道具が変わっても必要であり続けること(まとめ)

ICTの導入が進み、教室で使えるサービスやアプリもどんどん増えてきました。学ばせ方の可能性が大きく膨らみ、生徒に獲得させることができる能力・資質はさらに幅広いものになったということです。
道具の使い方を含めての課題解決力ですので、新しい道具を使った様々なチャレンジの場をきちんと整えてあげることは大切です。

しかしながら、その一方で、たとえ道具が変わろうとも、生徒が身に付け、出来るようになっておかなければならないことの中には、これまでと何ら変わらない/さらに重要になる部分も少なくありません。

2016/03/16 公開の記事をアップデートしました。

❏ 書かれていることを理解させる場面でも

教科書や資料を自力で読み、そこに書かれていることから必要な情報をピックアップして、知に編める(=理解できる)かどうかは、日々の学習活動で「読むこと」にどれだけ取り組ませているかに左右されます。
スライドを作り込んでおけば、教科書のページを開かせずにも授業はできるかもしれませんが、大事な練習をスキップしたことになるかも。
教科書をきちんと読ませることの必要性は改めて申し上げるまでもありませんが、読ませるときにひと工夫を加えることで、効能はさらに大きなものになるはずです。
声に出して読ませることだけでも、不用意な読み飛ばしを防ぎ、一語一句に十分な注意を向けさせることができますし、読んで答えるべき問いを予め与えておくことで、目的意識を持った読みが実現します。

指定された箇所を読んだ上で、その中に問いを立てることを予習の課題とすれば、テクストとのより深い対話も期待できるはずです。
学び終えてもう一度教材に目を通すときも、書かれていることを覚えるだけでなく、新たな問いを立てさせるようにしたいところです。

❏ 図版やイラストなどの非言語情報を読ませるときにも

また、読むべきものにはテクスト(言語情報)だけではなく、イラストや図表、グラフといった非言語情報もまたその対象に含まれます。
デジタル機器を使えば、リアルなイメージを生徒の眼前に提示するのは苦もないことですが、生徒一人ひとりがきちんと観察して、その特徴を十分に捉えているとは限りません。
板書やプロジェクタで提示した図表類は、印刷物で配布するより、生徒自身に「目で見て手を動かして書き写させる」方が、対象を精緻に観察し、本質を捉えたり理解を深めたりする効果は大きくなります。

こうしたトレーニングを教室で積むことで、生徒は必要な方法と姿勢を身に付けていきます。先生がスライドを起こし、特徴を言葉で伝える/マークアップさせるだけでは、生徒の学びを不用意に肩代わりしてしまうことになりかねません。

❏ 集めた情報を整理・構造化するスキルの獲得も

与えられた/提示された情報をきちんと整理(構造化)して、理解する(=知に編む)ところも、生徒に実際にアタマと手を動させる必要があるのは、別稿でも申し上げた通りです。

溢れかえる情報の大波に飲み込まれることのないよう、整理や構造化の方法を学ばせておく必要があるのは言うまでもありません。
また、教室の中で各単元の学習内容を学びながら生徒が獲得した「情報を整理・構造化する技術」は、将来の社会生活や職業生活において「協働で課題解決に取り組む必要」が生じたときにも武器になります。
やり取りされる情報を二次元平面に展開・固定しつつ、共通理解を形成しながら、問題を整理し、議論を方向づけていくときに用いる「ファシリテーション・グラフィック」も、ベースとなるのは教室で先生方が板書で用いているものと変わりません。
しっかりとモデルを見せつつ、生徒を対話に巻き込んで、共時的にそのプロセスを体験させていきましょう。
個人/チームで新たなアイデアを練ろうというときにも、アイデアを膨らませ、まとめる方法への習熟は欠かせないものになるはずです。
こうした「生きる力」の構成要素を獲得するトレーニングの場を、道具の便利さに煽られ、うっかり生徒から奪ってしまっては本末転倒です。



コロナ禍の中で、ICTの活用は一気に進みました。学ばせ方の可能性は新しい道具で大きく広がり、試してみるべきことも多々ありますが、学びの中で生徒に身に付けさせるべきもの(能力・資質に加えて、様々なスキル)を見失わずに、新旧取り混ぜた多様な選択肢から、その場に最適なもの(教具の使い方、学ばせ方)を選び出す力を、先生方はこれまで以上に強く期待されているということだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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