探究型学習の充実を図ろうとするとき、図書室との十分な連携は欠かせません。各教科の学習で「調べる、資料を探す」といった活動を増やしていこうとするときも同じです。これらを教育活動の軸に据えて全校で力を入れていこうと決めたのであれば、なおさらでしょう。
学校をお訪ねするとき、可能な限り図書室を覗くようにしていますが、自習室としての使用がメインになっていることがしばしばで、蔵書群に学校の教育目標や特色ある教育活動として打ち出しているものとの関りが見出せないケースも少なからずというのが実感です。
2018/06/11 公開の記事をアップデートしました。
❏ 探究の方法を解説した参考書籍をしっかり揃える
探究活動の作法(進め方と各フェイズのポイント)を学ばせる[別稿参照]にも、それらを扱った参考図書が図書室にきちんと揃えられていて必要なときすぐに参照できる環境にしておくことは大切です。
調査や実験、アンケートの方法や、統計に関する実践例、論文のまとめ方などを詳述した参考図書は、しっかり蔵書に揃っているでしょうか。
書架のどこかを探せばある、というのでは生徒の目にもつきにくく、あまり活用してもらえないかもしれません。
一つのコーナーに集め、探究活動のフェイズごとに配列してあげれば、色々な書籍を見比べて自分に合ったものを見つけるのも容易になるでしょうし、一つ先のフェイズに目を向けさせることもできます。
探究活動のフェイズが進むごとに、図書室に揃っている書籍リストを配布/配信すれば、活用を促すことができ、活動そのものの好ましさを一段上の水準に引き上げていくこともできるのではないでしょうか。
本格的な参考書は、結構な値段になることがしばしばです。生徒に購入させるのはちょっと躊躇われますし、本屋さんに足を運んで自分に合ったものを探してごらんという学習参考書のような扱いでは、生徒が良書を選び出せるかどうか怪しいところです。
❏ テーマ探しの参考図書の扱いは慎重に
探究の方法を詳しく解説した書籍以外にも、生徒の探究マインドを刺激し、テーマ探しや研究の進め方を考える上で参考になる書籍や資料も、できる限り図書室に揃えておきたいところです。
ただし、「探究テーマ集」「自由研究のアイデア」といった類のものを安易に揃えて図書室に並べてしまうと、ページをめくって見つけた「面白そう」なものに飛びついてしまいがち。
さらに言えば、書籍に出ているものに発想が縛られるのか、そこに紹介されているものの中からしかテーマを探さなくなる傾向も見られます。
テーマを探し、問いを立てること自体が探究活動の重要な目的の一つです。そこを他人(著者)任せにさせたくはありません。
ちなみに、Yahoo!知恵袋で「探究/探求(の)テーマ」で検索してみると、今日の時点で1,000件以上がヒットします。テーマ選びに困っている高校生が多いということですが、相談するのはここではないはず。
自分の将来に大きく関わる部分を、顔も素性もわからない他人の助言に委ねるのは、あまりにも不用心に過ぎるのではないでしょうか。
❏ 各教科の先生方からの推薦図書を集めた特設コーナー
探究関係の蔵書を整備するときに、探究活動の設計・運用を担う組織・分掌の先生方や司書の先生にすべて任せてしまうのではなく、各教科の先生方の立場からも書籍選びに関わっていくべきかと思います。
以下の別稿でも書いた通り、探究に繋がるきっかけを作るのは、各教科の学習指導に期待されるところです。
各教科の授業の中で、探究に繋がる何らかの問いやタスクを与えたときに、生徒が参照すべき蔵書/資料を生徒がアクセスできるところ(図書室など)に揃えて置かないと、動きが取れなくなりそうです。
各教科の先生方一人ひとりに、探究のテーマになり得ることがらを扱った、自教科との関わりのある書籍を挙げてもらい、教科会で揉んで候補を絞った上で、図書室の蔵書に加えてもらうのは如何でしょうか。
問いのあり方に焦点を置いた授業研究を進める中で、先生方ご自身が参照した/読んでみた本は、その候補になり得るはずです。
それらの本をまとめて「特設コーナー」を作り、各先生の図書推薦の言葉をコンパクトにまとめたもの(ミニ書評?)を添えておけば、書籍の活用のハードルも下がり、手を伸ばしてみる生徒も増えそうです。
推薦図書は、教科の枠にはあまり囚われず、社会が解決しようとしている課題や先端研究が明らかにしようとしていることなど、先生方が読んで純粋に「面白い、興味深い」と思った本でも良いかと思います。
探究活動というと、自然科学が中心かのように思われがちですが、人文科学にだって社会科学にだって高校生が探究すべきテーマがあります。
調べ学習に終わってしまわないよう、きちんと問いを立てて、自分が考えた答えを仮説として検証することさえできれば、どんなテーマだって十分に論文になり得ますし、生徒にとっては「上級学校に進んで本格的に学びたいこと」を見つける入り口にもなるはずです。
❏ 過年度生が取り組んだ成果も、図書室に揃えておく
過年度生の成果をまとめた「論文集」や、ポスターセッションなどで使ったプレゼンテーションなども、後輩学年が探究活動を進めていくときの参考になります。
こうした資料も、どこかにしまい込まれていたら、生徒はアクセスできません。論文集はすべての年度のものを図書室に備えましょう。
ポスターは現物を保管するのは大変ですし、いちいちめくって中身を確認するにも用紙が大き過ぎて面倒です。正面からスマホで撮影したものを画像データとしてパソコンから閲覧できた方が便利です。
ポスターを作製したときに、生徒本人に撮影させ、データを提出させれば、収集の面倒はミニマム。管理も、クローズドなネットワーク(有線LANで接続したNASなど)を利用すれば、外部からのアクセスも遮断できて、管理は多少は楽になるかと思います。
各論文のサマリーに加え、ジャンルなどのインデックスを設定しておけば、検索もできて便利です。如上の画像データをアップ(提出)するときに、生徒自身に入力させるという手もありそうです。
大抵の学校には「図書委員」がいるかと思いますが、図書室に備える探究関連の書籍や資料類の整理を図書委員会の仕事とするのも好適かと。
蔵書の中から、特設コーナーに並べるのに相応しいものを選びだしてディスプレイする作業は、なかなか知的で面白く、学びにもなります。
これらの「仕事」を、探究活動を担当される先生や司書の先生が被ってしまい、負担を抱えこむよりも、生徒に楽しい経験、貴重な学びの機会を提供した方が、双方にとって好ましいのではないでしょうか。
ちなみに、こうして出来上がったディスプレイは、図書室通信や生徒会新聞で全校生徒に伝えた上で、その紙面を学校HPにも掲載すれば、学校/生徒たちの意欲的な取り組みとして校内外に伝えられます。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一