総合的な探究の時間(探究活動)が「自己の在り方生き方を考えながらよりよく課題を発見し、解決していく」ための能力・資質の育成を目標とする学びの場であることは言うまでもありません。
前半の「自己の在り方生き方を考えながら」を実現するには探究テーマの選択に際して「進路との接点」をしっかり意識する必要があります。
ここで目指しているのは、21世紀型能力の外縁を形成する「実践力」に含まれる「自律的活動力」「持続可能な未来への責任」の獲得です。
後半の「よりよく課題を発見し、解決していく(ための能力・資質)」は、21世紀型能力でその中核を形成する「思考力」の構成要素の一つである「課題解決・発見力・創造力」と一致します。
能力や資質を獲得するには、それらを発揮する場を経験することが必要ですが、探究活動の各フェイズに正しく取り組ませる(=きちんと「作法」を踏ませる)ことなしには、体験を正しい学びに構成できません。
探究活動の進める中で踏まえるべき「作法」をきちんと学ばせられるかどうかが、総合的な探究の時間の成否を分けるということです。
2018/06/08 公開の記事をアップデートしました。
❏ プログラムを進める拠り所と、各フェイズでの評価基準
探究活動の進め方と各フェイズで踏まえるべき作法(取り組み方のポイント)を学ばせるには、何らかの「教科書」が必要です。
適切な教科書を用意してあげることができれば、常時参照させることでポイントを外さない取り組みに導くことができ、探究活動を通して図ろうとしている「能力・資質の獲得」がより確かなものになります。
拠り所となるフレーム(別稿でご紹介した「PPDACサイクル」などもその一例です)は、様々なものが各方面から提案されていますので、自校に合ったものを選び、必要なアレンジを加えていきましょう。
他校で上手くいった実績があるものでも、自校の生徒が備える特性や資質と完全にマッチしているとは限りません。実際の生徒を目の前にした指導を重ねる中で、先生方の気づきを組み込んでいくことが大切です。
また、フレームに沿って各フェイズの活動を配列したプログラム(探究活動のカリキュラム)を組んでも、それだけでは「やりっぱなし」になりかねません。各フェイズで基準を整えて評価を行いましょう。
評価基準は、取り組みの「成果」だけでなく、取り組み方(プロセス)にも観点を設けるべきであるのは言うまでもありません。
探究テーマを選び出すフェイズなら、「選んだテーマの中に、自分の将来/進路との関わりが持ち得るか」という成果部分に加えて、「テーマを選び出すまでに踏むべきプロセスをきちんと踏んだか」にもしっかりと評価の目を向ける必要があるということです。
繰り返しながら、能力・資質の獲得は活動への取り組みの積み上げの中でこそ図られるものであり、後者の観点を欠いた評価では、活動を正しく経験していない生徒をそのまま放置することになってしまいます。
❏ 手引きは、フェイズごとに配布して生徒に綴じさせる
如上の「探究活動の教科書(手引き)」は、以下の2つのパートで構成されるのが普通かと思います。
- プログラム全体の流れを把握するための目次やフロー
- 各フェイズの進め方の説明とそこで用いるチェックリスト
このうち、2.の各フェイズに関する部分は、プログラムの開始時点で熟読させてみたところで、まだ経験のないところなので生徒にはピンと来ずに、理解も困難だと思います。
探究活動のプログラムが進んでいく中で、「これから取り組む直近のタスク」を理解するのに使っていくことになります。
1.の目次とフローの部分にしても、これから探究活動を始めるという段階(導入ガイダンスのときなど)に読ませたり説明したりしても、各フェイズで行うことを理解していないので、「こんなふうに進めていくのかな」と想像させるところまでが精一杯かと思います。
となれば、これらを年度の冒頭で冊子にして配布する必要はないはず。
進路の手引きと同様(別稿参照)に、各フェイズを迎えるときに配布して、ポイントを押さえさせたうえで、生徒自身の手でファイルに綴じさせていくのでも良さそうです。
各フェイズで目指すところと取り組み方の説明、生徒自身が書き込んでいくワークシート、振り返りで用いるチェックリスト(ルーブリック)からなる「フェイズごとの手引き」であれば、前フェイズまでの指導で見出された成果と課題を反映させたものにしやすいはずです。
配布の前に先生方の間で読み合わせをする中で、指導方針やこだわるべきポイントの確認を行えば、指導のバラツキも抑えられると思います。
なお、目次&フローのパートは進路関連の行事なども一緒に組み込んだカレンダー形式で作るのが好適です。先に控えている様々な学び/選択の場を認識させておくことで、展望を持った計画的行動を促せますし、探究活動と進路指導の一体化も図りやすくなります。
❏ 各フェイズを終えるときにはしっかりと振り返り
探究学習のプログラムにおける各フェイズを終えるときには、しっかりとそこまでの取り組みと成果を生徒に振り返らせるようにしましょう。
探究活動は、3年間/6年間の中で幾度も繰り返すことができません。他教科のように「カリキュラムのスパイラルを利用した学び直し」の機会を設けるのが容易ではないということです。
一度の体験をきっちりと学びに構成させていく(探究活動の作法を学び取らせていく)には、個々の取り組みを終えたときの振り返りと、不足が残った場合の仕上げを徹底させる必要があります。
何の材料も与えずに振り返りを求めては、成果のたな卸しも課題の形成も曖昧にしかできません。観点を定め、各々について段階的な到達規準を示したルーブリックを「チェクリスト」として添えましょう。
当然ながら、初めて目にする評価基準を正しく適用できる生徒は多くないはずです。生徒自身による振り返りの結果に対する評価/フィードバックを与えることで、正しい自己評価に導くことが重要です。
予め用意しておいたチェックリスト/評価基準に「的確な振り返りをさせる上での過不足」が見つかったら、次の機会(次年度)に向けて、ブラッシュアップしておくことも忘れないようにしましょう。別稿でも申し上げた通り、評価規準は使いながらブラッシュアップです。
❏ 探究活動の作法を学ばせる、その他のアプローチ
ここまで、探究活動のプログラムを進めながら、各フェイズにおいて、ガイダンスと振り返り(+仕上げ)で、探究活動への取り組み方(踏まえるべき作法)を学ばせていくことをご提案してきました。
これらにより、「探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うこと」が具体的にどのような行動を取ることか、どんな姿勢が求められているのか、生徒に一つずつ学ばせていきましょう。
これ以外にも、以下のようなアプローチも考えられます。
まとまった書籍を副教材として持たせて参照させる
探究学習の進め方についてまとめた書籍を購入させて、副教材として頻繁に参照させる/使い込ませるという手もあります。
自校のプログラムと整合性に欠く部分もあろうかと思いますが、参照型副教材として使うのであれば、必要な箇所をその都度ピックアップすることで、弊害を抑えた利用が可能なはずです。
プログラムが次のフェイズに進むときは、該当箇所を指定して「予習」させることも可能です。(読んで理解する力を養う機会にもなるかも)
ただし、ワークシートや振り返り用のチェックリスト(ルーブリック)は、別途用意する必要があります。書き込んだものはきちんとファイリングさせて、ポートフォリオとして整えさせていきましょう。
先輩学年の成果物をモデル/反面教師に事例研究
別稿でも触れましたが、既卒生が残した「成果」を教材に行う探究活動の導入指導にはかなり大きな効果が見込めます。
あくまでも事例ベースの勉強ですので、探究活動の作法についての「体系的な理解」を作るのには向きませんが、入り口での指導として行い、問題意識や興味を刺激しておけば、その後の指導がスムーズです。
先輩学年で作成した「論文集」(冊子)や廊下などに掲示されたポスターなども、同様の教材になり得ますが、講評者のコメントもなしにただ読ませるだけでは、悪しきモデルを学ばせてしまうリスクがあります。
注目に値するもの(学ぶべきところを内包するもの)をピックアップした上で、先生方や外部から講評者として招いた方のコメントを添えておくと、その論文/ポスターから学べるものが大きくなります。
総合的な探究の時間が目標とするところは、「探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成すること」(学習指導要領より)です。
指導を設計するとき、指導に当たる時には、常にこの定義に立ち戻り、目指す「能力・資質」の獲得に有為な活動を配列できているか、点検を怠らないようにしましょう。
各教科の学習活動の中でも、「資料を与えて読ませる/探させる、そしてその先に」を意識することが肝要かと存じます。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一