学びの成果を妨げているボトルネックはどこに?

授業評価アンケートの集計結果を分析してみると、「目的変数」であるⅦ学習効果への寄与度で最も大きな値を示すのは、Ⅴ活用機会です。
Ⅶ学習効果を目的変数、先生方の直接的なコントロールが比較的容易なⅠ~Ⅵの各項目(評価項目と質問文はこちらでご参照いただけます)を説明変数とする重回帰分析の決定係数は0.827と十分に大きな値です。
習ったことをもとに考える機会が課題などで整っていることは、新課程が求める「知識・理解に生きて働く場」を与えるために不可欠ですが、この項目の改善はⅦ学習効果を「ほぼ」確実に押し上げます。
下図は、この夏にご採用いただいた学校での授業評価アンケートのデータ(国社数理英、回答者数10名以上、n=3,230)で作成したものです。
見ての通り、Ⅴ活用機会の集計値(評価)が高まると、箱の位置はぐんぐん高くなっていきます。


説明を聞いたり、教科書などを読んだり、あるいは話し合う中で得た知識・理解を用いて、問いに答える/課題の解決を図る中で、知識・理解は生きて働くものになるだけでなく、応用の効く「思考の道具」に昇華し、定着も進みますので、こうした相関は半ば当たり前だと思います。
しかしながら、冒頭で「ほぼ」と申し上げた通り、上図を見ても、下方のひげに含まれている授業は、ときに2つも3つも下の階級の平均値にすら届かないこともあります。
知識活用の機会を整えながらも、どこかに「ボトルネック」が生じて、学びの成果(学習効果)を妨げていると考えられます。

❏ ボトルネックはどこで発生するか

ボトルネックの発生は様々な箇所で考えられますが、まずは以下のいずれかを疑ってみるのが好適です。当然ながら、複数の要因が重なり、目詰まりをきついものにしているケースもあります。

  1. 指示や説明が十分に伝わっていない
  2. 課題に挑ませる前の理解確認が不十分
  3. 答えを出した後の「仕上げ」がなされていない

指示や説明が十分に伝わっていない

指示や説明がわかりにくければ、課題解決や対話協働といった学習活動に取り組むための土台となる知識や理解が十分に形成されていないはずです。手順も理解しておらず、戸惑いで時間を無駄にしているかも。
知識・理解の獲得フェイズに余計な時間が掛かれば、活動に充てられる時間も圧迫され、じっくり取り組めなくなるのもデメリットです。
不確かな土台の上に積み上げられるものは大きくなりません。授業評価アンケートのⅡ指示や説明の評価が相対的に低ければ(別稿のグラフに照らしてご確認下さい)、まずはその改善が急務です。

課題に挑ませる前の理解確認が不十分

説明を聞かせたり、教科書や資料を読ませたりして、課題に取り組むのに必要な知識や理解を「与えた」としても、それを生徒がしっかり消化して「受け取っている」かどうかはまた別の話です。
知識活用の場に臨ませる前に、そこまでの理解が十分かどうか確かめるようにしましょう。問いにどうアプローチするかを隣同士で話し合わせるだけでも、生徒の頭の中を覗く「観察の窓」が開けます。
もし、理解に不十分なところが残っていたとしても、話し合う中で生徒が互いにそれを補い合うこと(教え合い)も期待できるはずです。

答えを出した後の「仕上げ」がなされていない

問いに挑んで生徒が答えを導いたとしても、学びはそこで終わりではありません。不完全な答えしか導けなかった生徒は、調べ直したり、人に聞いたりして、残っていた不明を解消しなければならないはずです。
また、「それなりの答え」を作れた生徒にしても、さらに視野を広げたり、思考を深めたりすることでより良い答えに近づく余地はあるはず。
生徒が作った答えをクラスでシェアして吟味することで、自分にはなかった発想に触れることも、より深い学びには欠かせません。他の生徒の答えに触れて、さらに思考を重ねる機会も整えてあげましょう。

お時間が許すようであれば、別稿「散布図中の位置で探る改善課題[活用機会×学習効果]」も併せてご高覧ください。



授業評価アンケートを導入していない学校でも、ご自身の担当する授業で、同じ質問文で生徒の回答を集め、得点に換算してみれば、冒頭のグラフに照らしてボトルネックが生じていないかチェックできます。
如上の3つの可能性だけなら、以下の4問だけでも事足ります。
質問文:

選択肢:
{A非常によくあてはまる、Bよくあてはまる、Cどちらかといえばあてはまる、Dあまりあてはまらない、Eあてはまらない}の5択です。
集計方法:

  


授業評価アンケートで定点観測を行う中で、ボトルネックの解消を重ねてきた学校では、下方のひげに含まれる授業が減り、結果的に各階級の箱の位置も、冒頭のグラフより高いところに位置しています。
ちなみに、Ⅴ活用機会「習ったことをもとに考える機会が、課題などで整っている」では、冒頭のグラフで箱の下端が{Ⅶ学習効果≧75}(肯定的な回答が9割程度となる「必達水準」)を超える80ポイントくらいまで充実させないと、ボトルネック解消以前の課題を抱えたままです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一