生徒による授業評価アンケートは、授業改善に向けた課題形成とこれまでの改善行動の効果検証のために行うものですから、集計結果が良かったかどうかよりも、結果が出た後の個人/組織の行動の方が大切です。
健康診断を受けて気になる数値があったのに生活改善をしないとエライことになるのと同じかもしれません。
❏ 生徒は授業を受けて学力の向上を実感しているか
教科学習指導を評価し、妥当性を検証するときは、
- 成績の伸長(←模試や考査のスコア)
- 学習方策の獲得(←行動観察の結果)
- 生徒の学びに対する意識(←アンケートやインタビュー)
といった多角的な指標が必要であり、授業評価アンケートが担うのは言うまでもなく「生徒の学びに対する意識」の部分です。
その中で、最も大切なのは「授業を受けて学力の伸長や自分の進化を実感できるか」という問いに生徒がYESと答えられるかどうかです。
学力の伸長や自分の進歩を実感することで、その科目への興味を持ち、学び続ける意欲を維持・増進することはデータでも検証されています。
❏ 結果に照らし、それまでの授業改善行動を振り返る
集計結果がでてきたら、まずは如上の質問への肯定的な回答がどのくらいを占めているか確認しましょう。
必達目標は9割でしょうか。生徒全員がYESと答えてくれればベストですが、様々な状況もあり100%を常に達成するのは困難です。
学力向上を実感している生徒の割合(あるいは回答を換算した得点)が前回までの結果と比べてが改善していれば、授業改善に向けたこれまでの努力が妥当で、効果を得たということになります。
また、肯定回答率や得点を、校内・教科内の分布と照らし合わせてみることで、評価を相対化してみることも必要だと思います。単独の数字を見ても、良否の判断がつきません。
❏ 学力向上感を妨げているボトルネックを探す
授業評価アンケートの集計結果を見ていると「わかりやすさは向上しているけど、伸びている実感が増えてこない」というケースもあります。
繰り返しになりますが、授業評価アンケートを用いて授業改善に向けたPDCAサイクルを回すときの最重要指標(目的変数)は「授業を受けて学力の向上や自分の進歩を実感できる」と答える生徒の割合です。
他の質問は、学力向上感を妨げている要素(ボトルネック)がどこにあるかを探すための説明変数と考えるのが好適です。
下図は、当オフィスが監修している授業評価アンケート(商品版)での個人票からの抜粋ですが、この方法に限らず、評価項目ごとの集計結果を相対化できるようになっていることが重要です。
画像をクリックすると外部サイトの詳細説明ページが開きます。
❏ 授業改善に向けた先生方の協働に展開
個々の先生がご自身の授業について改善プランを立てるのと並行し、教科内で高い効果を得ている指導の手法を互いに学ぶ機会を作ることも欠かせません。
手応えのあった方法、大きく改善に繋がった工夫などを、教科の先生方が集まる機会(教科会など)で互いに伝えあう機会を持ちましょう。
こうした機会を定例的に設けている学校では改善が加速し、評価値平均の上昇と授業間差異の縮小が観測されています。
❏ 優良実践を探すまでのプロセスを簡略するシステム化
高い指導効果を得ている授業は、生徒による授業評価アンケートの結果や模試などの成績推移から特定できます。
教科内の全授業での項目別集計値を一覧にした表を作り、目をこすりながらピックアップしていくのは、思いのほか大変ですし、個人票から探せないことには「発信」に繋がりません。
集計値から描いた箱ひげ図を用意して、ご自身の位置をそこに書きこんでもらうことも検討しましょう。
❏ 「良さ」を言語化して自分の授業に採り入れる
如上の実践報告に加え、優れた評価を得た授業での実践を、各教科の先生方が互いに学び合う機会として、実際の教室での様子を観察する「相互参観」の機会も整えていく必要があろうかと存じます。
以前の記事「優れた実践を見て言語化する(見取り稽古)」で申し上げた通り、優れた実践を見つけて、その良さを言語化するとともに、互いの観察を持ち寄って、授業観をブラッシュアップすることが大切です。
また、別稿「研究授業の実りをより大きくするために」でご紹介しているのは、授業評価アンケートを定期的に実施している学校で実際に行われている事例です。
6つのフェイズで構成されますが、まずは手始めに最初の2つ「授業を観ながら参観メモを起こす」「参観メモの回し読みから始める小グループでの協議」を行ってみるのは如何でしょうか。
1学期も終盤を迎え、学期末アンケートの実施に向けた準備も大詰めかと思いますが、この機に授業評価アンケートを行うときの最小要件 を満たしているかどうか点検してみることをお奨めいたします。
アンケートの質問設計と集計方法が、課題形成と効果検証に利用できるだけの要件を満たしていない場合、本稿でご提案した「集計結果が出た後の行動」が起こせなくなる可能性があります。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一