生徒の特性に合わせた教え方・学ばせ方のアジャスト

授業評価アンケートの集計結果が伝えてくれるのは、生徒が身につけている学び方と先生の教え方/学ばせ方のマッチングの度合いです。同じように教えていても、クラスによって集計値が違うのは当たり前で、その違いは想定を超えて大きく出ることもしばしばです。
質問項目ごとの集計値から学習者の集団特性を素早く捉え、教え方/学ばせ方のアジャストを図ることも授業評価アンケートの重要な活用法の一つであり、引き出しの中にどれだけ教え方/学ばせ方の手札を持ち、局面に応じた選択ができるかどうかは授業者としての腕(調整スキル)の見せ所ではないでしょうか。(cf. 担当クラスごとの評価の違い

2019/09/05 公開の記事をアップデートしました。

❏ 学習履歴の中で身につけたものから生じる様々な違い

生徒が身につけている学習者の特性の違いには、既習内容の習熟や定着の度合いだけでなく、学習方策の獲得状況学ぶことへの自分の理由難易度や負荷への耐性、さらには先生がどこまで面倒を見てくれるかという期待に至るまで、実に様々なものがあります。
生徒一人ひとりがこれまでの学習履歴の中で経験したこと/獲得したことの総体が、集団としての学習者特性を形成しているので、ある学年やクラスで上手く行った教え方/学ばせ方が、今教えている生徒に対して通用する保証はどこにもありません。
例えば、あるクラスではターゲット設問を示すだけで「学習目標を示しているか」という項目で十分に高い評価が得られるのに、別のクラスではガクンと評価が下がることもあります。
問いの答えを考えさせた後に改めて学習目標を言葉にして伝え、ノートに書き取らせるようにしてようやく同じ評価が得られたとのこと。
課題解決のための協働場面を作るにしても、お題を与えただけでさっとフォーメーションを変えて話し合いを始められるクラスもあれば、より丁寧に段取りを踏んで誘導しなければならないクラスもあります。
生徒が自力で不明を解消するすべを前学期までの指導の中で身につけさせることができているかどうかで、「先生は、生徒の理解を確かめながら授業を進めている」という項目にも集計値に大きな違いが生じます。

❏ あらゆる材料を使い学習者としての特性を把握する

生徒が身につけている学び方に、教え方/学ばせ方をアジャストする際に、きちんと観察・把握しておくべきは、既習内容の理解や定着の度合いといった結果学力だけに限りません。
授業評価アンケートの結果に表れる数値の他にも、教室での学習者行動にも十分な注意を向けて観察する必要があります。
指示に対するレスポンスが薄ければ、そうした学びの場面に慣れていないのかもしれず、慣れるまでの仕込み/つなぎの指導が求めれます。
授業準備や予習課題への取り組みが不十分であったら、課題をこなすだけのレディネスが整っていないのかもしれませんし、その課題をこなすことの意義をきちんと理解できない可能性もありそうです。
期待したのと違う行動が生徒に見られたら、その原因と対策を考えて、色々と試してみる必要があるということです。
たとえ新しいことに生徒が戸惑いを見せても、打てる手がないか、自分の引き出しだけでなくほかの先生の実践にもヒントを探しましょう。

❏ 指導に込めた意図をしっかり伝えてきたか

授業評価アンケートで想定外に低い評価が出た場合には、先生ご自身が抱いている学力観/授業観が生徒に伝わっているか、十分に理解されているかも冷静に振り返ってみる必要があると思います。
生徒に期待する行動をきちんと伝えているか指導の方針をわかりやすく説明しているかが、個々の指導に込めた意図を正しく理解してもらう前提条件であることが、様々なデータの解析でわかってきています。
これまでに教えてきた学年では教室での時間を長く一緒に過ごしたことで、生徒も先生の考えをよく理解していたでしょうし、暗黙の了解もあったかと。でも、新しく担当したクラスではその前提は成立しません。
周囲の先生としっかり目線合わせをしつつ、学力観や授業観、学習観を改めてゼロから伝え直していく必要があるはずです。
また、同じ表現のメッセージでも、生徒が土台にしている価値観や学校に期待しているところが違えば、その受け止め方にも違いが生じます。
同じ学校でも学年をひと回りしてきたら、入学してくるときに生徒が抱いている学校への期待がガラリと変わっていることもあります。ましてや、異動や転職で別の学校に移ったときには尚更でしょう。
授業を通じて実現したいこと、生徒に身につけさせたいことを、生徒が理解できる表現と論理でしっかりと伝えていくことは、生徒が身につけている学び方と、先生の教え方/学ばせ方のマッチングを高めるための必須要件の一つだと思います。



先生方には日々の授業の中でご苦労も多いと拝察しますが、生徒もまた、学ぶことに何らかの苦労を日々抱えているはずです。それまでの学習履歴を通じて、生徒一人ひとりが獲得しているものもまた様々。
高所から一方的に指示を出したり励ましたりしても、すべての生徒にそれが届き、役立つものになるとは限りません。
生徒がいるところまでいったん降りて行き、課題に取り組む姿を間近でしっかり観察しましょう。その上で、登り方を見せながら、時に手を引き、一緒に山頂を目指して歩を進めることが大切ではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一