校内外に示す、新しい生活様式のもとで目指す学校像

臨時休校が終わり、学校が再開されました。新しい生活様式への転換が求められる中、昨年度末に描いていた2020年の学校像にも大きな変更が余儀なくされたと思いますが、そんな状況だからこそ、改めて「様々な制限がある中でどんな学校を目指すのか」「どうやって新しい学力観での学びを実現していくか」を示す必要があると考えます。
校内外のステークホルダーも多くの不安を抱えています。この先にある新たな学校像/目指すべき教育活動を描き出し、教育活動を支えてくれるすべての人々(とりわけ校内で頑張る現場の先生方)の理解と共感を確固たるものにすることが、再始動に不可欠だと思います。

❏ 変革へのチャンスと機運を膨らませた今回の危機

新型コロナがもたらした危機への対応で否応なく始めざるを得なかった取り組みが期待を超えた成果をもたらしたことで、その先にある進歩の可能性を探ろうとの機運が生まれたというお話も方々で耳にします。
これまでの態勢作りの遅れで、様々なところで後手を踏んでしまったという学校でも、課題をしっかり浮き彫りにできたことで、今後に向けた動きを加速させる覚悟を共有できたと仰る校長先生もおられました。
ICTの活用や教育のデジタル化において先行していた学校でも、主体的、対話的で深い学びの実現にアドバンテージを持つ学校の事例を改めて研究することで更にパワーアップを図ろうとする動きが見られます。
高大接続改革などで実現を図ろうとしてきた教育改革には、これまで現場の本気度において小さからぬ温度差があったように感じますが、今回の危機を契機に、方々に新たな推進のエネルギーが膨らんでいます。

❏ 膨れ上がるエネルギーに正しい方向を与える

変革へのエネルギーが増大しているのは間違いありませんが、方向付けがきちんとできないと、せっかくのエネルギーも分散してしまいます。
意識のエネルギーは大きいとは言え、様々な制限や「新学期」開始の遅れの中で、利用できる教育リソースが例年より小さいことを鑑みれば、優先順位をきちんとつけて戦略を練る必要があります。
全方位にエネルギーを拡散させた結果、可視化できる成果が得られないと、達成感によって補充されるべき次のエネルギーが入ってきません。
徒労感が目的意識を上回った瞬間に改革の勢いは止まりますし、立ち止まっている間に、校内外で抱える不安は大きくなるばかりです。
限られたリソースをどう分配し、どの課題の解決に優先して当たるのか、ビジョンを校内で共有できるか問われる局面ということです。

❏ 校内外のステークホルダーの理解と共感を得る

意図するところの実現には、校内外のステークホルダーの理解と共感を得て、協力者になってもらう必要があることは言うまでもありません。
もし、必要性の合理的な説明を与えて実現に向けた具体的な工程を示すことができなければ、「できない理由」に道を阻まれます。
実現への工程を構成する要素は、ヒト・モノ・カネに加えて時間です。工程を提示するのは、実現へのロードマップを具体的なガントチャートに落とし込み、工数に見合った要素の確保に見込みが立つことを確認してからにしましょう。
走り始めた後も、途中までの活動を振り返り、当初の目的にどこまで近づいているのか、エビデンスとともに成果を伝えてなければ、「本当に上手く行っているの?」という疑念が共感にとって代わっていきます。
中間検証で60点だとしてもかまいません。歩を進めたのは事実。残りの40点を積み上げる方法を示せれば、展望を見失うことはないはずです。

❏ どんな生徒を育てたいかに立ち戻って

カレンダーに配列する教育活動の一つひとつに、合理的な優先順位を設けるには、何はさておき「どんな生徒を育てたいのか」(=どんな能力や資質を身につけさせて卒業させたいのか)という問いに学校としての明確な答えを持つことだと思います。
獲得を目指す能力・資質をどんな指導や体験の中で身につけさせるかを考えれば、個々の指導のうちどれにリソースを優先して配分すべきかは自ずと明らかになるはずです。
個々の指導を設計するにも、そうした能力・資質の獲得という目的を常に意識して臨まないと、ちぐはぐなものが出来上がってしまいます。
この辺りについては、シリーズ「新課程への取組を伝える学校広報」で起こした以下の各記事がご参考になれば幸いです。

❏ 大きく夢を描くのに欠かせないリスクマネジメント

新型コロナの感染拡大には第二波、第三波も予想されますが、再び教育活動が制限されることを警戒するあまり、設計を小さくまとめてしまっては、それ以上の成果は期待できません。
ここで必要になるのは、リスクマネジメントとクライシスマネジメントです。ともに日本語に訳すと「危機管理」になってしまいますが、両者はそれぞれ別のものを指します。
前者は、危機が起きる前に、それを回避する/被害を最小限に抑えるための方策を講じることであり、後者は危機が起きた場合の初期対応や、二次被害を回避する方策のことです。
新型コロナと学校の関係で言えば、校内で感染を起こさない努力に加えて、実際に感染が拡大して教室での対面授業ができなくなっても授業が継続できるよう、クライシスマネジメントとしての「オンラインでの双方向指導」が機能する環境とノウハウを整えておく必要があります。
文化祭などの学校行事も、明確な教育意図に基づき設けられているはずです。例年通りの方法が無理としても、オンラインでの成果発表の形に変えて、生徒会や実行委員会に取り組んでもらえば、当初の意図はかなりのところまで実現できるのではないでしょうか。



環境の大きな変化に適切に対応できるかどうか(=好ましい進化を遂げられるか)は、大げさに言えば、この危機を乗り切ったときに確固たる価値を持った存在でいられるかを決めるような気がします。
まずは、「授業を通して21世紀型能力は育めているか」という問いに建設的に答えられるかどうか、現状を省みるところからかもしれません。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一