新しい道具は、思考法や行動様式も変える

この記事を初めて公開した頃は、デジタル機器の普及による、調べる、整理する、伝えるといった部分での行動変化や、思考の補助でのアプリ活用などに着目していましたが、ここ数年で起きた変化はその延長線上を大きくはみ出し、当時の想像をはるかに超えるものでした。
道具が変われば、人の行動は変わるというのは、当時も今も変わりませんが、生成AIの登場と急速な普及は、思考法や学び方、さらには「何を人が担うべきか」という棲み分けの認識にも影響を与えています。
普段の生活(仕事も含みます)で使える道具は、当然のこととして、教室での学びやテストの場に持ち込まれます。新しい道具を正しく使うための思考法と行動様式の獲得を目指した、指導と評価が求められます。

2016/03/15 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 急速に変化が進む、「覚える」「調べる」ことの意味

生成AIの登場以前から「わからないことはネットで検索」という行動はすっかり定着していましたが、「調べればいいや」という感覚が、覚えることを軽んじる姿勢にも繋がっているような気がします。
記憶に収められた知識は、思考の道具であり、物事を調べるにしても、知識のない所からは検索のやりようも限られてきます。

また、生成AIによって「普通」になったノークリック検索(AIが示した「答え」を読んで完結する行動)によって、複数の情報を比較・吟味し、自分なりの理解を築いていく姿勢も希薄になってきています。
疑問を起点に調べ、わかったことを土台に新たな問いを立てる。こうした問いの連鎖の中で、物事を理解していく姿勢と方法を、各教科の学習指導や探究活動の指導できちんと育んて行けるかが問われています。
スマホで「正解らしきもの」が瞬時に得られる時代を迎え、情報の信頼性を評価するスキルと姿勢、矛盾を見つけて適切に対処する力を涵養することの必要性も、以前とは比較にならないほど高まっています。

❏ 新しい道具を使ってこそ広がる「学びの可能性」

新しい道具の価値は「早くできる」「楽になる」といった効率化だけではありません。時間や手間の問題で日常的に行うのが難しかった学習活動が、より現実的なものなる点にこそ、大きな意味があるはずです。
生成AIの登場に先駆けて、急速に普及と整備が進んだデジタル機器やクラウドサービスは、互いの考えを共有しながら比較したり、多様な資料を集めて整理するのを容易にしました。様々なアプリは、紙の上ではできなかった試行錯誤を可能にしています。

そこに生成AIが加わり、生徒の「調べる」「整理する」といった活動も支えやすくなり、学びの個別最適化の可能性も膨らみました。思考の過程で「壁打ち(対話)」の相手をAIにさせることもできます。
当然ながら、新しい道具を正しく使うには、使う側にも「土台」となるもの(思考力や判断の軸)が不可欠。使わせながら学ばせましょう。

以前なら、途中で手が止まってしまっていた生徒が、AIの伴走で学びを前に進められるようになれば、先生方の仕事の重心も「教える」「導く」から、評価とフィードバックに移ってくるはず。そこでは先生方のアシスタントとしてのAIの利活用が増えてくるものと思われます。

❏ 情報を集めた先にある、「知に編む」「思考に活用」

新しい道具の登場と普及で「情報を集め、答えらしきものを手にする」までの工程は劇的に短縮されましたが、それらを用いて、正しい選択を重ね、より良く生きるには、さらに歩を進める必要があります。
集めた情報は、目の前/周囲の問題の解決に使ってこそ、意味を持ちます。情報だけ持っていても、正しい選択に活用できなければ、より良く生きることにも繋がらず、知識は活きて働くものになりません。
物事を観察し、そこに問題を見つけないことには、どんな知識や理解が必要かもあたりが付けられず、調べるという行動も起きません。新しい道具を効果的に使えるかどうかは「問いを立てる力」で決まります。

日々の教室の中で、こうした力をどこまで育めるかが問われます。問いを軸に授業をデザインし、必要な情報を集め、知に編む工程をデジタルやAIを使って経験させることで、学びの機会を整えましょう。
こうした力(姿勢と方法)の獲得が強く求められるようになったのも、新しい道具の登場によってです。道具は「可能性」を広げると同時に、道具を使いこなすための「必要」もまた大きくしています。新しい道具が求める「思考法や行動様式」の変化は、ここにも生じています。
今後、拡充が期待されている「学びの個別最適化」の実現にも、デジタルやAIは大きな助けとなりますが、指導設計の発想をきちんと組み上げないと、道具の可能性に振り回されるだけという事態にもなりかねません。(cf. 学びの個別最適化の問題点と教室での対応



新しい道具は、思考や行動の変容を求めますが、その一方で、「道具が変わっても必要であり続けること」だってあります。学習場面で昔から行われてきたことの価値も、ときに立ち止まって再確認すべきです。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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