学校に限ったことではありませんが、新しいこと(学校なら、教科・科目の新設、授業デザインの更新、新しい評価方法の導入など)にチャレンジしようとするときには、きちんと踏んでおきたい「手順」というものがあります。
目的とするところの確認や、その達成に必要な事柄の洗い出しもそこそこに、思いつくまま拙速に走り始めては「成果」は不確かなはずです。
成果検証の方法も考えておかないと「やりっぱなし」になりがち。次の指導サイクルでも効果の出ない取り組みを続ける事態も想定されます。
とりわけ、多くの先生方が関わる指導では、計画の実効性を十分に吟味せず、手順と方法だけを決めて「全体で一斉に実施」というのでは少々乱暴に過ぎる(失敗のリスクが大きい)ように思います。
2016/06/28 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 取り組みを通して目指すところをしっかり意識
どの学校でも毎年、新たな取り組みが教育活動に組み込まれているかと思います。新課程への移行で「総合的な探究の時間」も始まりました。主体的・対話的な学びを通じた深い学びの実現も新たな挑戦です。
新しい取り組みでは「最適解」は未確立である上、経験則も働かない場面も多いはずです。当然ながら、先生方は、不安と期待の入り混じる気持ちを抱きつつ、「手探り」で指導を進めていくことになります。
何のマニュアル(指導計画)もなければ、指導を進めるのもままならないでしょうが、「マニュアルありきでの指導にはリスクあり」です。
指導計画が、目的の達成をどこまで確実なものにしてくれるかも(少なくとも指導が一巡するまでは)はっきりしませんし、マニュアルに沿って指導を進めることに意識を取られると、創意も十分に働きません。
指導を進めるときに常に立ち返るべきは、「新たな取り組みを通じて、どんな能力や資質を獲得させるのか、行動や思考においてどんな変化を期待するのか」という、新たな取り組みを導入した「目的」です。
担当されるすべての先生方が、事前の協議で作成した指導計画を土台にしつつ、「目的に照らして最善」と考える方法を常に(=指導のあらゆるフェイズで)考え続けていくことが大切です。
新たな取り組みを始めるときは、「仮の指導案」をすべての先生方の目の前におき、目的とするところ(指導プログラムの全工程を経たときのゴール、各フェイズで通過させたい到達目標)まで掘り下げて、その理解をしっかり掘り下げておく必要があるということです。
❏ 評価基準を用いて、目標の確認と効果の測定
プログラム全体の目的/各フェイズの目標を明確にするには、評価の観点と規準を定めることです。
先生方個々の取り組みでも、目指すところをぼんやりとイメージするだけよりも、基準を言語化した方が、目的も明確になりますし、生徒を観察・評価するときの視点もブレのないものになるはずです。
評価基準に照らし、各フェイズの指導の効果を測定すれば、不足していたところも明確になり、次の指導サイクルでの改善も図れますし、十分な効果が確認できたら、その方法に自信も持てます。
当然ながら、複数の先生が関わって行う指導では、目標の共有と目線合わせが必須ですが、評価基準はその欠かせない材料です。
各フェイズの指導を終えたところで効果測定の結果を照らし合わせれば、どの先生の実践に倣うべきものがあるかアタリをつけることもでき、それを土台に協働でブラッシュアップを図っていけるはずです。
ここまでの流れのおさらいですが、「新たな取り組みを始めるとき」には、以下の手順をきちんと踏んでものごとを進めていきましょう。
- 目的とするところの確認(全体+各フェイズ)
- 効果測定の方法(=評価基準)をしっかり検討
- それぞれが工夫を凝らし最善と思う方法で試行
- 効果測定の結果を比較して、優良実践を抽出
- そこでの手法をベースに更なるブラッシュアップ
当然ながら、1から5までのサイクル(いわゆる「PDCA」ですね)が一巡したら、最初の指導計画にも更新すべき箇所が明らかになっているはず。次の指導機会に向けて、朱入れを忘れずにしたいところです。
評価基準にも、「基準を適用した結果」と「先生方の直観的な評価」とがどうしても一致しないようなら、基準そのものを書き改めていきましょう。「評価規準は使いながらブラッシュアップ」です。
❏ 先行事例の研究で、初期の指導案の完成度を高める
新しい取り組みの「指導案の初期バージョン」を起こすときも、闇雲に/想像力だけを頼りに立案するのではなく、先行事例を十分に研究し、指導成果の予測精度をなるべく高めておきたいところです。
全国に視野を広げれば、様々な「先行研究」がありますし、実践報告に加えて、ルーブリックを用いた評価結果の変化や、ポートフォリオに現れた生徒の意識変革の様子などをデータとした検証結果(エビデンス)を掲載した研究紀要が残されているケースも少なくありません。
こうした知見を利用せずに、ゼロから自校のプログラムを考えて試行錯誤に生徒を巻き込むのと、一定の効果が期待できる状態で取り組みを開始するのとでは大違いです。
新たな取り組みに試行錯誤はつきもの。しかしながら、「錯誤」 の多くは先行研究にしっかり学ぶことで避けられるものだと思います。
実際に指導を始めても、試行錯誤で手詰まりになることしばしばというときと、日々の手応えを実感できる場合とでは、指導に当たる先生方のモチベーションの維持にも大きな違いが生じるのではないでしょうか。
❏ 理解者と賛同者を増やしていくことにも注力
学校の教育活動に限ったことではありませんが、新しく始まった取り組みには、ノリノリの方だけでなく、「抵抗」や「疑念」を感じている方も、コミュニティ(≒職員室)にはいるものです。
そうした方々にも、取り組みの意義と効果を知ってもらい、理解者を経て、賛同者・協働者になってもらうことも、取り組みを学校全体のものにして行くには欠かせませんし、理解者・協働者が増えれば、そこで生まれる新たな知恵もより大きなものになっていくはずです。
前出の「効果測定」は、取り組みへの理解と共感を増やしていくために不可欠な活動でもあります。
一つ上の学年が取り組んで成果を得ていた取り組みが、次年度の学年で取りやめになる/継承されないという勿体ないケースも、効果測定で得られたエビデンスとそれを用いた「理解を得る活動」の不足に起因するのではないでしょうか。
また、抵抗や疑念は、先生方のみならず、生徒や保護者の中にも存在するかもしれません。学校を挙げて展開する教育活動に、意欲的・能動的に参加してもらい、大きな成果が得られるよう、効果測定の結果は学校広報を通じて生徒・保護者にも伝えていく必要があると考えます。
❏ うまくいかないときは作戦ミスと実行ミスの切り分け
新たな取り組みには、ある程度の失敗はつきものです。意欲的に組んだプログラムが所期の成果を得ないとガッカリしますが、失敗の原因には作戦ミスと実行ミスがありますので、その切り分けも重要です。
作戦が合理的であっても、指導に当たる先生方の目線合わせが不十分で履行に徹底されないところがあったり、指導に必要なスキルが不足するのを放置していたりすれば、計画は成果を結びません。
作戦ミスか、実行ミスかの見極めを怠ると、大きな成果が期待できるところで、手を引いてしまう愚を犯してしまうかもしれません。
作戦(指導計画)の改善を、PDCAサイクルをきちんと回して継続的に進めていくのと並行して、実行ミスの要因を一つひとつ解消していくこともまた「新たな取り組み」を成果に結びつけるための鉄則です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一