授業内における学習者の活動性が高まることで、授業を受けて学力や技能の向上をより強く実感できたり、苦手意識の発生や増大を抑制できたりといった効果があることは、既にデータで確かめられています。
これをもう一歩進めて、「深い学び」に繋がっているかどうかを確かめようというのが、以下の質問文(授業評価項目)に込めた意図です。
実際のアンケートで集めた回答を解析した結果は、別稿「対話によって学びはどこまで深まったか」にてご確認ください。
【対話協働】
話し合いなどの協働で、気づきや学びの深まりが得られる。
2019/04/04 公開の記事をアップデートしました。
❏ 知識理解の相互補完と課題解決に向けた発想の交換
対話的な学びのうち、その入り口に一番近いところにあるのは、生徒同士の「教え合い・学び合い」でしょう。
理解しなければならない事柄や、解決しなければならない課題を目の前にして、手持ちの知識や発想が不足していたとしても、教え合い・学び合いを通して互いに補完を図ることができるはずです。
別稿「説明がわかりにくいと言われたら」でも書きましたが、先生の説明を待つのではなく、様々なコンサル先を自前で持つことで、分からないことがあっても立ち止まらないようにさせたいもの。
そのコンサル先の一つが、周囲の友達です。
まずは、自力で教科書や参考書を読んで理解を試み、わからなければ第2のコンサル先である友達に訊き、それでもダメなら先生に質問する。理解できたら、今度は自分がほかの生徒にとってのコンサル先になるという「順番」も大事にしたいものです。
課題解決に取り組む場面でも、個々の持つ発想だけでは切り口が見つからないときに、互いの発想を持ち寄り、対話の中で交換し合えば、集団知を活用したブレイクスルーも生まれやすくなるはずです。
❏ 答えが一つでない問題、解法が確立していない問題
新しい学力観の下では、「正解が一つに決まらない問題」や「解き方そのものを考案させる問題」を目にすることがますます増えてきました。
様々な考え方がある中で、ある人の立場(考え方・価値観)であれば、この問いにどんな答えが導かれるかという、これまで見かけなかったタイプの問題も、方々で見かけられます。
そうした問題に対応するには、友達同士との討論や資料との対話を通して、様々な考え方を知った上で、どこに判断の軸を置くかを決める方法を学ぶ必要があります。
データや資料を見ながら、その解釈についてあれこれ意見を出し合い考えを深める思考のトレーニングは、目先にある大学入試への対応のみならず、生徒たちが社会に出てから向き合うことになる、
「解決の方法が確立されていない問題」
「立ち位置により最適解が異なる問題」
の解決に協働で取り組める人に育てる上でも、しっかりと整えさせたい必要な準備だと思います。
十分な準備を積み上げ、社会に巣立たせていくには、3年間/6年間を通じた教室の中でも「対話的な学び」をこれまで以上に多く経験させる必要があるのではないでしょうか。
❏ 読んで理解したことをもとに考えた結果の言語化
資料やデータを自力で読んで理解する力がこれまで以上に高い水準で求められるようになるのは、別稿「教科書をきちんと読ませる」や「理解したことをきちんと覚えることの先に」でお伝えした通りです。
目の前のテクストを自力で読み、しっかりと考えることを生徒に求めようとするとき、そうした指示を与えるだけではうまくいきません。
活動の先に、自ら理解し考えたことを「他者に伝える」場面がきちんと用意されていることは、学習者にとって活動への強い動機の一つです。
また、話し合いをさせるにしても、生徒同士が「協働で解を導くべき課題」を共有していないと、活動が自己目的化してしまい、そこに充足感や学びの成果は生まれません。
主体的・対話的で深い学びをデータから考えるで書いた通り、
- アクティビティの配列よりも適切な課題の付与を優先
- 活動は、学ぶことへの自分の理由を見つけさせてから
という鉄則を守ることが、対話的な学びに積極的に取り組ませ、学びの成果を大きくすることに繋がります。
❏ 課題にじっくり取り組ませ、深く確かな学びに
授業内での対話を充実させ、活動性を高めることで、気づきの増大や学びの深まりを実現したら、課題の仕上げは個人のタスクに戻してじっくり取り組ませることが大切です。
“アクティブ・ラーニング”で学習時間が減る?でもご報告しましたが、いわゆる”アクティブラーニング”的な授業が広く行われるようになった学校で、生徒の平均学習時間が減ったというデータがあります。
話し合いの中で何となく答えらしきものが見つかって、わかった気になり、そこで学びを止めてしまう生徒もいるでしょうし、そもそも協働に参加せずフリーライダー(ただ乗りする者)でいた生徒もいたかもしれません。
協働学習を”集団としての調和”で終わらせないためにも、教室で学んだことをもとに、改めて課題にじっくりと取り組み、自分の答えを仕上げさせることを習慣にしましょう。
そうした経験を通して、答えを仕上げる中で学びは深まることを実感した生徒は、授業後の学習にも目的意識をもって意欲的に取り組むようになってくれるはずです。
◆ 改善のための必須タスク:
話し合いや教え合いは、知識の不足を互いに補い、課題を解決するための発想を拡充する上で欠かせない活動です。相互啓発の機会拡充を図りましょう。生徒自身が抱えた不明や疑問に対しても、すぐに答えを与えずに、教科書や資料などに当たらせたり、周囲との相談の中で解決させたりする中で、学習方策の獲得を促しましょう。
◆ さらなる改善を目指して:
対話的な学びに目的意識を持って取り組ませるには、協働で解決すべき課題の設定が不可欠です。また、話し合いや教え合いに加え、教科書や資料を読んでのテクストとの対話などを通して得られた気づきや理解を深く確かな学びに組み上げるには、課題に立ち戻ってじっくり取り組み、自分の答えを仕上げる場の確保が必要です。
追記:
アクティブラーニングという言葉が広く使われるようになったのはいつのことかと、ふと思いました。Amazonで書籍を検索してみたところ、出版年月の古い順で先頭に表示されたのは2010年に出版されたもの。
用語の使用が概念の誕生に先行することはありえませんので、アクティブラーニングが教室に持ち込まれるようになってから少なくとも十数年は経過しているようです。
授業の中に何らかのアクティビティが組み込まれたからといって、能動的・活動的な学びが実現したとは言えません。体と口が動いていても、学習者の頭の中がアクティブになっているかは別の話です。
仮に活発に行動し、活動量が高まっていたとしても、指示に従うだけだったり、目的を理解していなかったりでは、”active”の様々な訳語のうち、活動的には該当しても、自発的、能動的、積極的といった他の訳語には当てはまりません。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一