「相互啓発」とは、学習者が互いの答案・発言・思考過程などを共有し合い、その違いや着眼点を材料にして理解や発想を更新していく「気づきの交換」の働きを指します。
学習の過程では、同じ問いに向き合っていても、生徒ごとに着眼点や情報の拾い方、答えの組み立て方が異なります。これらを発表や答案共有の場で持ち寄ることで、他者の発想や思考の道筋に触れることで、自分の理解や答えを見直す契機が生まれます。
このとき交換されるのは「答え」そのものだけではありません。答えに至る過程で得た着眼点、途中段階での気づき、言語化された考え方などが共有されることで、学習者は自分一人では得にくい視点を取り込み、理解や思考を更新していきます。
こうした気づきの交換を通じた学びの更新が「相互啓発」であり、これがよく働く教室ほど、好ましい学びのコミュニティと呼べます。
必要とされる背景
問いや課題を前にして発動した思考は、対話による気づきの交換で、新たな発想や情報に触れます。それを取り込むことによって思考は深まり、視野は広がります。「対話的な学び」により実現を図る、こうした相互啓発が働く環境なしには、深い学びは実現しません(2452)。
導き出した答え(答案)を評価するときにも、「模範解答」との異同だけを視点しては、斜め上の発想は取り込めません。様々な発想、根拠、情報などを、生徒それぞれが持ち寄ったものを統合・俯瞰することで、より良い答えが生まれ出ることも少なくありません(15440)。
生徒は、課題への取り組み方や学ぶ姿勢なども、互いの工夫と努力から学びます。先生方が示した「科目の学び方」に従うだけでは不足もあるはず。周囲の頑張りと工夫に触れて、さらなる工夫を重ねることがより良い学び方の発見と確立(守破離)をもたらします(2641)。
判断力や協働性、多様性の獲得を図るときも、様々な発想に触れて自らの考えを更新していく必要があります。自分以外の考えに触れなければ「独善」に陥りますし、「正解」を学ぶだけでは、解法が未解決の問題への納得解を導きだす方法を学べません(15389、14740、2472)。
実践の場での使い方
1.対話や共有の前に、まず個人で十分に考えさせる
生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発)では、生徒一人ひとりが課題に向き合い、自分なりの答えや着眼点を持ってこそ相互啓発が働くと申し上げました。準備が不十分なまま話し合いに入らせると、他者の考えに安易に依存する生徒が生まれやすく、気づきの交換は起こりません。対話は個人ワークの時間を確保した上で設けることが肝要です。
2.シェアする答案や発表は、先生方の目で意図的に選び出す
答案のシェアや発表で相互啓発を正しく働かせるには、提出物をそのまま並べるだけでは不十分。学びの材料として十分に機能しなくなりがちです。教室で共有する答案や発表は、努力や工夫が見えるもの、あるいは答案改善の過程をシェアすることにより「クラス全体の学び」になり得るものをきちんと選び出しましょう。
3.発表や答案共有は、取り組みを相対化する機会として設計
生徒は「振り返り」を効果的に行えているかでは、「発表の場は相対化スキルの獲得に寄与しているか」との問いを投げ掛けさせてもらいました。発表の機会は、生徒に「頑張る理由」を与え得るものですが、それだけでは学習の改善は図れません。互いの取り組みや成果に触れ、自分の学びを「相対化」する機会として設計してこそ相互啓発が働きます。
4.相互啓発を働かせた後は、必ず学びの仕上げに取り組ませる
答えを仕上げる中で学びは深まるでは、採点基準に照らした自己採点や他の生徒の答案との比較は、「答えの仕上げ」に向かわせる入り口と位置付けました。他者の発想や答案に触れても、そのままで学びが深まるわけではありません。共有によって得た気づきを踏まえ、再び個人ワークに戻って答えを仕上げ直すことで、学習は確かなものになります。
■関連記事:
- 言語化を通じて育む「振り返りのための相対化スキル」
- プレゼンテーション/成果発表を機につくる成長の場
- 多様な生徒で構成する学びのコミュニティ
- 学びの個別最適化の問題点と教室での対応
- 不明の解消に、先生以外のコンサル先を確保させる
- 最初の答えと作り直した答えの差分=学びの成果
- 学習内容が同じでもアプローチによって学びの質は異なる
授業改善を加速するための共通言語(用語集)
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
