理解したことをもとに課題の解を考える機会

読んだり聞いたりして理解したことをもとに課題への解を考えるとともに、その結果を第三者の理解と共感が得られるように表現する力は、新課程への移行でますます重視されるようになります。
授業毎にきちんと「学び終えて解を導くべき課題」を用意することは、獲得した知識・理解に「生きて働く場」を与えることも意味します。
習ったこと(=知識・理解)をもとに考える(=それらを活用する)機会を、授業内外の課題で整えることは、新しい学力観に沿った学ばせ方への転換を図る上でのスタートに立つことにほかなりません。

2015/05/15 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 活きて働く知識・技能の獲得に課題解決の場は不可欠

獲得した知識が生きて働くものとなっているかどうかは、それらを課題の解決に使わせてみないとわかりません。
新課程でますます重視される思考力もまた、課題を前にして発動し、対話を通じて拡張します。「習ったことを用いる課題解決の場」を用意することは、これからの授業のデザインで最も重要なことの一つです。
実際、「知識活用の機会としての課題が用意されているか」と「授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できるか」のクラス別集計値には、相関係数で0.9に達するような強固な連関が観察されています。
学習効果への寄与度の上位にある、理解確認、目標理解、学習効果、授業内活動(対話的な学び)は、下図に示す通り、獲得した知識を活用する機会が正しくセットされているかどうかで大きく値が異なります。

引用元(知識活用の機会を整えて授業改善を加速

習ったことを用いた課題解決は、自らの考えを言語化する機会を伴いますので表現力のトレーニングにもなり、書き上げた答案の自己/相互評価から生徒が学ぶものも小さくないはずです。
教えたことをそのままの形で尋ねてみても、覚えたかどうかを確かめるだけであり、本当にわかったかどうかは別問題として残ったままです。生徒の側では「言われた通りに覚えたけど…」という認識に止まりがちで、「できるようになった」という実感に欠けます。
達成感は自己効力感やモチベーションの原資であり、記憶して再現させるだけの授業では、学習意欲を引き出せません。

❏ 学びの仕上げにじっくり取り組ませる機会として

課題付与の工夫が家庭学習の習慣形成に大いに役立つことも様々なデータが示唆するところです。振り返りのためのアウトプットを通してインプットの不備に気づければ、不明や疑問を解消するインテイクに取り組むことで、生徒は答えの仕上げに向かえます。
丁寧に教えて理解させたら、そのまま覚えさせるのではなく、その理解をもとに答えを考えるべき問い/課題を与えることを徹底しましょう。
対話的な学びを充実させても、そこでの成果を使って課題にじっくり取り組ませないと学びの深まりには繋がりません。くれぐれも、協働学習を”集団としての調和”で終わらせないようにしたいものです。

そもそも、対話的な学びは協働で課題の解決を図る場で生まれるものですので、適切な課題が用意されなければ有為な対話は生まれず、せっかく配列した活動も自己目的化してしまいかねません。

❏ 課題に挑ませる前には理解の確認を確実に

せっかく活用機会としての課題を用意しても、生徒の側で十分なレディネスが整わないうちに挑ませては、返り討ちの危険を増やすだけです。
課題に挑ませる前には、そこまでの理解をきちんと確かめましょう。

確認には、そこまでに理解したことや、次の問題へのアプローチなどを説明(=言語化)させてみるのが好適です。隣同士などで行わせれば、わからない部分が残っていたとしても、教え合いで解消できるところが小さくないはずです。
生徒同士のやり取りを観察して、生徒同士では解消できない不明が残っているようなら、先生の説明で補足したり、参照型教材へのコンサルを促したり適切な対処を選択しましょう。
活動させるのは観察のためでもあります。何かさせてみないと、生徒の内面で何が起きているかのぞき込むことはできません。

❏ 活用機会を整えるうえでの支障を取り除く工夫

獲得した知識・理解の活用場面を整えようとすると、どうしても支障になるのが、「クラス内に生じた学力差」と「授業時間の不足」です。
課題の難度はどこに設定しても、すべての生徒にマッチするものは作れません。発想を切り替えてひとつの課題から複線的なハードルを作るようにしてみては如何でしょうか。
教えることが多くて、課題を与えて活用機会とするのは難しいのは承知しておりますが、思考力・判断力・表現力を高めようとすれば、そうも言ってはいられません。
5分間アウトプットの費用対効果でも書いた通り、わずかでも時間を確保してアウトプットさせた方が学習内容の定着が進み、次の授業から土台にできるものがより大きくなります。
また、ターゲット設問を冒頭で示して解くべき問いを認識させれば、話して聞かせずとも、教科書や副教材を生徒に自力で読ませて理解させることができるようになり、授業の進行を加速することができます。
授業の終わりに結論を出さなければならない、というルールはありません。結論を出さずに終える授業というのもあり得るはずです。

❏ 出題研究を充実させて好適な課題を探す

大学入試の過去問や、検定試験の問題など、生徒たちが挑もうとしているターゲットを引用元とする課題を積極的に活用していきましょう。
正解を導けたこと/自力で仕上げられたことそのものが、進路希望を実現する自信や励みになるはずです。
新課程への移行で、大学入試問題は大きく変わりますので、これまでに蓄積した演習問題のストックでは用をなさない場面も増えるはずです。
出題研究の範囲を広げ、好適な課題を十分にストックしておくこともまた、授業改善に欠かせない準備作業ということになります。

◆ 改善のための必須タスク:

習ったことを新たな課題を解決する中で使ってみる機会は、きちんと理解できていたかを確かめる上でも不可欠です。授業を終えて生徒が挑むべき課題や本時のポイントを説明させるミニ論述課題を導入フェイズで示しておき、終業前にそれらに挑ませる時間を確保するようにしましょう。仕上げは宿題にすれば家庭学習も促せます。

◆ さらなる改善を目指して:

習ったことを組み合わせて初見の課題に解を導いた経験は、思考力や表現力を高める上でも欠かせません。課題に答えを導く活動に生徒の協働で取り組ませれば、対話的な学びも一層の充実が図れますし、個々に仕上げた答えをシェアさせれば、生徒間の相互啓発も働き、学びはさらに深く確かなものになることが期待できます。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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