年末を迎え、今年も授業評価アンケートの集計結果をお届けする時期になりました。1学期に続いて本年度2回目という学校もあれば、昨年の実施から1年ぶりとのケースもありますが、集計結果がお手元に届いたら、まず「授業改善に向けた取り組みの効果検証」をお願いします。
前回の結果を踏まえ、先生方はそれぞれに「より良い授業の実現」を目指して様々な工夫を重ねて来られたはず。それが「生徒が備える学習者特性にマッチしていたか」を確かめ、次の一手に繋いでいきましょう。
2019/12/19 公開の記事をアップデートしました。
❏ 学力や技能の向上を実感できる授業に近づいたか
授業評価アンケートにおける最重要項目は、「この授業を受けて、学力や技能の向上や自分の進歩を実感できたか」【学習効果】です。この質問にYESで答えた生徒は高い確率でその科目への興味を深めます。
先ずはこの項目の集計値が前回と比べてどうなったか確認しましょう。
授業別集計にある以下の箇所(表面中段)をご覧ください。下から三行目に「変化」が表示されています。ここに表示されている数値が各項目の集計値(ご担当されていた全授業の平均値)の前回比較です。
上の例では、残念ながらⅦ学習効果の結果にほとんど変化はなく、必達目標である75ポイント(肯定的な回答が9割を占める水準)に近づけませんでした。(cf. まずは、学力向上感の換算得点をチェック)
生徒が「科目の学びへの自己効力感」を十分に持てる学びの実現には、まだ改善の余地が残っているということになります。
❏ ボトルネック解消への取り組みは成功したか
Ⅶ学習効果以外の9つの質問/評価項目は、学力向上感や自分の進歩を強く実感できる授業の実現を妨げている要素(=ボトルネック)がどこにあるかを探すために設けた「説明変数」です。
上図中で上下両方向に伸びている棒グラフは、各項目の集計値と総合得点(Ⅰ~Ⅶの平均)との回帰式から算出した残差[近似線との距離]を表示しています。(cf. グラフ「強みの所在/改善課題」が示すもの)
上向きに伸びるグラフの棒は「活かすべき強み」であることを、下向きの棒は「弱点である可能性」があることをそれぞれ意味します。
上のサンプルでは、前回の結果でⅤ目標理解にボトルネックを抱えている可能性が示唆されていましたが、当該項目の改善があまり進まず、結果的にⅦ学習効果の上昇が妨げられた様子です。
他の項目の大半で「変化」はプラスの値であり、Ⅴ目標理解の改善(ボトルネックの解消)が進めば、Ⅶ学習効果も向上したはずです。
ボトルネックの解消には、校内の優良実践(当該項目で高い評価を得た授業での工夫や取り組み)に倣うのが最も確実で効率的です。高い評価は、自校の生徒が備える学習者特性との高い親和性を示唆します。
多忙な校務の中、研究授業や相互参観/実践報告の機会が持てない場合は、個票のコメント(下例)をご参照の上、その右側に印字されているQRコードからお読みいただける各項目の解説も参考にして下さい。
できる限りの改善努力を重ねたにも拘わらず、ボトルネックの解消が進まなかったとしたら、作戦そのものの見直しが必要ということです。
同僚の先生方の取り組みの中に新たなヒントを得て、別のアプローチからの改善を試みることで、停滞が打破できることもしばしばです。
❏ 大きな改善が見られたら、その理由を言語化
上例とは逆に、前回から大きく改善しているケースも少なくないはずです。7月実施と12月実施の間のわずか5カ月間で10ポイント以上も評価を伸ばしているケースも、決して珍しくありません。
こうしたケースで大切なことは、「何が奏功して学習効果が上昇したのか/どういった試みがボトルネックの解消に繋がったのか」をきちんと言語化する(=理由をはっきりさせる)ことです。
授業評価アンケートの集計結果を見て、大きな改善が見られたら、どんな工夫が奏功したのか振り返ってみて、それを可視化/言語化して教科内外に伝えましょう。その発信は、ボトルネックの解消が進まない同僚の先生方にも大きな助けになります。
色々と工夫して頑張っているうち、気づけば評価が上がっていたという認識で止まっては、効果的な取り組みの着実な抽出(継続し、さらに磨くべきものとそれ以外の取り組みの見極め)ができません。
個々の先生方が重ねた工夫を、言語化/可視化というプロセスを経て、教科内外の先生方と共有すれば、改善が遅れた授業でのキャッチアップも支援でき、教科全体/学校全体での授業改善も大きく進みます。その利益を享受するのは、ほかならぬ「自校に通う生徒」でしょう。
❏ 校内/教科内での相対的な位置も確認
ご自身の授業改善に向けた行動の効果検証に加えて、可能であれば、校内/教科内での相対的な位置の変化も確認しておきたいところです。
集計結果の分析をご依頼いただいている学校には、下図のような項目別の集計値分布を箱ひげ図でご提供していますが、その箱ひげ図にご自身の位置(集計値)を書き込んでみるのも好適です。
もし、箱の上端を超える(=上位4分の1に含まれる)ようなら、共有すべき実践として教科会などの場で積極的に発信をすべきですし、箱の下端に届かないところに位置しているなら、他の先生の実践の中から自校の生徒の学習者特性にマッチした手法を学ぶ必要があります。
以前は中央値を超えるところにいたのに、周囲の先生方の努力と工夫で相対的な位置が下がってきたような場合も、改めて周囲を見渡し、新たな学ばせ方を取り入れていくべきではないでしょうか。
❏ 模試や考査の成績、行動評価の記録にも照らして
学習指導の効果測定/評価は、多様なツールを組み合わせて多面的に行うもの。アンケートが測定を担うのは主に「科目学習への生徒の自己効力感」や「学ばせ方と生徒の学習者特性のマッチングの度合い」です。
他の成果(学びで得た成長や変化)は、それぞれに応じたツールで測定した結果に表れますので、以下の各項目にもきちんと着目して、これまでの指導を省みる必要があります。
- 授業評価アンケートで測定できる部分
- 模擬試験や外部検定の結果を踏まえて評価すべき部分
- ルーブリックなどを用いた生徒の学習行動を観察しての評価
- ポートフォリオに残った各種ログに照らしての評価
いずれに着目する場合も、場合も「前回の測定値との差分」(=当期の指導がもたらした変化)に焦点を当てて行うことが肝要です。
また、考査の結果から自分の授業を振り返ることも忘れないようにしたいもの。生徒の答案には、先生方のこれまでの指導の成果が現れますので、答案の採点は、力を入れてきたことがどれだけ実を結んだか、どこに不足があったかを探る絶好の機会になるはずです。
効果的な授業改善には先生方の協働が不可欠です。授業評価アンケートの集計結果が戻りましたら、教科会を開催し、優良実践の共有、今後に向けた課題形成(教科としての取り組み方針の策定など)を進めましょう。(cf. 教科会に期待される役割~ちゃんと機能していますか?)
ちなみに、以下は、ある学校で分析報告会のあとに行った教科会の次第です。ご参考になれば幸いです。( ↓ クリックで大きな画像を表示)
■関連記事:
- 授業評価アンケートの結果の見方、活かし方
- 授業評価アンケートの集計が終わったら
- 授業改善は進んだか(授業評価アンケートの前回比較)
- 優れた実践を見て言語化する(見取り稽古)
- 年度の後半で授業評価が下がる?
- 生徒の特性に合わせた教え方・学ばせ方のアジャスト
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一