臨時休校のリモート指導がきっかけで授業改善が加速?

今年は年度当初から、臨時休校中のリモート学習、学校再開後の分散登校と様々な障害がある中での教育活動が余儀なくされましたが、1学期の授業評価アンケートの結果を見ると、評価が下がるどころか、大きく授業改善が進んだことを窺わせるデータも散見されます。
学習効果をダイレクトに尋ねる「授業を通しての学力の向上や自分の進歩を実感できるか」という問いにも、肯定的な回答が昨年度以上に増えているケースも少なくありません。
❏ 授業改善をもたらした要因を想定してみると…
如上の「改善」には様々な理由が考えられます。現状では十分なデータが集まっていませんし、授業公開もあまり行われていないだけに実際の教室をお訪ねしてデータと参観での所見の照らし合わせも十分にできていないこともあり、はっきりしたことを申し上げられる状態ではありませんが、現場の先生方のお話も踏まえると、評価結果の向上には以下のような要因を「仮説」として想定することができそうです。

  1. オンライン授業の中で見出した、ICTの効果的な活用法を教室での対面授業にも採り入れることで、指導法のバリエーションが増えて、対話的な学びもこれまで以上に実現してきた。
  2. リモート指導というこれまで経験したことのないタスクに取り組む中で、教科内外の先生方との間で教え方・学ばせ方に関する情報交換や話し合いが増えて、好適な指導法の開発や共有が進んだ。
  3. 授業動画のアップに当たり、普段以上に時間をかけて教材研究や授業づくりに取り組んだことで、個々の授業の質的な向上が図られたり、授業づくりに新たな発想と手法を手に入れられたりした。
  4. 配信のために作った授業動画が保存されているので、他の先生方の実践を学ぶにも動画にアクセスするだけで済むようになり、「相互参観」の機会が持ちやすくなったし、実際に増えた。
  5. 授業動画をアップする中、普段以上に観られることを意識した授業作りがなされ、その感覚が学校再開後も継続した。(オンライン授業では生徒の横に保護者がいることも多く、毎日が授業参観日?)

これらは、ご指導に当たる先生方の側で想定される変化ですが、生徒の側にも小さからぬ変化/成長があったようにも思われます。
❏ 生徒にも、道半ばながら学習者としての成長が?
先生や友達が周囲にいない環境下では、不明が生じても自力で何とかせざるを得ず、教科書を自力でしっかり読む習慣が身についたかもしれませんし、メールやチャットで質問できるにしても、疑問はしっかり言葉にしなければならず、そこで得たものも大きかったと思います。
しかしながら、授業評価アンケートのデータを見ると、こうした「学習者としての成長」は一部の生徒に限られていた可能性もありそうです。
 ■ 学習方策の獲得はどこまで進んでいるか
回答データの解析結果では、「先生による指示や説明のわかりやすさ」と「授業を受けての学力向上感」の相関が、昨年度までに比べて強固に観測されたケースが少なからず見受けられます。
先生の説明がわかりやすければちゃんと理解できるが、少しでもわからないところがあるとそこで立ち止まってしまい、学習目標の達成や生きて働く知識・理解の形成が妨げられたとも考えられます。
不明を解消するすべを持たなかったということだと思います。
また、「休校が続いて、何をやればいいのかわからない」という状態から抜け出せないまま学校再開を迎えた生徒もいるかもしれません。
リモート学習がもう少し続いたら、生徒の側での工夫や先生方のご指導によって、学習者としての覚醒・成長により確かな成果があったかもしれませんが、再度の休校は勘弁ですよね。戻ってきた日常の中で、これまで以上に、学び方を身につけさせ、不明の解消や興味の掘り下げに自ら取り組む姿勢を備えた生徒を育てることに注力していきましょう。
❏ 軽めの負荷で、問題の所在に気づけなかった可能性も
もう一つ想定しておかなければいけないのは、リモートや分散登校の制限下では、教室での対面授業で課していたのと比べてタスクの難易度や複雑さが抑え気味になり、生徒が「わからない」「できない」といった状況に陥らなかったことが、ネガティブな反応を減らした可能性があるということです。
これまでに蓄積してきた、「教室での対面での学びが支障なく行われていた定常期での授業」でのアンケート結果でも、課題の難易度などの負荷を抑えることでわかった気にさせてしまったり、自らの学び方に改めるべき点があることに気づかなかったりする傾向が観察されています。
リモート環境では、協働で課題解決に取り組む場面を作り出すのにもご苦労が多かったと思いますが、解くべき課題を正しくセットしないと、学習方策は身に付きませんし、課題に取り組んでみてこそ、振り返りを通したメタ認知が形成されます。
また、生徒が互いの成果物(意見、発表、パフォーマンス)に触れる機会もいつもより少なかった可能性も否定できません。そうした相対化の機会がないと正しい振り返りはできず、結果的に今の自分に足りないものに気づかないまま過ごしていしまうリスクが膨らみます。
 ■ 負荷を抑えて「できた気」にさせてしまうことのリスク
 ■ 学習方策は課題解決を通して身につく
 ■ 言語化を通じて育む「振り返りのための相対化スキル」
夏休み明けの授業では、例年通りのタスクに取り組ませ、しっかり負荷をかけた状態でも、高い評価を維持できるかどうかは注意深く観察していく必要があろうかと思います。
状況を早めに把握しないでいると指導が後手を踏み、次のタームに進んで問題が顕在化するかもしれません。2学期末の授業評価アンケートを待たず、単元ごとぐらいの頻度でミニアンケートを行って、学習者側での認識にどんな変化が生じているか把握しておきたいところです。


これらは、いずれも一部のデータで観察された現象や、現場で頑張る先生方のお話を総合して立てた「仮説」に過ぎません。
今後、授業公開も行われるようになり、授業評価アンケートのデータも蓄積できますので、各地の教室をお訪ねして先生方にインタビューさせていただきながら、仮説の検証を進めていきたいと思います。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一