積み上げてきたものを振り返り、その先を描く

2022年に始まる高校の新課程に向けてグランドデザインを描き直すことは、新課程初年度生が中学受験に臨む本年度の重要課題のひとつです。全体構想が決定しなければ、細部の設計に入れません。
たとえ魅力ある教育活動が豊富に配列されていたとしても、全体としてちぐはぐなものになれば「学校がどこに進もうとしているか」をわかりにくくし、限りある教育リソースの配分を間違うリスクも招きます。

❏ 開校から積み上げてきたものの先に何を描くか

前稿#1では、グランドデザインの描出と、建学の精神や校是・校訓の再解釈の必要性を申し上げましたが、これは「古きを捨て去り、新しいものに入れ替える」ということではありません。
学校の伝統や文化を作り上げてきた礎である「建学の精神」や「校是・校訓」「教育目標」を大切にしなければ、これまで学校を支えてきてくれた方々の理解と共感を失い、支持を得られなくなります。
新たな教育目標を決め直すのではなく、これまでに掲げてきた校是を維持した上で、時代の要請に沿って「再解釈/アップデート」すれば、不易と流行を両立させることもできるはずです。

❏ 先行させた取り組みの効果検証&ブラッシュアップ

2020年の高大接続改革を見据え、本年度を迎えるまでに準備を重ね、すでに稼働している新たな取り組みも少なくないはずです。
まったく新しい取り組みと、何年もかけて試行錯誤を経ながらブラッシュアップしてきた取組とでは、ステークホルダーの理解と共感を獲得する力に雲泥の差があります。
1年でも先行していれば、導入の前と後で生じた違いから効果を測定して、新たな取組がもたらした付加価値を定量的に示すことができます。
初年度の反省を2年目の教育活動に反映できれば、効果(=付加価値)はさらに大きくなるはずです。
新たな取り組みの一つひとつについて、効果を検証できる体制が整っているかは、真っ先に点検すべき事柄であると考えます。

❏ 新たな取組の効果を測定する準備はできているか

繰り返しになりますが、本年度から、あるいは数年前から取り組み始めた事柄について、きちんと効果の測定がなされているでしょうか。
効果測定は、「生活」「学習」「進路」の三領域について、学年・学期ごとに定めた「目指すべき到達状態」に照らして到達率の変化を把握して行うのが王道です。
教科固有の知識・理解は従来型のテストで測れますが、思考・判断・表現の力は、それらに焦点を当てたテストの導入なしに測定できません。
目指す学力像が変化する以上、定期考査の問題もそれに応じた変更が必要ですが、うっかりすると指導方法の工夫にばかり視線が向きます。
また、「学習方策の獲得」や「学ぶ意欲」(=学ぶことへの自分の理由の強さ)といった、いわゆる非認知能力の獲得も学習領域における重要な指導目標ですが、測定機会はきちんと用意されているでしょうか。

❏ 新たな教育活動を採り入れる前の状態を把握

新たな取り組みを導入する前の状態を測定しデータを残しておかなければ、差分が把握できず、効果を伝えることもできなくなります。
同じ集団(学年)に対して、導入後の効果測定と同じ方法で調査を行っておければベストですが、一つ上の学年の同じ時期との比較を行うことでもある程度の説得力をもったデータが取れます。
生活や進路の領域でも同様です。
新入生オリエンテーションの内容や方法、進路行事の配列などを変更したときには、それによってもたらされると想定した生徒の行動変化や成長があったはずです。
それに照らした生徒アンケートや先生方の観察結果をもとに、期待した変化・成長の発現がどのくらい観察されたかによって、指導改善の効果を確かめることができます。

❏ 効果を確かめ、改善課題の形成と優良実践の抽出へ

新しい取組を始めると、それだけで達成感や充実感を持ってしまいがちですが、本当に所期の効果を得ているのかは別の話です。
試行錯誤には生徒も巻き込みますので、ひとつの試行で見出された錯誤は次の機会には着実に解消を図らなければなりません。
定量的な効果測定が行われなければ、試行と錯誤だけが繰り返される事態に陥りかねません。
担当者間でも指導スキルには差異が生じます。放置していはいけないものですが、同時に優良実践の抽出と共有に繋ぐチャンスでもあります。
同じ目標に向かって各教員がそれぞれ最善と考える方法を試すようにすれば、測定された効果の比較を通して「倣うべき実践の所在」が特定でき、集団知を利用した組織的な改善が図れます。

❏ 指導方法の前に、目標ごとに達成検証の方法を考える

試行と効果測定もせずに最初から、頭の中で考えただけで指導法を固定してしまっては、全担当者が同じ間違えを犯し、優良実践の発見が遅れることもあります。
外から持ち込んだノウハウが、自校でも効果的とは限りません。他の教育活動との組み合わせや生徒側のレディネスの違いがあるからです。
やりっぱなしになったり、担当教員による当たりはずれを大きくするばかりでは、結果的にステークホルダーの期待を裏切ることになってしまうのではないでしょうか。
せっかくの新たな取り組みが、教育活動の設計を複雑にしては、学校が目指すところをわかりにくくしますし、担当教員による当たりはずれを拡大しては、評判を落とすことにもなりかねません。
その3に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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