学習効果への寄与度が通例と外れる/偏りがある場合

この夏も各地の学校で行われた授業評価アンケートのデータが続々と届き、その分析に取り組む毎日を過ごしています。アンケートのご利用をいただきました学校には、心より御礼を申し上げます。
さて、別稿「授業評価アンケートの分析に用いる様々な手法」でもお伝えしましたが、アンケートのデータを分析するときには、目的変数とする項目(授業評価の場合は「学習効果」です)を選び、他の項目からの寄与度を重回帰分析という手法で推定します。

通例、目的変数への寄与度が最も大きいのは、「活用機会」(獲得した知識や理解に生きて働く場を与えるための問いや課題がきちんと用意されているか)ですが、時々、寄与度の順序が違うケースに出会います。
割とよく見かける「通例を外れるケース」は以下のようなものです。

  • 指示と説明」が突出して大きな値(寄与度)を示している
  • 目的意識」に分布のバラツキが大きく、寄与度が極端に高い

ちなみに、教科の特性から生じる「相関や寄与度の出方の違い」(例えば、言語活動が重視される外国語では、個々の活動に明確な目標が必要なため、他教科以上に「目標理解」との相関が強いなど)もあります。

❏ 「指示や説明」が突出して大きな寄与度を示すケース

先生の指示や説明のわかりやすさを尋ねた項目と、授業を受けての学力向上感が「ほぼ一致」するようなケースでは、「学びが先生の説明だのみ」になっていることが想像されます。
生徒が不明を自力で解消する術を持っていないと、先生の説明がわからなくなった瞬間にお手上げです。両項目の強固な相関も当然かと…。
こうしたケースでは、「学習方策」(この科目の学び方が身についた)の評価も低調な傾向にあることも、如上の想定/仮説を裏付けます。
また、「対話協働」(対話や協働を通じて、気づき/学びの深まりがある)も、通例より低い評価に止まるのも共通してみられる傾向です。
教え合い・学び合いが日常的に機能していれば、たとえ先生の説明に多少わからないことがあっても、周囲とのやり取りの中で、不明を解消することは十分にできますが、そうした習慣がなければ手詰まりです。
むしろ、先生の説明が最もわかりやすいとは限らず、同じ立場の人間/周りの生徒が一度かみ砕いた言葉の方が飲み込みやすいことも少なくないはず。教え合いは普段から多用したい「学ばせ方」の一つです。
当然ながら、「先生に説明してもらって理解する」という学習方策しか持ち合わせていない生徒は、学習者として自立できていません。
指示と説明が学習効果と直結している教室を覗くと、授業中に生徒が参照型副教材を開く姿もあまり見かけません。わからないことがあったときに取るべき行動を「学習」していないということだと思います。
アンケートを終えて校内の授業別集計値を解析したとき、ここで取り上げた「指示と説明の成否=授業を受けての学力向上感」の傾向が強く見られたら、以下の記事で触れたことにも少し意識を向けてみましょう。

自立的に学ぶための学習方策は、21世紀型能力でいうところの「基礎力」(言語、数量、情報の各スキル)に大きく依存します。基礎力を使う場、鍛える場はどの教科の学びにも存在するはずです。すべての教科のあらゆる場面で「学び方を学ばせる」ように心掛けましょう。

❏ 「目的意識」の影響をダイレクトに受けているケース

主体的な学びの実現度を測るための項目として、当オフィス推奨の質問設計では、学習方策とともに目的意識を質す項目を設けています。

それぞれの質問文は「この科目の学び方や取り組み方が身についたと思う」「自分なりの課題や目的を持って日々の授業に臨んでいる」です。
科目の学びへの目的意識が高ければ、それだけ真剣に授業に取り組むでしょうから、授業を受けての実感する学力向上感が高まるのは当然ですが、効果的な手立てもなく「生徒の目的意識まかせ」では困ります。
本時/単元の学びで到達を目指すべきこと(目標)を明確にし、獲得させた知識や理解に生きて働く場をきちんと整え、且つ対話による生徒間の気づきの交換を大きくしていけば、学習効果は十分に上がります。
目標理解、活用機会、対話協働の3項目だけを説明変数とする重回帰分析(目的変数は「学習効果」)の決定係数は 0.8 を優に超えていることから、「目的意識」が低くても学びの成果は保証が可能と考えられます。
実際、目的意識が低い授業/クラスで大半の生徒が「授業を受けて学力の向上や自分の進歩を実感する」と答えることも稀ではありません。
生徒の目的意識の強さ/弱さで、授業の成果(学習効果)がダイレクトに影響されているようなら、授業のデザイン/活動の配列に改善の余地がないか、まずは点検してみるべきだと思います。



本稿で取り上げたのは、説明変数のひとつが目的変数に対して極端に大きな寄与度を示しているケースですが、これとは逆に、本来なら、大きな寄与度(強い相関)が期待できる項目で改善を進めたのに、目的変数に有意な変化が見て取れないというケースもあります。
以下の拙稿でご紹介したのが、その一部です。個々の項目の集計結果を見るだけでなく、他の項目との相関などにも着目が必要です。

その他の項目でも、これまでの分析の中でわかってきたことが多々あります。こちらのページに記事をまとめてありますので、お時間の許すときにご高覧いただければ、この上ない喜びです。
継続してアンケートをご利用の学校の先生方には、「授業改善は進んだか(授業評価アンケートの前回比較)」もご覧いただきたく存じます。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一