説明がわかりにくいと言われたら

説明や指示のわかりやすさは、授業の成否を左右する大切な要素です。先生の説明がわからないとなれば、その先に目指すべき「でるようになった」には容易に到達できません。別稿にも書いた通り、指示と説明のわかりやすさと生徒が実感する学習効果とはほぼ比例関係です。
授業評価アンケートを取ってみると、自分が思っていた以上に「わかりにくい」という声が多く、驚かれる先生もいらっしゃいます。そのときに採るべき方策/とってはいけない対応について考えます。

2018/09/28 公開の記事をアップデートしました。

❏ 学習内容や課題の難易度を下げても効果は薄い

わかりにくいという声に触れると、「扱う内容が難しすぎるのかな?」と考えて授業内容や課題の難易度を下げることで対応しようとする先生がいらっしゃいますが、このアプローチはお勧めできません。
下表は、これまでに蓄積した授業評価アンケートの無作為抽出データで行った「指示と説明」を目的変数とする重回帰分析の結果です。

英数国社理 n = 6,561、修正R2 = 0.9092

 

難易度との間には弱いながら有意な「負の相関」が確認できますので、内容を易しくすればわかりやすくなる可能性もゼロではありませんが、偏回帰係数は小さく、効果は極めて限定的と考えられます。
そもそも、学習内容や課題の難易度をいたずらに下げては、最終目標である出口学力の形成が危うくなるばかりです。

❏ 理解の確認をこまめに行い、伝達スキルの向上を図る

上表でt値(わかりやすさへの寄与度を示します)が最も大きいのは、Ⅱ板書や資料、Ⅰ話し方といった伝達スキルです。
当たり前ですが、明瞭で聴き取りやすい話し方や視覚を用いた理解の補助は、わかりやすさを高めて維持する上で欠かせません。
理解の確認をこまめに行いながら、伝達の不備がどこにあるのかを常に点検し、間断なくそのスキルを高めていく必要があるのは言うまでもありません。

過日の記事、「対話で行う理解確認」がご参考になろうかと存じます。是非ともお時間を見つけてご高覧いただければ幸甚です。

❏ 生徒の側での理解力を高めて、伝達の不備を補完する

とはいえ、伝達スキルの向上・改善は一朝一夕になせるものではありません。改善に手間取っている間に生徒の中に不明が蓄積されては、後になってのリカバーは大変困難になります。
別稿「授業改善には授業デザインを先行させる」でも書いた通り、学習目標を生徒としっかり共有することで、生徒側の理解力を高めて伝達の不備が補えるようにすることは当座の手当としても重要です。
何を目指している局面なのかを生徒が把握できていれば、個々の説明をゴールと結び付けて理解できるため、先生の説明に”多少”の不備や不足があっても、何とかなるものです。
学習目標を生徒と共有するには、学習目標は解くべき課題で示すというアプローチが最適であることは過日の記事で申し上げた通りです。

❏ 先生以外のコンサル先を生徒に持たせる

説明や指示をより良く理解させるには、もう一つ、重要度で言えば如上の2つを効果で上回る方法があります。
生徒同士の教え合い・学び合いを促すことと、参照型教材を徹底的に活用させることはその代表格でしょう。
先生の説明がわからないと立ち止まってしまい、そこから先に進めない場合と、友達や書籍を「コンサル先」(相談相手)として必要な知識や情報を得て先に進める場合とでは大違いです。

  • 普段の授業の中で、教え合い・学び合いの方法と姿勢を身につけさせ、それを失わせないように十分な頻度でその機会を作ること
  • 丁寧に教えて理解させるだけではなく、手元にある参考書や辞書のページを開かせ、自力で読んで理解する力と姿勢を獲得させること

をどこまで徹底できるかが問われます。先生がいないところでも学びを進められる学習者に育てるためにも大切なことだと思います。



教科・科目に固有の知識や技能は、「(先生が)伝えること」が目的ではなく、「(生徒が)学んで身につける」ことが目的であるという根本に立ち返ってみましょう。
そう考えることで、わかりやすさ(=指示や説明を生徒が理解できること)を高める方策には、広くその選択肢が存在することに気づきます。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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