不用意な“待て”をかけない(その3)

授業計画の中に配列した学習活動に生徒が着手できるだけのレディネスを備えているのに、先生方が指示や説明などを重ねては生徒に「待て」を掛けているようなもの。学習活動に充てられる時間を圧迫しますし、仕上げる時間が足りなくなれば、学びは深く確かなものになりません。
生徒が既にできるようになっていることをきちんと見極めて、不必要なところでは積極的に手を放していくようにしたいところです。「できることはどんどんやらせる~生徒の邪魔をしない」ようにしましょう。
その他にも、学習に結び付かない非効率な時間が授業内のあちらこちらにあるかもしれません。一つひとつは数十秒、数分という短時間でも、積み重なれば年間でのトータルはとても大きなものになります。

2015/07/01 に公開した記事を再アップデートしました。

❏ 予習チェックやノート点検をおこなうときに

始業時に生徒の予習状況などをチェックするためにノートのチェックを行っている先生は少なくないように思います。
予習状況を正確に把握すれば、導入から展開までの工程のどこに重きを置くか、予習の不足を補うために何が必要か、より的確な判断が行えるようになりますので、これ自体は無駄な時間ではありません。
しかしながら、先生が点検にまわっている間に生徒が何もしていないとなると、そこには省くべき無駄があります。
机間指導でノートチェックを始めるのは、その間に進めておくべき課題をクラス全体に示してからにしましょう。
次の指示を出してから点検に回るのか、点検を終えてから指示をだすのか、単純に順番の違いだけですが、大きな違いを生みます。
ここでは、学習目標は解くべき課題で示すでご紹介した、「ターゲット設問は授業の冒頭で板書する」という手が使えるはずです。
問いが与えられたら、生徒は答えを作ろうとしますので、教科書を読んだり、副教材で調べたりするといった「やるべきこと」が生じるため、ノートチェックの間も「無駄な手空き時間」を持たずにすみます。

❏ 生徒が手を動かし始めたら、先生は口をつぐむ

説明をひと通り終えて課題に取り掛かるように指示を出して、生徒がまさに手を動かし始めているのに、先生方が説明を追加/再開する場面を見かけることが時々あります。
先生が説明を始めたら生徒は聞かなければなりませんから、これはまさに「待て」以外のなにものでもありません。
生徒が手を動かし始めたということは、取っ掛かりを得て、自力で何とかしてみようと思った証拠です。もしわかっていない生徒がいれば机間指導で声を掛ければ、用は十分に足りるのではないでしょうか。
生徒が手を動かし始めたら、先生は口をつぐんでしゃべるのを我慢することが大切です。
机間指導をしてみて、同じような見落としをしていたり、指示を捉え切れていなかったりする生徒が多ければ、何か手を打たなければなりませんが、そこでも出来るだけ言葉を発しないようにしたいところ。
黒板の前にポジションを移して、説明の不足を補ったり勘違いを正したりするための「注意書き」を黙って板書するのは如何でしょうか。
チョークの音が聞こえれば、生徒は顔を上げて黒板に目をやります。そこで見落としや勘違いに気づいて自力で修正できるようなら、そのままやらせたほうが良いのは言うまでもありません。
それでも、気づかない/わからない生徒には個々に声を掛ければ良い話です。少なくとも、クラス全体の活動を止めさせる必要はありません。

❏ 「できると思ったらどんどん進める」を約束ごとに

もう少し思い切るなら、「説明の途中でも、もうわかったと思ったら説明が終わるのを待たずに始めて良い」という授業内ルールも「アリ」だと思います。先生の説明が終わるのを待たせる必要はありません。
所期の学びが実現する(=学習目標が達成できる)なら、先生方が用意してきた手順(指導案)を余さずすべて実行することに拘る必要はどこにもないはずです。
中にはわかった気になって先走った挙句、途中で行き詰る生徒もいるかもしれませんが、それはそれで「早合点はいけない、話はちゃんと聴こう」と学ぶ機会。ときどきのことなら「良し」としましょう。
行き詰ったことで、どこで判断を間違えたかを考える/振り返る機会を得れば、次に似たような課題にチャレンジするときには正しい見通しを立てて取り組むことができるようになるかもしれません。

❏ ルーチンを確立して指示や説明をできるだけ省く

授業の中で繰り返し行われる活動(=ルーチン)であるにも拘わらず、いちいち指示をするのも時間の無駄です。
以前に行ったのと同じ行動なのに一から十まで説明するのと、「いつも通り」や暗黙の了解ですませられる部分を最大化するのとでは、指示に要する時間に雲泥の差が生じます。
プリントを配るときにも、最前列の生徒の机にプリントの束を置くと、何も指示をしなくても後ろに回していくはずです。「プリントを配りますから、後ろに回してください」と毎回繰り返す必要はありません。
小テストを行う場面でも、終了の合図をしたら生徒が条件反射で互いに答案を交換し、教材を見ながら自己採点、答案を本人に戻して点数を確認したら、そのまま前の席に渡していくという流れも、一切の指示なしで行えるはずです。
授業全体の流れについても、その日の授業でのアクティビティの配列を予め板書しておくことで、生徒の側での予測は容易になります。
次はグループワークだとわかれば、直前のアクティビティが終わった瞬間に、島型配列に机を並べ替えてくれるのではないでしょうか。
いちいち指示することを「習慣」にしてしまうと、先生からの指示があるまで動かないという行動を生徒は学習してしまいます。
こうした短時間の無駄も、1年間、3年間という長期の中ではとてつもなく大きく積み上がってしまうことを常に意識しておきたいところです。
その4に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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