考査の結果から自分の授業を振り返る

定期考査の答案には、先生方のこれまでの指導の成果が現れますので、答案の採点は、工夫を重ね、力を入れてきた「学ばせ方」がどれだけ実を結び、どこに不足があったかを点検するまたとない機会です。
定期考査の答案返却から終業式へと続く時期はいつも以上に慌ただしい日々と存じますが、採点を通して気づいたことは(簡単にでも)メモに残し、これからの指導をどう工夫するか、少し立ち止まって考えるときの材料にしたいもの。長期休業期間中に指導計画の修正や教材の整備を進めるときには、このメモを広げて課題の整理から始めましょう。

2018/12/25 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 生徒の答案は指導の効果を映し出す「鏡」

定期考査は、生徒にとってそれまでの学びの成果を試す機会ですが、先生方にとっても指導の成果を検証するための極めて重要な材料です。
多くの生徒が不正解に終わった問題や頻出した誤答には、それぞれそういう結果になっただけの「理由」があるはずです。説明の仕方、学ばせ方、前提理解の想定ミスなど、考えられるところは様々でしょう。
今教えている生徒には、答案返却でのコメント、補習や課題などで、再習熟を図ったり誤解を解いたりすることもできるでしょうが、根っこの理由を解消しないことには、次の指導機会にも同じ問題を抱えます。
教えたことをそのまま覚えて答案上に再現することを求める設問だけでは、「生徒の勤勉さ」しか測定できず、先生方のご指導のどこを改めるべきかを考えるにも「もっとまじめに取り組ませるべきだった」「反復機会を増やした方が良かった」くらいの改善策しか浮かんできません。
教室で学ばせたことをもとに、生徒がしっかり考え、その結果と過程を表現することを求める出題にして、思考力(→全教科でコミットすべき能力・資質の涵養)などが正しく測れるようにする必要があります。
今度の定期考査の問題作りに取り掛かる前に、これまでのご自身の出題において、前者タイプと後者タイプがどのくらいの割合になっているか改めて点検してみても良いのではないでしょうか。

❏ 可能ならば、答案のコピーも残しておく

採点済みの考査答案をスキャナにかけてPDFなどで保存している先生がいらっしゃいます。「手間が増えるのは事実だが、必要な時に見返して指導改善のヒントを得ることもあるし、次年度の授業でサンプル答案として用い、生徒の学びを深めるのにも役立っている」とのこと。

考査で出題したすべての問題について、精緻な誤答分析をするのは時間的に到底無理でしょうし、得られるものの大きさと比べれば、コスト・パフォーマンスも優れているとは言えません。
しかしながら、これまで力を入れて指導してきたことが学習成果としてどこまで生徒のものになっているかを測ることを意図した設問に対象を絞って、じっくりと答案に目を通すことなら可能かもしれません。
電子データで残しておいた答案が手元にあれば、終業式を終えて、少し時間が取れるようになったときに改めて見返すこともできるはずです。
次年度のカリキュラム/指導計画を起こすときにも、ここで保存しておいた生徒答案を見返す中で、更なる指導改善へのヒントが得られます。少なくとも、今年踏んだ轍を再び踏むリスクは下がるはずです。

❏ 考査答案に加え、レポートやポートフォリオのログ

本稿のタイトルは「考査の結果から自分の授業を振り返る」ですが、指導が所期の成果を得たかどうかを振り返るときの材料は、ほかにも色々とあるはずです。
提出させたレポート、発表で使ったプレゼンテーション、そこで用いた自己/相互評価のシートなどにも、指導がひと区切りついたところ(単元の切り替わり、学期末、学年末)には改めて目を通したいところ。
時間をおいて改めて読んでみると、実際の指導をしていた時に見落としていたことに気づくことも多々あります。
教育ICTの普及も急速に進んでいますので、紙(コピー)で保管していた時にくらべ、紛失のリスクも少ないでしょうし、検索や編集、再利用も簡単です。生徒のプレゼンだって動画でとっておけます。
当然ながら、ポートフォリオに残ったログ(特に、体験のたびに感じたことをしっかり考え、言語化&記録させた結果であるリフレクション・ログ)は、指導を振り返る時に欠かせない極めて重要な資料です。
授業内の活動評価にルーブリックを活用しているのであれば、学期当初と学期の終わりに近づいたときで評価の分布を比べてみることで、到達目標を達成した生徒/近づいた生徒の割合から、先生ご自身の指導の成果も測れます。

評価分布にあまり改善が見られない項目があったとしたら、指導の方法を見直す必要があるのは当然ですが、中には評価をする機会そのものがあまり持てなかった項目もあるはず。生徒の活動場面の拡充を図る方向で「学ばせ方」の見直しが必要ということだと思います。活動させるのは観察のためであり、活動させないことには観察も評価もできません。
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言うまでもありませんが、注力してきた指導の成果を考査の結果に照らして測定するには、それに応じた出題である必要があります。指導目標と指導方法が変わったら定期考査の問題も更新しましょう。
その起点となるのは、生徒が志望する大学群などの出題研究。これを怠っては、測るべきところと違う場所にスケールを当ててしまうリスクも抱えます。出題研究にはできる限りの力を入れましょう。

また、そうした問題の一つひとつに、生徒がどれくらい正解できるか、どんな答案を起こせるかもしっかり予想しておきたいところ。練習を積み、正しく正答率の予測ができれば授業設計も最適化が図れます。
ご多忙の時期を迎えるからこそ、大事なことをやり損ねないよう、今後の予定(考査問題を作るところから休み明けの指導を練り直すところまで)をしっかり見渡して、今から計画を立てておくことが大切です。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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