授業評価アンケートの集計結果を相対的にみる

今年も多くの学校で授業評価アンケートをご利用いただきました。この場を借りて、改めまして心より御礼を申し上げます。
集計データの分析結果のご報告に各校をお訪ねするのはこれからが本番ですが、この機に多くの学校の集計結果を横断的に眺めてみました。
下図は、この夏に授業評価アンケートをご利用いただいた様々な学校のデータ(質問設計は当オフィス推奨のものをご採用いただいているため共通です)をマージして作成したものです。

各項目の質問文は、講義・座学系の授業評価項目をご参照ください。
データを構成するほとんどの学校が、長年に亘ってアンケートをご利用いただく中、既に改善を重ねてきているため、かなり高い評価になっており、Ⅶ学習効果の中央値は、実に80ポイントに達しています。

❏ 項目ごとの相対的な位置を見比べてみる

生徒による授業評価アンケートは、生徒の持つ学習者特性と先生方の学ばせ方のマッチングの度合いが結果の数字に出ますので、「全国での平均」との比較そのものにはさほど大きな意味はないかもしれません。
しかしながら、相対的な位置を項目ごとに知って、比較してみることには、授業改善を進める上での力点の置き所に当たりがつけられるというメリットがありそうです。
例えば、Ⅴ活用機会では中央値以上のポジションなのに、Ⅶ学習効果は箱の下端に近い(=Ⅴ活用機会は高評価なのに、その割にⅦ学習効果が伸びない)となれば、別稿「散布図中の位置で探る改善課題[活用機会×学習効果]」で触れた問題を抱えておられる可能性があります。
また、Ⅱ指示と説明は十分に高い「相対位置」を得ているのに、Ⅸ学習方策やⅩ目的意識が低めだとしたら、丁寧に説明して理解させることに偏った授業になっており、生徒を学習者としての自立に向かわせる指導に改めて力を入れる必要があろうかと思います。

❏ 教科・学年ごとに集計値分布を細かく見ると

別稿でも書いた通り、授業評価アンケートにおける目的変数は学力向上感(Ⅶ学習効果)ですが、教科ごと、あるいは教科内の学年毎でも、その集計値の分布は違ったものになるのは容易に想像がつくところです。
下図は、上のグラフのデータを教科×学年で分けて、再集計してみた結果です。(画像をクリックすると、拡大表示できます。)

なお、話がそれますが、どの教科でも、中学/前期課程と高校/後期課程の間に箱の位置(集計値分布)に段差のようなものが生じています。
これは、高校での生徒募集を行っている学校(=生徒の構成が変わる)だけに見られる傾向ではなく、中等教育学校などの「完全中高一貫校」のデータでも同じような状況が広く(普通に)観察されています。
ただし、「普通」と言っても、「好ましいこと/受け入れるべきこと」ではないのは言うまでもなく、中高一貫校での中高/前後期接続が十分に図られていれば、このような「段差」は小さなものになります。
Ⅴ活用機会やⅥ対話協働といった「学ばせ方」を示す評価項目に注意を向け、校種間・学年間の差が小さくなるようにしていくことが「接続」において注力すべきところですが、これについてはまた日を改めて。

❏ 相対的な位置を知ることで、強みと課題を特定する

当オフィス監修の授業評価アンケートを既にご利用いただいている学校の先生方も、他校も含めた「一般的な集計値の分布」に照らして、ご自身の位置を相対的に捉える機会はあまりないと思います。
ご自身の集計結果だけでなく、自校の学校平均/教科平均を上のグラフの中にプロットしてみてはいかがでしょうか。
自校の集計結果だけを見ていると、それが「普通」の状態に見えてきてしまいますが、相対化してみると自校/自教科の強みや今後に向けた課題がどこにあるかを推し量れると思います。
例えば、所謂「アクティブ・ラーニング」の推進に取り組んできた学校でも、Ⅵ対話協働の集計値が思ったほど高くないこともありますし、箱の長さ(=授業間の差)が上のグラフより大きいかもしれません。

❏ 同じ質問、集計方法でアンケートをとってみる

授業評価アンケートを全校で行っていない場合、本稿のデータと突き合わせる「集計結果」はお手元にないことになりますが、ご担当されている授業で同じ質問のアンケートを取ってみては如何でしょうか。
WEBでのアンケートを取る仕組みが整っている学校も増えていますので、お手間はそれほど大きくならずに済むと思います。
また、10問すべてを同じように回答させるのでは大変というのであれば、日頃の授業実践で力を入れている項目だけを抽出した「ミニアンケート」とする手もあります。

実際に調べてみた結果、先生方ご自身が日々の授業の中で得ている「手応え」と、実際の集計結果を相対化してみたものとが、一致しているなら何ら問題はないでしょうが、大きなずれがあるようなら、今後に向けて、生徒側での認識を確かめる仕組みを整え直す必要がありそうです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一