シンプルさと重ね塗りで、認知を高め、理解を得る

建学の精神や校是、校訓を現代的に読み直し、新たなグランドデザインを描き出しても、それが受験生や保護者の目と意識まで到達しなければ生徒募集の改善にはつながらず、せっかくの教育理念にも賛同や共感をしてくれる人が増えるわけではありません。
伝えるものを作り上げたら、今度は伝え方を考える番です。たとえ作りかけの状態であっても、学校の意思を積極的に伝え、レスポンスを拾いながらより良いものを作っていくという発想も必要です。

❏ 広報とは、認知と理解を経て共感を得るための活動

広報(パブリックリレーションズ:PR)はステークホルダーと良好な関係を結び、校内外からの共感を得て、学校を選択してもらい、目指す教育の実現に向けた協働に参画してもらうための活動です。
最終的に目指すべきゴールである「選択」や「参画」に至るには、その前段階として、学校が目指しているものについて、相手からの「認知」「理解」「共感」を順を追って得ていく必要があります。
最初の「認知」を作るところで躓き、ハードルを越えられないようではその先には進めません。
校名を知ってもらえなければどうしようもありませんが、本当に知ってもらうべきは「学校がやろうとしていること」「新しい時代にどんなミッションで臨もうとしているか」です。

❏ 最初のハードルを越えるには第三者を介したアプローチ

学校説明会を訪ねてもらいさえすれば思いを直接伝えることができますが、ここでできるのは「認知」から「理解」に進むときのハードルを越えることです。
まずは、説明会に来てもらったり、学校案内を手に取ってもらったりするのが先決であり、このハードルを越える段階では、受験生への直接的なアプローチには手札が限られます。
最初のハードルを乗り越えて「認知」に到達するには、塾や中学校の先生、あるいはマスコミといった第三者の介在が不可欠です。
自校が発信しているメッセージが、話を見聞きした人が第三者に伝えられる「シンプルさ」と、伝えたいと思ってもらえる「情報の価値」を備えているか、手前みそにならず冷静に評価してみましょう。

❏ シンプルで価値ある情報を1枚にまとめてプレゼン

相手が十分な背景知識を備えたプロの場合、詳細な情報を論理的に書き上げた方が説得力に勝るでしょうが、そうでない場合、特に「認知」の段階にすら到達していない相手には、何よりシンプルさが重要です。
塾や中学校の先生がさらっと説明できるシンプルさを備えているかが、プレゼン資材を評価するときの基準です。
グランドデザインは、余計な情報をぎりぎりまでそぎ落とし、できる限りシンプルに表現しましょう。個々のパーツがコアメッセージと結び付けて構造化されているかどうかも大切です。
校内向けの文書と校外向けの広報資材を分けずに使っている場合は要注意。伝える相手と目的が違う以上、表現は違って当然です。

❏ トップページからグランドデザインに直行できるか

せっかく興味を持ってくれた方が学校ホームページを訪れてくれたのに、グランドデザインを探し当てられなければそれまでです。
ワンストップでグランドデザインを概観できる特設ページを設けて、トップページからダイレクトにリンクを張りたいところ。
何回もクリックして目的のページを探してくれるのは、「理解」のフェイズにかなり深く入り込んでくれた方だけです。
また、HTMLを記述するときにメタタグの設定をきちんとしておけば、Googleで校名を検索しただけで、検索結果の中に該当ページへのリンクと説明が表示され、直接そこを見に行けます。
残念ながら、そういう設定になっている学校は多くないようです。一度は自校HPをWEBデザイナーの視点で点検してみましょう。

❏ ライバル校と協働で発信するメッセージ

ライバル校との協働というとピンとこないかもしれませんが、学校広報の上では非常に有効な「メッセージ発信の方策」となり得ます。
教育ミッションに重なりあうものがなければ競合にはなりません。ライバル校である以上、グランドデザインには共通部分が多いはずです。
受験生や保護者は、学校選びのために競合先の学校にも足を運んだり、ホームページを見て比較したりします。
その中で、同じようなメッセージや学校が実現を目指している価値に触れると「認識と理解の重ね塗り」がおきます。
共通点がどっしりと存在していれば、その分だけ差異も際立ち、自校の魅力もより良く伝わるのではないでしょうか。
如上の特設ページも、共同戦線を張るライバル校同士で、同じような構造、トップページからのリンクの張り方になっていた方が、見に来た人が情報を見落とすリスクも減るはずです。
パイを取り合うよりも、協働でパイを大きくするという発想で、連携や協働も考えていきたいところです。

❏ 時と場所を変えた重ね塗りが印象と理解を深める

時と場面を変えて行う重ね塗りで残した強い印象と、深く理解してもらった価値は、学校広報が最終的に目指す「自校の教育理念に理解と共感した生徒で構成される学びのコミュニティ」を作る土台です。
自校が打ち出している価値にどこかで一度触れている方は、学校説明会などで説明されたことへの感受性が高まっており、意図が伝わりやすくなるというメリットもあります。
受験生に届くのは、学校ホームページや学校案内(パンフレット)からの直接的なメッセージだけでなく、多くの場合は、中学校や塾の先生を介した間接的で評価を交えた情報が先に届いています。
両者を一致させ、同じメッセージを繰り返し届け、学校の意図を受験生やその保護者の認識に正しく刻むには、人を介しても歪められにくいシンプルなメッセージに整える必要があるのは言うまでもありません。
多くの情報を絞り込まずに、あれもこれもと発信するのではなく、届けたい情報にも明確な優先順位を設けて広報活動に臨みましょう。
その6に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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