つかるのを待っていては…

生徒の進路意識を刺激し、具体的な進路を選ばせていく過程の中で最も厄介な問題のひとつは「やりたいことを生徒が見つけられない」ことではないかと思います。
目標を設定させることで生徒の頑張りを引き出そうと思っても、目的の手前にあるはずの興味が見つからないのでは指導は立ち往生。何か探せと無理強いしては、生徒は「やりたいことを見つけられない自分」を責めてしまい、自信を失っていくこともあります。
将来就きたい職業などを目標に設定し、それを実現するために今何をするべきかを考えさせたり、頑張らせたりするという戦略は「目標が見つけられるまで、頑張りを引き出せない」というジレンマを抱えます。

ようやく目標を見つけて頑張り始めたときにはすでに、目標実現までの距離が残り時間に比して大きくなり過ぎていて、結局諦めざるを得なかったという事態すらあり得ない話ではありません。興味や目標を生徒が見つけるのを待っているわけにはいかないのではないでしょうか。

❏ 最も広く興味の対象を探せるのは教科学習

進路指導の一環として設定されている「職場体験」や「地域参加」といった活動も、生徒が自分事として捉え得る対象を見つける機会にはなりますが、対象になるものが特化されがちで、すべての生徒が興味を刺激される体験になるとは限りません。
進路講演や大学訪問なども、対象が絞られますので、既に生まれている興味を深めたり、押し広げたりすることにその機能が偏りがちです。
これらに比べて、日々の教室での各教科の学習は、総体としてカバーするところがケタ違いに広く、より多くの(望むべくはすべての)生徒に興味の芽を見つけさせる場になり得るのではないでしょうか。
各単元の導入で、生徒の身の回りにある「自分事」として向き合わなければならない問題をクイズ仕立てにしてみたり、賛否の立場を明らかにさせてディスカッションをさせてみたりといった仕掛けもあり得ます。

また、ひと通りの学習を終えた段階で、探究から進路へのきっかけを作るプラス α の一問を与えることも、生徒の内に芽生えながら気づかれずに埋もれていた興味を掘り起こすことに効果が期待できそうです。
生徒に興味の芽を見つけさせられるか、その目を育てることができるかは、授業をデザインする先生の発想によるところが大きいと言えます。

❏ 見つけた「興味の芽」の育て方を学ばせる

何かに興味をもっても、スマホでちょこちょこっと検索し、表示されたものをざっと読んだだけでわかった気になっていては、興味は膨らみも深まりもしませんし、自分との関わり(=関心)も見つかりません。
検索して得られた情報の信ぴょう性を評価したり、別の視点からの考察にも触れて、双方に矛盾するところを見つけてどう対処するかを考えさせたりしてこそ、掘り下げるべき興味が具体化します。
このフェイズを生徒任せにしては、そうそう先には進まないはずです。各教科の内容を学ばせる過程で、情報の集め方、評価の仕方、矛盾への対処などを、実地に体験させながら身につけさせることが重要です。

拡張型調べ学習やミニ探究などを、生徒の負担が大きくなり過ぎないように配慮しつつ、早い段階で(=進路選択に本格的に取り組み始める前に)経験させておく必要があると考えます。
中学の理科や社会の授業で、単元内容に沿った「自主レポート」を任意に課し、提出されたものから特に優れた「成果」を選んで、学年全体でシェアすることを繰り返していたケースでは、生徒たちが、互いの取り組みから刺激を受けつつ「興味の広げ方、深め方」を学んでいました。

❏ 努力して達成した中に興味が生まれる

初期にいだいた単純な興味を掘り下げてみたり、わからないことを調べてみたりする中に、新たにより強い具体的な興味を見つけることは少なくないと思います。先生方もご経験があるのではないでしょうか。
興味を持てと言われても困惑するばかりですが、取り組む課題が明確に示されて挑んでみた中には新たな発見もあるでしょうし、そうした体験を重ねるうちに、「取り敢えず一生懸命にやってみたら何か面白いことがあるかも」と考えるようになってくれればシメたものです。
事前の指導を通してきちんと達成可能性が担保されていれば、「やればできる自分」にも出会え、自己効力感を高めて、広く物事に対し積極的に取り組む姿勢も生まれてくると思います。


努力→達成→興味(→努力)の循環を生みだすことが重要ということですが、先生方が外から作れる入り口は「努力の対象」を正しく設定することにしかないはず。先生方がやるべきことは、チャレンジングな課題/生徒が努力して答えを作るべき問いを用意することです。



達成可能で且つチャレンジングな課題を用意して生徒に取り組ませることで「興味が生まれる瞬間」を体験させたら、次にやるべきは、そこで得た気づきを揮発させずに、しっかり深めて次のフェイズに繋ぐこと。
体験から得たものを消化し、自分のものにするには、振り返りを通じた内省をしっかり行う必要があります。ポートフォリオにログとして書き出したものと、後日改めて対話してみることも「自分を見つける」のに大きな効果が期待できます。

何かに取り組み、努力して達成した中には、思いもしなかった興味が生まれることを、教室の中で「学習」した生徒であれば、学校を卒業した後に、万が一、選択した進路の先が閉ざされてしまう事態になったり、目標を見失ってしまったりしたときも、そこで立ち往生することなく、新たなチャレンジを通して道を探してくれるのではないかと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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