担当クラスごとの評価の違い

同じような教え方/学ばせ方をしていても、生徒の反応が全く違ったものになることがあるのは、先生方もご経験かと思います。
生徒による授業評価アンケートでも、同じ先生が同じ科目を担当しているのに、クラス間で評価結果に想像以上の差が生じることがあります。
アンケートが測定するのは、「先生の教え方」と「生徒が身に付けている学び方」もマッチングの度合いであり、クラスが備える集団としての学習者特性が違えば、同じ教え方をしていても生徒の反応(アンケートへの回答分布)が違ってくるのは当然です。
そうした特性の違いを早期に把握し、各クラスに合った指導に調整していけるかどうかも、腕の試されるところの一つではないでしょうか。

2015/07/16 公開の記事をアップデートしました。

❏ 生徒が経験してきた学びで、レスポンスは異なる

繰り返しになりますが、授業評価アンケートが測定しているのは、先生方の教え方(学ばせ方)と、生徒が備えている/それぞれの学習履歴の中で身に付けてきた学習者特性とのマッチングです。
それまでに経験してきた学びが違っていれば、たとえ同じような説明を受けても、それで理解できる範囲も違ってくる可能性があります。
慣れている教わり方/学び方は、生徒それぞれの学習履歴で異なり、その分布はクラスごとに違って当然。「同じように教えているのだから、生徒の反応(評価)も同じ」と考えるのは無理があります。
前年度までに同じ科目系統(教科)を担当していた先生が違えば、受けていた授業/学習履歴の中で生徒一人ひとりが形成してきた学習観や学習方策も違って当然でしょう。
想定外に低い評価となったクラスでは、4月の授業開き以降、生徒が課題に取り組む様子などを観察し、どんな学び方をしているか、どんなことができるのかを、きちんと把握するように努めていたでしょうか。
また、教科内で3年間/6年間を見通した指導の流れをきちんと共有していないと、年度の切り替わりで担当者(先生)が変わったときに、生徒の戸惑いが生じて、円滑な接続を妨げることもあります。

❏ クラスごとの特性の違いに対応する「調整スキル」

下図は、ある学校での授業評価アンケートのデータをもとに作成したものです。「箱+ひげ」の一つひとつが、一人の先生が担当しているすべて授業での集計値(評価項目は【指示と説明】「先生の説明はよくわかり、指示にとまどうこともない」)の分布を表しています。

画像


上図では、中央値(描画の都合上、表示していません)で降順でソートして、左から並べてあります。
評価結果が高い(グラフの左側に位置する)先生ほど担当クラス間での差が小さく、評価が振るわず、改善の余地が大きく残る先生ほど、担当クラス間での評価の差が大きくなっている様子が見て取れます。
高い指導技術(ここでは指示や説明の手法)があれば、どんなクラスでも通用する一方で、技術に不足を残せば、生徒側での理解力頼みにならざるを得ない、という解釈ができそうです。
指導技術の獲得途上で、説明や指示に使える有効な手札が少ない(=引き出しが小さい)うちは、対応可能な範囲も狭いはずです。
また、教室内外での観察を通してクラスが備える学習者特性(反応)を把握し、それに合わせた調整を行う中で、クラス間のバラツキが抑えられると同時に、指導技術そのものも向上すると考えることもできます。
なお、生徒の反応を把握するすべは、教室内での直接的な観察だけではありません。答案やワークシートといった提出物も有効な材料です。
生徒が真剣に説明を聞き、理解しようとしていたかという「生徒を評価する視点」ではなく、「教える側からのどんな働き掛け/伝え方が、生徒にどんな反応を起こさせるのか」に着目して観察に臨みましょう。
生徒のレスポンスは、先生の教え方/学ばせ方に対するフィードバックです。(cf. 理解の確認をこまめに行い、伝達スキルの向上を図る

❏ クラスごとの違いを捉えられない集計方法では…

せっかく授業評価アンケートを定期的に実施していながら、クラスごとで回答分布を把握できない集計になっている学校も少なくありません。
各教科の評価結果をひと括りにして「肯定的な回答が8割」という結果が得られたとしても、改善を要するクラスは見つけ出せませんし、倣うべき優れた指導手法の所在も埋もれてしまいます。
上の図で座表面の左寄りに位置する先生方がどんな手法で説明や指示を行っているかは、右寄りに止まった先生方にとって参考になるはず。
担当している授業の中で、低評価に止まる(=学ばせ方と学び方が不整合を起こしている)クラスでは対策が急務ですが、如上の「ひと括り集計」では、どこに改善課題があるかも把握できません。
クラスごとの状況をきちんと把握できる集計方法に切り替えていくことは、現場で頑張る先生方一人ひとりに、改善課題の所在を正しく知ってもらうためにも欠かせない要件の一つだと思います。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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