新しい評価の実行可能性を高めるための工夫

新しい学力観への転換が図られる中で、学習指導の方法の工夫と開発が進んできました。新たな指導法を開発・発見すると、すぐに教室で試してみたくなりますが、ぐっと立ち止まって「評価はどうする?」と自問してみましょう。ここに来て、学習評価の改善も本格化な取り組みを始めた学校も少なからず見受けられるようになってきました。
学習の「結果」と「プロセス」の双方について「到達点」と「変化量」を視点に把握する必要があるのは前々稿前稿で申し上げた通りです。
学習評価に、開発と運用の両フェイズで、これまで以上の手間と負担が生じるのは避けられませんが、いかにしてコスト増を抑えるかも真剣に考える必要があります。先生の手間に加えて生徒の負担でも、コスト超過では導入に踏み切るのは不可能。ましてや継続する中で改善を重ねていくことなど望むべくもありません。
すべての評価を、全員に対して、常時行うのは非現実的です。

  • その時期において指導に重点を置く項目を優先して評価する
  • 遅れが目立つ/成長が著しい生徒を重点的に観察する
  • 生徒の自己/相互評価の結果も積極的に活用する

といった姿勢で臨んでこそ、評価計画の実行可能性を確保できます。

❏ 評価の重点項目は、時期ごとの指導目標で決まる

評価というのは、大雑把に言えば、その先をどう進めるのが最適か判断するために、目標を達成できたか/目標にどれだけ近づけたかを測定する行為です。よって、目標のないところに評価の必要は生じません。
3ヵ年/6ヵ年を通して学びは進んでいきますので、時期や単元に応じて重点的な指導/学習の目標が存在します。評価の観点もそれに応じて選択的に配列するという発想を持ちましょう。
学習目標や指導主眼によって、評価を行える項目は違います。評価を行う機会がないのに評価をしようと思っては矛盾を抱えるばかりです。コスト超過以前の問題として、論理的に不可能ですよね。
教科書の単元進行や年間授業計画に照らしながら、どの時期に何を重点的に評価するかを考えましょう。
年間指導計画は、基本的に単元で進んでいきますから、単元固有の知識や理解、技能については単元を終える時に「生きて働くようになっているか」を測定するための単元テストを実施すればOKです。
学習の開始時点で作らせておいた「仮の答え」を保存しておけば初期状態との差分(変化量)の測定も可能ですよね。

❏ 行動評価なども単元進行と結び付けて優先順位

学習方策や学びの姿勢、協働での課題解決の場でのふるまい方といった「観察に基づく行動評価」が必要なものや、ポートフォリオに残されたリフレクション・ログなどから把握すべきものについても、それらを獲得させる/評価するのに好適な単元や場面があるはずです。
縦方向に学習単元や学びのイベントを、横方向に評価項目を配したマトリクスを用意して、交点にあるセルに、評価を行うときの規準(到達状況を生徒を主語にセンテンスで書き出したもの)を書き込み、以下のような区分で優先度をマークアップしてみるのは如何でしょうか。
★★★ 機会を設け必ず評価を実施する

    当該期間の評定に組み込むことになっているもの
 ★★ 優先的に評価機会を設ける

    単元の特性上、評価が比較的容易なもの、

    先生方が協働で評価手法の開発に当たっているもの
  ★ 機会があれば評価を行う

    他の時期に行う重点的な評価を補完し得るようなもの

    評価手法の開発に向けた試行段階にあるもの
 無印 原則的に評価を行わない(観察のみ)

    観察で気づいたことはメモに起こして記録する

指導期間を終えるときに獲得させたいことは、3年間/6年間を通した計画のどこかで評価の機会を設ける必要がありますので、如上のマトリクスで抜け落ちがないかをしっかり点検しましょう。
もし抜けているものがあったら評価機会を見つけなければなりません。ときには指導計画そのものに手を入れて、評価機会を新たに作りださなければならないこともあるはずです。

❏ 評価手法の開発でも余計な手間を増やさない

評価方法の開発でも、手順を間違えると二度手間・三度手間になりコストを押し上げるばかりか、整合性を失うリスクがあります。
行動評価などに用いるルーブリックには、汎用タイプのコモンルーブリックもあれば、教科や科目の特性に応じてアレンジしたものや個々の課題や学習場面ごとに作成する採点ルーブリックもあります。
これらを個々別々に作るのでは、手間が増えるばかりか、互いの整合性も失われます。
普通に考えると、最初にコモンルーブリックを作り、それをベースに個別のものを作るという手順が想定されるかもしれませんが、これでは上手く行かないケースも少なくないように感じています。
まずは、学習場面ごとのルーブリックを作って、実際に使いながらブラッシュアップして、ある程度整ったところで、それらを持ち寄り、共通項を抽出して教科ルーブリックを作成、また暫く使ってみて整えたところで、教科を跨いだコモンルーブリックに、という「下から上に」で進めていく方が効率的なこともあります。
当然ながら、最上位のコモンルーブリックが出来上がったら、今度は逆に「上から下に」流していき、教科ルーブリックや採点ルーブリックにも学校としての統一性・整合性を高めていく必要があります。
言うまでもありませんが、最初に作る、使用場面を最も絞ったルーブリックを作成するときにも、校是とする授業観や学力像をしっかり踏まえておかないと、後の手直しが大きくなるリスクが膨らみます。
評価基準は、ある手順で一度作ってしまえばそれで完成というわけにはいきません。評価規準は使いながらブラッシュアップとお考えいただくのが好適です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一