説明や指示のわかりやすさを決める要素は、話し方や板書の巧拙だけではありません。今やろうとしていること(目的)が何かを前もって理解させておくことや、前段までの理解をしっかり確かめながら進めることも重要な役割を持ちます。わかりやすさは学習効果を決定的に左右する要素であり、わからないことにはできるようにはなりません。
また、生徒を活動させようとしても、指示が分かりにくく、生徒が戸惑っているようでは困ります。活動時間を圧迫しないよう、シンプルかつ効果的な指示を心掛けたいものです。
学習内容や課題の難易度を下げることに、わかりやすさアップの効果はあまり期待できません。(cf. 説明がわかりにくいと言われたら)
- 口頭説明に頼らず、視覚的な補助をしっかり利用すること
- 理解の確認をこまめに行い、伝達スキルの向上を図ること
- 目指すところを明確にすることで、生徒側での理解力を高めること
- 先生以外のコンサル先(参考書や周囲の生徒)を持たせること
などをポイントに据えて、わかりにくさを作り出している様々な要因を一つひとつ取り除いていきましょう。
2015/05/12 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 目で見て確認することの大切さ
下の表は、Ⅲ指示と説明を目的変数とする重回帰分析の結果です。指示と説明(わかりやすさ)にどの要素が大きく寄与しているかを示唆するt値では、【板書や資料】が最も大きな値になっています。
改めて申し上げるまでもないかもしれませんが、指示や説明を理解させるには「視覚での補助」が欠かせない、ということです。板書の技術を高めることは、わかりやすさの底上げに不可欠です。
口頭で行う説明は改行もできません。分岐させたり階層構造を持たせることもできず、複雑な情報を整理し、提示するのが不得手。また、音声は固定されることなく瞬時に消えるため理解の蓄積にも不向きです。
前段で理解させたこと、整理した知識を生徒の視野に固定しておくことが、その先の学習の土台を固めることにもなります。
❏ 一つひとつの理解を確かめ、足元を固めていく
わかりやすさへの寄与で2番目に位置するのは、【理解の確認】です。
相関係数を見ても、指示や説明(わかりやすさ)との間には、0.90を優に超える、「ほぼ比例」と言えるほど強固な関係があります。
教科学習指導はひとつひとつ理解を積み上げていくもの。前段の内容がわかっていないのでは、次に学ぶことがわからなくなるのも当然です。
ここで大切なことは、「覚えたかどうか」と「理解しているかどうか」を取り違えないことです。
話して聞かせ、読ませて、話し合わせて理解させたことは、生徒自身の言葉で表現させる(言語化させる)ようにしましょう。活動させるのは観察のためです。
場面ごとに使い分けるべき確認の方法とそれぞれの留意点については、拙稿「理解度の確認~場面と方法」をご参照いただければ幸甚です。
❏ 目指しているところを理解させることも大前提
別稿「ゴールを明示することの意味」でも書いた通り、学習や活動を通じて到達を目指している状態をきちんと認識させることで、生徒の理解力はぐんと上がります。
目指すところが把握できていれば、細かな部分で不明があっても、目標に照らして「たぶん、こういうことだろう」という補完が働きます。
個々の内容の伝え方が同じでも、生徒側の思考で理解が補完されれば、結果的にわかりやすさを引き上げることになります。
学習目標は「〇〇について理解を深める」といった定性的な表現を与えてもあまり効果は期待できません。「学習目標は解くべき課題で示す」のが鉄則です。
学びの本題に入り、先生からの説明を始める前に、「学び終えたときに答えを導くべき問い」を示し、少し時間を取って生徒に答えを考えさせることを習慣としてみましょう。
❏ 個々の説明は理解できても、全体像を掴めていないかも
先生が発する言葉の一つひとつはしっかり聞き取れ、言っていることもわかるのに、全体として何をやっているかよくわからないというのは、決して珍しいことではありません。
言葉/発音の明瞭さと話の内容のわかりやすさは別モノであるのは言うまでもありませんが、部分理解を蓄積するだけで、全体理解が形成されるわけでもありません。(cf. 部分理解と全体把握)
生徒に行動を指示する場合でも、何を目指しているのか分からないまま一つひとつの指示に従っているだけでは、目的と行動が切り離されてしまい、主体的な学習活動から遠ざかるばかりではないでしょうか。
大枠になるフレームを先に示し、後から細部を書き込みつつ説明するのが有効な場合があります。(cf. 知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得)
全体を構成する個々のパーツを順番に与えても、それらを全体理解の中に繋ぎとめるのは、特に初めて学ぶ内容では思いの外たいへんです。
道順の説明も、地図を見ながらの方がわかりやすいのは容易に想像できると思いますが、目的地に到着してから地図を見直し、どんなルートを通ってきたか俯瞰しておくと、道を覚えやすくなります。
ひと通りの説明を終えたところで、板書を辿り直してポイントを押さえておくことも、部分理解を全体理解に結び付ける上で有益です。併せて学ばせたことは、きちんと教科書に落とし込むようにしましょう。
❏ 抽象化と具体化を行き来しながら
具体的であることが、必ずしもわかりやすいわけではありません。
具体例からどのような属性や側面に焦点を当てるかは、人それぞれであり、先生と生徒が違うイメージで捉えることがあります。
具体例を挙げたら、その共通点を挙げさせたり、質問で気づかせたりした上で、それらを束ねた概念化(抽象化)を挟むことも必要です。
抽象化の最大のメリットは、適応範囲の拡大です。数個の具体例から学ばせたことを、他の事柄にも適用して理解や解決に利用できるようにしてこそ、学習の目的であるコンピテンシーの増大が図られます。
◆ 改善のための必須タスク:
スモールステップを心掛け、小まめな発問でその場ですぐに理解度を確認することが大切です。確認したことは板書に残せば、生徒の視野に固定されるため不明が発生してもすぐに辿り直すことができます。迷子にさせないよう、個々の項目を全体像の中で捉えるフレームを用意したり、軸を設けて整理させるようにしてみましょう。
◆ さらなる改善を目指して:
理解度の把握をこれまで以上に徹底することで、小さな不明が生じたときに遅滞なく対処できるようにしましょう。説明を終えてから板書を辿り直して行う再確認やミニ論述での言語化も大切です。また、正しい答えが返っても判断の根拠を尋ねてみましょう。アウトプットを通じてインプットの不備を知るという発想が大切です。
■ご参考記事:
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一