指導案の優劣を論じるときも

ある単元の指導案を持ち寄ってその改善協議をするとき、あるいは教育実習生にアドバイスをするときなど、参加者それぞれの経験や考え方が競合を起こし、議論がかみ合わないことも少なくないかと思います。
過日の記事とも関連しますが、エビデンスがないまま指導案/指導方法の優劣を論じても、主観がぶつかり合うばかりで、簡単には「より良い指導の方法を先生方の協働で作り出していく場」になりません。

2016/06/29 公開の記事を再アップデートしました。

❏ まずは到達目標と、指導の効果を測る方法の共有

方法について議論を始める前に、先ずは「生徒が理解すべきこと/できるようになるべきことは何か」の摺り合わせを行って、次に指導の成果を測る方法(=その単元で学んだことが生きて働く知識・理解になったかを確かめるための具体的な問題や課題)を考えていくのが好適です。
いきなり指導方法を論じる場合より、結論(納得解)を導きやすいところを入り口にして、その先を一歩ずつ進めた方が、主観や主張の対立も避けやすく、議論の空回りも減らせるはずです。
成果の測定方法を定めたら、学習目標の達成を目指し、先生方がそれぞれが最善と思う方法/手順で生徒の指導に当たりましょう。
目標とゴールを共有していますので、ちぐはぐな方向にバラけることもなく、方向性を同じくしたそれぞれの工夫が生まれるはずです。
どちらの/どなたの指導法がより大きな成果(=学習内容の深く確かな理解)をあげたかは、如上の問題/課題の採点結果に表れます。
指導の目標と指導の効果を測定する方法を予め決めたことで、「比較の方法がフェアではない」といった不満も出にくいと思います。
比較の結果/データに基づき「より効果的な指導法」を共有できれば、それをもとに知恵を出し合い、さらに磨いていく協働も生まれます。
目標と測定手段を共有した上で、先生方がそれぞれ最善と考える方法で指導に当たっている以上、生徒は何ら不利益は受けませんし、指導法改善のための「実験台」にしているとの批判にも当たらないはずです。

❏ 学ばせ方の優劣は、学習目標の達成度合いに表れる

当たり前のことですが、指導法がどれだけ優れているかを決めるのは、学習目標を生徒がどれだけ達成できたかによってです。
教室が如何に盛り上がろうと、生徒が真剣に話を聞いていようと、「本時の狙い」を達成した生徒が少なければ、授業として所期の成果/十分な学習効果をあげたとは言えません。
優れた指導法とは、ねらいを確実に形にできる方法、学習目標をより可能性高く達成できる方法です。
高大接続改革で始まったパフォーマンスモデルからコンピテンシーモデルへの学力観の転換が、新課程への移行で加速した今、もはや「どれだけ多くを教え、生徒が解き方を知っている問題を増やすか」に意識を奪われていては、新しい学力観の下での「学習目標」は達成できません。
単元の内容を生徒がどれだけ深く理解できたか、獲得した知識や理解がどれだけ生きて働くものになったかを測定することなしに、優劣を論じてもあまり意味があるようには思えません。
ちなみに、学び方(学習方策)の獲得そのものも、これまで以上に重要な目標となっていますので、指導の成果を試す道具には「学習型問題」なども採り込んでいく必要があろうかと思います。

❏ 本時の狙いを、生徒が解くべき問い/課題に起こす

どんな授業でも、「本時の狙い」は存在するはず。それらを達成すれば答えを導ける問いを用意しておき、生徒に答えを考えさせれば、答案上には指導が得た成果がそのまま表れるのではないでしょうか。
問いを与えられて発動し、生徒が重ねた思考の結果を言語化させることで、生徒の頭の中に形成されていた知識や理解、それらが生きて働いた様子が答案として記録されます。
思考の結果の言語化/学んだ成果のアウトプットは、別稿で触れたように、学習内容のより深い理解と定着に寄与しますので、問いを用意し答えを書き上げさせるのは、生徒にとってもメリットが大きいはずです。
また、その問題を授業の冒頭で示しておけば、学習目標を生徒に伝えるのにも役立ち、クラス全体の学びの総量をより大きなものにする効果も得られるはずです。(cf. 学習目標は解くべき課題で示す
ちなみに、穴埋め/選択問題ばかりでは本当に理解しているかどうかは不明です。「○○について、以下の用語を用いて説明しなさい」といった問いを用いてこそ、理解の度合いをきちんと確かめられます。

❏ 答えに表れた学びの成果を比較して優良実践を探る

答案という「記録」を材料に、それぞれの先生の指導方法がどれだけの成果を得たのかを比べる中で、共有すべき優れた方法を探りましょう。比較の結果は、好適な実践であることを示すエビデンスです。
なお、答案以外にも、学びを終えて生徒が残したリフレクション・ログを効果測定の材料にすることもできます。但し、ログが「感想のようなもの」では、効果を測る材料にはなりにくいもの。「本時に何を学び、どんな疑問が残り、これから何を掘り下げたいか」を書かせましょう。
答案として「記録」された学びの成果(=指導の成果)を比較するに当たり、いわゆる「総合点」だけ見ても、得るものは大きくありません。
きちんと「観点」を設けた採点を行ってこそ、どの方法(=どの先生が行ってきた指導)が、どの領域でアドバンテージを持っているかを探れるようになるはずです。
論述式の問題なら、採点ルーブリックの導入も検討すべきですし、既習内容の定着に焦点を当てた部分とその応用力を試す部分とで分けた集計(cf. 考査問題における得点集計)なども必要なはずです。
生徒の答案から「大きな指導成果」が読み取れる授業を見つけたら、今度は、その実践が大きな効果を上げている理由の特定です。授業を漫然と真似ても、同じ成果が得られるわけではありません。
どんな工夫がどんな効果を得ているかを、授業者ご本人の分析として伝えてもらったり、相互参観の場を作り、多くの先生方の見立てを持ち寄って、倣うべきノウハウを洗い出していくことが大切です。

こうした機会を通じて得た、授業改善へのヒントは、自分が担当する教室でも試してみることになりますが、ちゃんと倣ったつもりなのに、想定と違うレスポンスを生徒が示すかもしれません。
クラスごとに生徒が備える学習者特性は違いますので、それに応じたアレンジ/アジャストが必要なのは当然です。色々と仮説を立てて、工夫を重ねながら「自分のもの」にしておきましょう。

  • 「この導入では、この部分に焦点を置けない生徒がでるのでは?」
  • 「このペアワークはもう少し誘導を緩くした方が良いかも?」
  • 「ここは難しいから、隣同士で話し合わせて頭の準備をさせよう」
  • 「ここは動きで見せないとだめだな。映像を用意しようか?」

実際の教室に臨む前には、新たな指導案を試したときの展開(教室の様子)を頭の中でシミュレーションしておきましょう。予想に基づき修正B案を用意しておくことが、確かな成果を得る可能性を高めます。



エビデンスのない、感覚的/主観的な議論に得るものは多くないはず。下手をすれば「意見の対立」という事実(禍根?)を残してしまうかもしれません。授業改善/より良い学ばせ方の実現に向けた先生方の協働を推し進めるには、新しい学力観に基づく評価方法の確立が前提です。

新たなチャレンジに先生方の協働で取り組むとき(記事まとめ)
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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